Flying Stars
あんたの背中を追いかけて、あたしはここまで来れたんだ
「てな訳で、ライヴまで後一週間を切った!!2人共、しっかり頑張ってくれよ!!」
「お前もな」
「だいぶ、いいんじゃないかぁ?このバンド♪空翔宿星!!」
『せやったら、一緒にバンドやるか?柳宿』
あれから一ヶ月
翼宿の知り合いだという鬼宿と知り合い、早速、3人組バンド「空翔宿星」が始動した
翼宿が早くもライヴをブッキングし、3人はいち早く練習に取り掛からなければならなかった
『バンドだと!?何を言っているんだい、柳宿!!』
『そうよ・・・あなた進路もまともに決まってないのに・・・』
最初は、自分の父と母は自分の希望に反対した
しかし、横から入ってきたのは兄の呂候
『いいじゃないか。父さん、母さん。柳宿がやりたいって言ってるんだよ?やらせてあげれば』
この兄の言葉で、両親は自分のライヴパフォーマンスを見て判断を下すと約束してくれた
「しかし、柳宿。お前、キーボード上手いな!!お前でよかったよ!!」
鬼宿は、柳宿のピアノの腕に感動していた
元々、柳宿は父親からピアノを習っていたが、2年前にその父親が事故死した
今は母親も再婚し、いちから家庭はスタートしているが、柳宿は父親の死と共にピアノを辞めたのだ
そんな中、声をかけられ、柳宿は再び鍵盤に指を置いたのだ
最初は慣れないバンド練習の中で指がついていくのが大変だったが、翼宿も鬼宿も親切に指導してくれたので、今に至る
「そんな・・・たまと翼宿のお陰だよ」
「頑張ろうな、ライヴ!!」
「うん!!・・・あ。そういえば、たま・・・」
「ん?」
「翼宿が・・・前のバンド辞めたって本当?」
「あぁ~、俺もよく聞いてないけどそうらしいなぁ」
翼宿は、休憩室で煙草を吸っている
「・・・あたし、ちょっと行ってくる!!」
先方で、柳宿は鳳綺に翼宿が「FIRE BRESS」を抜けたという情報を聞いたのだ
勿論、鳳綺は自分と翼宿がバンドを組んでいる事をまだ知らないが
もしかしたら、自分のせいかもしれないと要らぬ責任を感じた柳宿は翼宿に直接聞いてみる決心をした
「翼宿・・・」
「何や?」
休憩室で煙草を吸いながら、楽譜を見ていた翼宿に声をかける
「あのさ・・・前のバンド・・・辞めたの?」
「・・・あぁ」
「どうして?あたしと・・・バンド組むなんて言ったから?」
そこで、翼宿は笑った
「ちゃうて。元々価値観合わなかったんやて。前、言うたやろ?他の奴らはファン作りたい思いでバンドやっとったけど・・・俺はそうやないて」
「それは聞いたけど・・・」
翼宿に初めて出会ったバンドから、翼宿が抜けるのは少し心細い事でもあった
勿論、掛け持ちは難しいから、いつかは抜けるかもしれないと思っていたが
あくまでやむおえない事情だと思っていたから
「・・・そんな気落ちすんな。お前のせいやない。俺かて、色んな奴らとバンド組みたかったんやて」
翼宿は、柳宿の頭をコツンとごつくと、灰皿に煙草を入れて立ち上がった
「・・・翼宿!!」
その呼びかけに翼宿は振り向いた
「あたし・・・頑張る。声かけてくれたあんたの為にも・・・」
彼を支えていかなければならないのだ
しばらく唖然としていた翼宿だったが
「ヘマしたら、承知せぇへんで」
親指を突き出した
そしていよいよ
ライヴ当日
