Flying Stars

目を覚ますとベッドの上だった
まだ目の周りがひりひりして痛い
ゆっくりと昨日の記憶を辿ってみる

(昨日・・・翼宿のバンドのライヴを見に行って・・・
それでここで話をしたっけ・・・
何を話したっけな・・・
え・・・ちょっと待って・・・まさか・・・)

『あたし・・・翼宿の事が・・・好きなの・・・』

(え~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!???)

「はよ」
「わぁっ!!」
いきなり、洗面台から顔を出した翼宿
柳宿の心臓は飛び出そうだった
「寝ぼすけ。もう九時やで?」
「たたたたた翼宿・・・」
「よだれ垂らして寝とったから、起こさんでおいたけど」
「なっ!?よだっ・・・!!??」
「嘘や嘘」
くっくっと笑う翼宿にますます顔が赤くなる
(こいつ・・・昨日のこと・・・)
シャワーを浴びてきたのか、いつもツンツンに立てている髪の毛もストレートに濡れている
その姿がまた眩しくて・・・
こんなに彼を男性として意識した日が今までにあっただろうか?
寧ろ、彼に気持ちを伝えてしまってからの方が重症だった
まだ返事も聞いてないのに・・・

「お前もシャワー浴びたらどうや?昨日はあのまま、お前ソファで眠りこけてたからな」
「え・・・じゃあ、ベッドまであんたが・・・?」
「女に風邪ひかせたら、男として示しつかんやろが」
「ごめん・・・」
「えぇて。気にすな」
いつもと変わらない
(昨日の告白、どう思ったんだろう・・・)

ホテルを出ると、連絡を受けた鬼宿と夕城プロが迎えに来ていた
またあの練習場所に帰れる事になったのだ

翼宿が夕城プロと打ち合わせをしている間、柳宿と鬼宿は2人楽屋で珈琲を飲んでいた
「色々・・・お疲れ。大変だったな」
「うん・・・たまもごめんね・・・心配かけちゃって・・・」
「いや?寧ろ、翼宿とお泊りなんて、柳宿にとっちゃ転機になるんじゃないかと思ったさ♪」
明らかに何かを期待している鬼宿
「で?どうだったんだよ?♪」
「何が?」
「男の俺にそんな事言わせる気かよ!?何もない訳ないだろうが♪」
「馬鹿・・・何もないわよ」
「はぁ???」
「話し疲れて、そのままあたしが先に眠りこけちゃったみたい・・・」
「お前なぁ・・・せっかくのチャンスを・・・」
「けど・・・」
「けど?」

「告白した・・・」

「誰に?」
「翼宿に」
「誰が?」
「あ~た~し~がよっ!!」
「はぁ!?それを何かあったって言うんだよ!!」
「あ・・・そうなんだ?」
何気に鈍感な柳宿に鬼宿は頭を掻き毟った
「で?」
「で?って?」
「結果は!?」
「それが・・・全米ツアー成功したら・・・もっかい聞かせてって言われたんだよね・・・」
「はぁ???」
「当たり前よ・・・男は恋より夢の方が大事でしょ」
「そりゃ、そうかもしれないけど・・・まぁ・・・あの翼宿だからなぁ・・・」
「待つしかないじゃない」
「けど、脈無しって事ではなさそうじゃん♪」
「そうかなぁ・・・?」
「これは、全米ツアーでかなりアタックかけなきゃ駄目だぞ!柳宿♪」
そう言って、勢いよく柳宿の肩を叩く鬼宿
「うっ・・・うん・・・」
(どうも調子抜けるなぁ。このリーダー)

出発日は、それから3日後
メディアに公開したら、その日から空港は渡米予約の嵐
当たり前だ
全米で「空翔宿星」が見られる機会なんて滅多にない
あまりの予約の多さにファンと鉢合わせになる恐れがある為、少し早めに空翔宿星は出発する事になった

「さぁさぁ、皆の衆!!」
夕城プロは、すっかりガイド気分だ
「これから向かうは、USA!!ここで約一週間滞在してもらい、曲作りと撮影に励む!!その後、3日間かけてリハーサル!!そして本番は来週の水曜日だ!!しっかり、アピールして来いよ!!」
「夕城プロ・・・テンション上がりすぎです・・・」
さすがの鬼宿もまるで酒が入ったような夕城プロのテンションに拍子抜けしていた
「気にしない!!鬼宿君!!さて・・・ところで、問題はホテルの予約の件なんだが・・・」
そこで、夕城プロは、鬼宿と合図を送りあった
「スタッフは、別のホテルに泊るとして、我々4人で2部屋しか取る事が出来なかったんだぁ・・・」
わざとらしい口調に柳宿は勘付いてしまった
(まっ、まさか・・・)
「そこでだ!!俺と鬼宿はもちろん毎晩のように飲み明かす!!そこで、酒嫌いの柳宿!!そして翼宿!!お前等は、同じ部屋だぁ!!!」
口をあんぐりする柳宿の横で相変わらず煙草を吹かす翼宿
「それでいいよな♪翼宿!!」
「別に俺は構へんけど」
「柳宿~別にいいだろ?翼宿となら♪」
「うっ・・・うん・・・」
そのテンションに断れなかった
横で、鬼宿が軽くウインクする
(鬼宿の奴、夕城プロにまで喋ったか・・・)