「あの翼宿が新しいバンド組んだんだって!!」
「今日が初ライヴよ!!」
「え~!?そんなの知らなかった!!当日券でもいいから、絶対見てやる!!」
ライヴハウスの前には、人だかりが朝から出来ていた
おおっぴらにライヴハウスの社長がHPでバンドの宣伝をしたもので、当日になってライヴハウスに詰め寄るファンが急増したのだ
「柳宿!!」
メイクも衣装も張り切った柳宿は、ライヴハウスに入る途中に声をかけられた
「鳳綺!!」
「あんた・・・聞いたわよ!!翼宿と・・・バンド組んだんだって!?」
「へへ・・・まぁ」
「あんた、いつの間に・・・進路は?」
「このライヴを見て・・・親が普通に高校進学させてくれるか決まるんだ」
「そうなんだ・・・」
「見てて!!きっと頑張るから!!」
「FIRE BRESSから翼宿が抜けて寂しかったけど・・・あんたと一緒なら大丈夫そうね!!・・・じゃあ、頑張って!!ちゃんと見てるからね!!」
鳳綺は、軽く柳宿の肩を叩くとライヴハウスの列へと向かっていった
「柳宿」
続いて、声をかけられ振り返ると家族が立っていた
「あ・・・」
「今日は、頑張るんだよ」
呂候は、そう言って微笑んだ
「無理・・・しないのよ」
母親もそう励ます
「うん・・・頑張るから」
父の方は特に見ずに、そう返事をした
「おぉ、柳宿。おはよ」
「おはよう・・・」
初めて楽屋に入ると、鬼宿がもうドラムスティックを磨いていた
「いよいよだなぁ」
「そうだねぇ。もう外にもお客さんいっぱい!!」
「緊張してるか?」
「まぁ・・・ちょっと」
「何だか元気ないけど?」
「へっ!?」
「大丈夫か?」
正直不安だった
家族の顔や親友の顔ファンの顔を見て、自分は認められるだろうか
夢を見られるだろうか
足手まといにならないだろうか
色々と・・・
「正直・・・ね。家族にさ、このライヴで高校進学出来るか否か決められるんだ。ある意味、大企業の面接にでも挑戦する感じ。まだ、正直自信なくてさ・・・」
「そ・・・か」
すると、後ろに人の気配を感じた
振り返ると、翼宿が立っていた
「翼宿・・・」
つい先日、翼宿に頑張ると宣言をしたばかりなのに自信喪失してしまった自分を見られ、柳宿は咄嗟に恥を感じた
しかし、翼宿は柳宿の頭をくしゃりと撫でてこう言った
「不安なんは、みんな同じや。俺かて、今日は初めてのボーカル。たまかて、ステージに立つんはまだ2回目なんや。人の目が気になるし、いつまで経っても自信なんか持てん。せやけどな、大切なんは、いかに俺らが楽しく演奏出来るか・・・やろ?」
その言葉に、柳宿は顔が真っ赤になった
「俺もたまもフォローするて」
そう言うと、翼宿は楽屋へ入った
「そそ♪心配すんなよ、柳宿!!」
鬼宿も笑顔で柳宿の肩を叩いた
(そっか・・・味方がいるんだ。あたしには)
リハは無事終了
最初はだいぶガチガチになっていた自分の指も、10分も経てば鍵盤の上を走るようになった
しかし、ここである疑問
「ねぇ、たま」
「何だ?」
「翼宿さ、あたし達の前でまだ一回も歌ってなくない?」
「そうだな」
「今のリハも、音出しだけだったし。本番で聞くのが初めてになるのかな?」
「あいつ、最初ボーカル嫌がってたからな。だけど、あいつの歌声・・・びっくりするぞ?柳宿」
「???」
(こっそり練習してたのかな?)
密かな期待が湧いた
(どんな歌声するんだろう)
開場
客が一斉に中に入って来た
その様子を舞台裏から覗く柳宿
「こういう景色なんだねぇ~・・・」
「ほらほら、柳宿!!あんまりそっち見ない!!緊張すっから!!」
鬼宿は苦笑いで、柳宿を呼び寄せた
「ほな、今日はよろしゅうお願いします」
翼宿は、スタッフに挨拶した
「お安い御用だよ、翼宿。お前の活躍は、スタッフ一同期待してるんだからな」
優しそうな顔つきのスタッフは、鬼宿と柳宿にも振り向いた
「お前らも、期待してるぞ!!」
「「はい!!ありがとうございます!!」」
やる気が漲る
頑張ろう
そして、遂に開演
今回は3バンドが出演し、空翔宿星はトリの演奏
楽屋で、テレビに映る演奏を見ていた
「凄い・・・」
裏で聞くと、会場で聞くのとはまた違った迫力を感じる
それにもまた緊張を感じ、胸が圧迫される
「どないした?」
隣で煙草を吸っていた翼宿が、声をかける
「いや・・・さすがに緊張」
手が震える
(やば・・・リハの時は何ともなかったじゃない。しっかりしろ。柳宿・・・)
異常な震えに泣き出したくなった
すると、翼宿が手を自分の手に重ねてきた
「・・・っ・・・!!??」
「大丈夫」
「翼宿・・・」
「こうしてれば・・・治る」
「・・・・・・・」
「頑張れ」
夢を掴むんだ
彼と彼らと
それから、翼宿は鬼宿が戻ってくるまでずっと柳宿の手を握っていた
『それでは、続いて空翔宿星!!今晩のトリを務めてくれます!!』
「きゃーーー翼宿ーーー」
司会の紹介で、歓声が飛ぶ
まずはセッティングを始める
翼宿のベース
鬼宿のドラム
柳宿のキーボードガ試験的に鳴る
その時、ちらりと鳳綺と並んで見ている家族が見えた
(応援してくれてる。頑張らなきゃ)
そして、SEが流れる
いよいよ本番だ
ステージに出て行く時、翼宿がこっちを見て笑った
柳宿は、もう緊張などしていなかった
『こんばんは、空翔宿星です!!』
リーダーである鬼宿が挨拶をした
『今日は、俺たちにとって初めてのライヴですが、精一杯頑張ります』
そして、一曲目が始まる
意外と指はついていけて
不思議な感覚を覚えた
(嘘・・・凄い・・・リハよりも全然行ける・・・)
そして、翼宿の歌が入った
!!!???
(何これ・・・相当上手い。これが翼宿の力?)
伸びるような高音
無駄のない発音
彼の歌声は、とても魅力的で迫力のあるものだった
鬼宿は、横で軽く柳宿にウインクしたようだ
これが、「空翔宿星」
柳宿は、初めてのライヴで改めてバンドの凄さを実感したのだ
「お疲れ様でした~」
あっという間にステージは終了した
「いやぁ、よかった!!3人とも息ぴったり!!初めてとは思えないよ~」
「世話になりました」
翼宿は普通にお礼を言う
「はーはーはーはー・・・」
「どうした?柳宿」
「あたし・・・ちゃんと弾けてた・・・?」
「大丈夫大丈夫!!俺のがミスりまくり!!」
鬼宿は、軽くフォローした
「頑張ったな、柳宿」
翼宿は、そう微笑んで振り返った
「あんたも・・・相当かっこよかったよ」
すると
携帯の着信が鳴った
メールだった
見ると、父からだった
「ああ!!!」
「どうした!?」
「お父さんから・・・」
「例の件か・・・?」
「多分・・・」
「読んでみろよ」
鬼宿は、笑顔でそう言った
恐る恐るメール画面を開いてみる
すると
『頑張ったな。お前の進学、認めてやってもいい。』
それだけだった
「わーーーーーーーーーーーーー」
途端に柳宿は、2人に飛びついた