その日は、夕方にUSAに到着
早速、その日はホテルで各自休む事となった
(たまの馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿っっっ!!)
柳宿はいつになく緊張していた
今度は、翼宿と隣り合って眠るのだ
付き合ってたって、緊張するのに・・・
「かぁんぱぁ~~~い♪」
到着後の夕食で軽く杯を交し合ったばかりなのに、まだ隣では二次会が始まっているのが分かる
「ったく・・・あいつらもよぅ飲むな」
翼宿は荷物の整理をしながら呟いた
「そうだよね・・・明日から仕事大丈夫なのかな・・・」
「そん時は、例え夕城プロでも叩き起こして行かせなあかんわな」
翼宿のため息が聞こえる
勿論、顔見て喋れる訳がない
顔が真っ赤だったから
(馬鹿!!仕事なんだぞ!!集中しなさい!!)
その時、翼宿が煙草を点ける音がした
一通り荷物の整理が済んだのか
見ると、翼宿は遠い目でホテルから見えるUSAの景色を眺めていた
「ホンマに・・・ここまで来たんやな・・・」
「え・・・?」
「正直、ここまで来るとは思っとらんかったわ」
「そう・・・だね」
「・・・・・・」
「まさか・・・緊張してる?」
「ちょっとな」
その言葉に柳宿はちょっと笑った
「何やねん。笑うな」
「だって!翼宿でも緊張とかあるんだなぁって」
「顔に出さないだけや」
「そうなんだぁ・・・」
「お前も」
「え?」
「よぅ、頑張ったな」
「翼宿・・・」
「女で一人でよう頑張ってくれたわ」
(そんな・・・あんたがいたから、頑張れたんだよ?)
なんて
また恋愛に持っていこうとする自分が嫌いだ
その横顔がたまらなく愛しくて
チャンス・・・本当にそう思ってしまう

「おい!鬼宿!何か聞こえるか?」
「いやぁ~・・・まだ何も・・・」
「翼宿も馬鹿だ!どこまで馬鹿なんだ!!あんな絶世の美女柳宿と部屋を共に出来るのに!!しかも、セミダブルだぞ!!シングルはやらしいと思って、手抜いたのに・・・」
「夕城プロのがよっぽどやらしいですよ!翼宿は、そんな簡単に女を抱く性質はないっすよ!!」
「でもなぁ・・・鬼宿。だったら、何の為に・・・」
酒を飲みながら、鬼宿と夕城プロは壁にぴったりと耳をつけて隣の様子を伺っていた
何ともあくどい2人だ・・・

「今日は疲れたやろ。先、寝ろや」
翼宿は煙草を灰皿に押し付けると、柳宿に告げた
「え・・・翼宿は・・・?」
「俺は、もうちと曲の音見て寝るわ」
「そんな・・・あんたこそ、寝なさいよ!体に悪いわよ?」
「心配すんなて。平気や」
違う
本当は自分の隣にいて欲しいだけなのだ
「あたし・・・」
「ん?」
「翼宿が寝ないんだったら、あたしも寝ない!!」
「はぁ?」
「だって・・・心配だもの!!」
自分の我侭を、自分の性格と絡ませてわざとらしく言う
勿論、相手はその策略に気づいてはいない
翼宿は頭を掻き毟った
「あのなぁ・・・せやけど、それ・・・」
翼宿は、やっとセミダブルのベッドに気づいた
途端に、柳宿の顔が赤くなる
「べっ・・・別にあたしは・・・あんたが良ければ・・・別に・・・」
途端に先日の告白が頭をよぎる
ばればれだ
こんなの
暫く俯いていると
ギシッ
ベッドが軋む音がした
横を見ると翼宿がジャケットを脱いで、隣に来ている
(えええええええええええ!!!???)
自分が誘ったくせに、大げさに驚く
すると、翼宿は柳宿に背を向けて布団に包まった
「これでえぇやろ!はよ、寝ろ!!」
(そっか・・・ちゃんとけじめつけてるんだ・・・偉いな・・・)
そっと微笑むと
「おやすみ・・・」
自分も布団に包まった
勿論、翼宿の背を見つめて

まだあんたには近づけないけど、あんたの傍にいられたらそれで十分なんだよね・・・

まだ2人+鬼宿と夕城プロは知らない
このUSAの旅がとても過酷で辛く、だけど、「空翔宿星」を大きく成長させ、そして翼宿と柳宿の間に変化が訪れる事になろうとは・・・
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