「何だ!?どうした!?」
鬼宿は、素で驚いた
「・・・進学・・・認められた~・・・」
「まぢかよ!?」
「うん・・・」
柳宿は泣いていた
遂に自分の道が開けたのだ
「よかったな」
翼宿は、柳宿の苦しみを知っていたからこそそっと頭を撫でてやった
「おめでと★」
鬼宿もポンポンと頭を撫でる
これから、きっと「ここ」でやってけるよね
何となくだけどこの「空翔宿星」って星が凄く輝ける星になるって
そう思ったんだ
「てな訳で、ライヴまで後一週間を切った!!2人共、しっかり頑張ってくれよ!!」
「お前もな」
「だいぶ、いいんじゃないかぁ?このバンド♪空翔宿星!!」
『せやったら、一緒にバンドやるか?柳宿』
あれから一ヶ月
翼宿の知り合いだという鬼宿と知り合い、早速、3人組バンド「空翔宿星」が始動した
翼宿が早くもライヴをブッキングし、3人はいち早く練習に取り掛からなければならなかった
『バンドだと!?何を言っているんだい、柳宿!!』
『そうよ・・・あなた進路もまともに決まってないのに・・・』
最初は、自分の父と母は自分の希望に反対した
しかし、横から入ってきたのは兄の呂候
『いいじゃないか。父さん、母さん。柳宿がやりたいって言ってるんだよ?やらせてあげれば』
この兄の言葉で、両親は自分のライヴパフォーマンスを見て判断を下すと約束してくれた
「しかし、柳宿。お前、キーボード上手いな!!お前でよかったよ!!」
鬼宿は、柳宿のピアノの腕に感動していた
元々、柳宿は父親からピアノを習っていたが、2年前にその父親が事故死した
今は母親も再婚し、いちから家庭はスタートしているが、柳宿は父親の死と共にピアノを辞めたのだ
そんな中、声をかけられ、柳宿は再び鍵盤に指を置いたのだ
最初は慣れないバンド練習の中で指がついていくのが大変だったが、翼宿も鬼宿も親切に指導してくれたので、今に至る
「そんな・・・たまと翼宿のお陰だよ」
「頑張ろうな、ライヴ!!」
「うん!!・・・あ。そういえば、たま・・・」
「ん?」
「翼宿が・・・前のバンド辞めたって本当?」
「あぁ~、俺もよく聞いてないけどそうらしいなぁ」
翼宿は、休憩室で煙草を吸っている
「・・・あたし、ちょっと行ってくる!!」
先方で、柳宿は鳳綺に翼宿が「FIRE BRESS」を抜けたという情報を聞いたのだ
勿論、鳳綺は自分と翼宿がバンドを組んでいる事をまだ知らないが
もしかしたら、自分のせいかもしれないと要らぬ責任を感じた柳宿は翼宿に直接聞いてみる決心をした
「翼宿・・・」
「何や?」
休憩室で煙草を吸いながら、楽譜を見ていた翼宿に声をかける
「あのさ・・・前のバンド・・・辞めたの?」
「・・・あぁ」
「どうして?あたしと・・・バンド組むなんて言ったから?」
そこで、翼宿は笑った
「ちゃうて。元々価値観合わなかったんやて。前、言うたやろ?他の奴らはファン作りたい思いでバンドやっとったけど・・・俺はそうやないて」
「それは聞いたけど・・・」
翼宿に初めて出会ったバンドから、翼宿が抜けるのは少し心細い事でもあった
勿論、掛け持ちは難しいから、いつかは抜けるかもしれないと思っていたが
あくまでやむおえない事情だと思っていたから
「・・・そんな気落ちすんな。お前のせいやない。俺かて、色んな奴らとバンド組みたかったんやて」
翼宿は、柳宿の頭をコツンとごつくと、灰皿に煙草を入れて立ち上がった
「・・・翼宿!!」
その呼びかけに翼宿は振り向いた
「あたし・・・頑張る。声かけてくれたあんたの為にも・・・」
彼を支えていかなければならないのだ
しばらく唖然としていた翼宿だったが
「ヘマしたら、承知せぇへんで」
親指を突き出した
そしていよいよ
ライヴ当日
「あの翼宿が新しいバンド組んだんだって!!」
「今日が初ライヴよ!!」
「え~!?そんなの知らなかった!!当日券でもいいから、絶対見てやる!!」
ライヴハウスの前には、人だかりが朝から出来ていた
おおっぴらにライヴハウスの社長がHPでバンドの宣伝をしたもので、当日になってライヴハウスに詰め寄るファンが急増したのだ
「柳宿!!」
メイクも衣装も張り切った柳宿は、ライヴハウスに入る途中に声をかけられた
「鳳綺!!」
「あんた・・・聞いたわよ!!翼宿と・・・バンド組んだんだって!?」
「へへ・・・まぁ」
「あんた、いつの間に・・・進路は?」
「このライヴを見て・・・親が普通に高校進学させてくれるか決まるんだ」
「そうなんだ・・・」
「見てて!!きっと頑張るから!!」
「FIRE BRESSから翼宿が抜けて寂しかったけど・・・あんたと一緒なら大丈夫そうね!!・・・じゃあ、頑張って!!ちゃんと見てるからね!!」
鳳綺は、軽く柳宿の肩を叩くとライヴハウスの列へと向かっていった
「柳宿」
続いて、声をかけられ振り返ると家族が立っていた
「あ・・・」
「今日は、頑張るんだよ」
呂候は、そう言って微笑んだ
「無理・・・しないのよ」
母親もそう励ます
「うん・・・頑張るから」
父の方は特に見ずに、そう返事をした
「おぉ、柳宿。おはよ」
「おはよう・・・」
初めて楽屋に入ると、鬼宿がもうドラムスティックを磨いていた
「いよいよだなぁ」
「そうだねぇ。もう外にもお客さんいっぱい!!」
「緊張してるか?」
「まぁ・・・ちょっと」
「何だか元気ないけど?」
「へっ!?」
「大丈夫か?」
正直不安だった
家族の顔や親友の顔ファンの顔を見て、自分は認められるだろうか
夢を見られるだろうか
足手まといにならないだろうか
色々と・・・
「正直・・・ね。家族にさ、このライヴで高校進学出来るか否か決められるんだ。ある意味、大企業の面接にでも挑戦する感じ。まだ、正直自信なくてさ・・・」
「そ・・・か」
すると、後ろに人の気配を感じた
振り返ると、翼宿が立っていた
「翼宿・・・」
つい先日、翼宿に頑張ると宣言をしたばかりなのに自信喪失してしまった自分を見られ、柳宿は咄嗟に恥を感じた
しかし、翼宿は柳宿の頭をくしゃりと撫でてこう言った
「不安なんは、みんな同じや。俺かて、今日は初めてのボーカル。たまかて、ステージに立つんはまだ2回目なんや。人の目が気になるし、いつまで経っても自信なんか持てん。せやけどな、大切なんは、いかに俺らが楽しく演奏出来るか・・・やろ?」
その言葉に、柳宿は顔が真っ赤になった
「俺もたまもフォローするて」
そう言うと、翼宿は楽屋へ入った
「そそ♪心配すんなよ、柳宿!!」
鬼宿も笑顔で柳宿の肩を叩いた
(そっか・・・味方がいるんだ。あたしには)
リハは無事終了
最初はだいぶガチガチになっていた自分の指も、10分も経てば鍵盤の上を走るようになった
しかし、ここである疑問
「ねぇ、たま」
「何だ?」
「翼宿さ、あたし達の前でまだ一回も歌ってなくない?」
「そうだな」
「今のリハも、音出しだけだったし。本番で聞くのが初めてになるのかな?」
「あいつ、最初ボーカル嫌がってたからな。だけど、あいつの歌声・・・びっくりするぞ?柳宿」
「???」
(こっそり練習してたのかな?)
密かな期待が湧いた
(どんな歌声するんだろう)
開場
客が一斉に中に入って来た
その様子を舞台裏から覗く柳宿
「こういう景色なんだねぇ~・・・」
「ほらほら、柳宿!!あんまりそっち見ない!!緊張すっから!!」
鬼宿は苦笑いで、柳宿を呼び寄せた
「ほな、今日はよろしゅうお願いします」
翼宿は、スタッフに挨拶した
「お安い御用だよ、翼宿。お前の活躍は、スタッフ一同期待してるんだからな」
優しそうな顔つきのスタッフは、鬼宿と柳宿にも振り向いた
「お前らも、期待してるぞ!!」
「「はい!!ありがとうございます!!」」
やる気が漲る
頑張ろう
そして、遂に開演
今回は3バンドが出演し、空翔宿星はトリの演奏
楽屋で、テレビに映る演奏を見ていた
「凄い・・・」
裏で聞くと、会場で聞くのとはまた違った迫力を感じる
それにもまた緊張を感じ、胸が圧迫される
「どないした?」
隣で煙草を吸っていた翼宿が、声をかける
「いや・・・さすがに緊張」
手が震える
(やば・・・リハの時は何ともなかったじゃない。しっかりしろ。柳宿・・・)
異常な震えに泣き出したくなった
すると、翼宿が手を自分の手に重ねてきた
「・・・っ・・・!!??」
「大丈夫」
「翼宿・・・」
「こうしてれば・・・治る」
「・・・・・・・」
「頑張れ」
夢を掴むんだ
彼と彼らと
それから、翼宿は鬼宿が戻ってくるまでずっと柳宿の手を握っていた
『それでは、続いて空翔宿星!!今晩のトリを務めてくれます!!』
「きゃーーー翼宿ーーー」
司会の紹介で、歓声が飛ぶ
まずはセッティングを始める
翼宿のベース
鬼宿のドラム
柳宿のキーボードガ試験的に鳴る
その時、ちらりと鳳綺と並んで見ている家族が見えた
(応援してくれてる。頑張らなきゃ)
そして、SEが流れる
いよいよ本番だ
ステージに出て行く時、翼宿がこっちを見て笑った
柳宿は、もう緊張などしていなかった
『こんばんは、空翔宿星です!!』
リーダーである鬼宿が挨拶をした
『今日は、俺たちにとって初めてのライヴですが、精一杯頑張ります』
そして、一曲目が始まる
意外と指はついていけて
不思議な感覚を覚えた
(嘘・・・凄い・・・リハよりも全然行ける・・・)
そして、翼宿の歌が入った
!!!???
(何これ・・・相当上手い。これが翼宿の力?)
伸びるような高音
無駄のない発音
彼の歌声は、とても魅力的で迫力のあるものだった
鬼宿は、横で軽く柳宿にウインクしたようだ
これが、「空翔宿星」
柳宿は、初めてのライヴで改めてバンドの凄さを実感したのだ
「お疲れ様でした~」
あっという間にステージは終了した
「いやぁ、よかった!!3人とも息ぴったり!!初めてとは思えないよ~」
「世話になりました」
翼宿は普通にお礼を言う
「はーはーはーはー・・・」
「どうした?柳宿」
「あたし・・・ちゃんと弾けてた・・・?」
「大丈夫大丈夫!!俺のがミスりまくり!!」
鬼宿は、軽くフォローした
「頑張ったな、柳宿」
翼宿は、そう微笑んで振り返った
「あんたも・・・相当かっこよかったよ」
すると
携帯の着信が鳴った
メールだった
見ると、父からだった
「ああ!!!」
「どうした!?」
「お父さんから・・・」
「例の件か・・・?」
「多分・・・」
「読んでみろよ」
鬼宿は、笑顔でそう言った
恐る恐るメール画面を開いてみる
すると
『頑張ったな。お前の進学、認めてやってもいい。』
それだけだった
「わーーーーーーーーーーーーー」
途端に柳宿は、2人に飛びついた
「何だ!?どうした!?」
鬼宿は、素で驚いた
「・・・進学・・・認められた~・・・」
「まぢかよ!?」
「うん・・・」
柳宿は泣いていた
遂に自分の道が開けたのだ
「よかったな」
翼宿は、柳宿の苦しみを知っていたからこそそっと頭を撫でてやった
「おめでと★」
鬼宿もポンポンと頭を撫でる
これから、きっと「ここ」でやってけるよね
何となくだけどこの「空翔宿星」って星が凄く輝ける星になるって
そう思ったんだ