Flying Stars

もうすぐ空翔宿星のドームツアーが始まる
各々一生懸命、新曲やアルバムの曲を練習していた
チケットが即日完売したツアーであるだけに、メンバーのやる気も漲ってきている

そして、ツアーを目前にしたリハーサル当日
「おはようございますっ♪」
柳宿は、メンバーで一番気合が入っていた
「おう、柳宿。あまりハメ外すなよ~?」
スタッフも優しく声をかけてくれる
「大丈夫ですよっ!!」

「それでは、リハーサル入ります~」
新曲から始まり、アルバムシングルと着々にメドレーをこなしていく
翼宿のかっこいい姿を見て、柳宿の胸は躍る
こんな翼宿の後姿を見ているのが、柳宿は大好きだった
「それでは、休憩入ります~」
3人とも汗がびっしょりだった
アシスタントが、3人にタオルと飲み物を届ける
柳宿にも飲み物が届けられようとした
その時だった
ガンッ
柳宿の背後で何かがぶつかる音がした
(・・・何?)
頭上を見ると、セットが激しく揺れている
そして、スタッフの頭めがけて落下した
「危ないっ!!!!」
ガシャガシャガシャーーーーン
「「柳宿っ!!!」」
後には、鬼宿と翼宿が自分の名前を呼ぶ声が聞こえた
その場で、柳宿は気を失った


「----------------------」
目を開けると、病院だった
「柳宿!!」
横には、夕城プロ
「夕城プロ・・・あたし・・・?」
「お前・・・何て無茶を・・・セットの下敷きになったんだよ!!スタッフ、庇って!!」
「え・・・」
ズキッと頭が痛む
見ると、自分の頭と腕に包帯が巻かれている
「幸い、大事に至らなかったけど・・・こりゃ、ツアーは無理だな・・・」
「えっ・・・!!!???」

鬼宿と翼宿は、ロビーで関係者と話し合いをしていた
「ごめんなさい、ごめんなさい・・・私のせいで・・・」
柳宿に庇われたスタッフは、泣き崩れている
「謝らないでください。あなたのせいじゃないです」
鬼宿は、宥めた
その横で、翼宿は険しい表情で腕を組んでいる
「どうする・・・?」
その場は、沈黙に包まれた
「・・・柳宿があんな怪我じゃあ・・・とてもライヴなんて出来やしないな」
「しょうがない・・・不慮の事故だ。柳宿が無事だっただけでも幸運と思おう」
勿論だ
メンバーの命最優先
「翼宿。柳宿の様子・・・見に行くか?」
「せやな」

病室の前に着くと中から柳宿の声が聞こえた
「大丈夫です!!夕城プロ!!あたしなら、大丈夫ですから!!ツアーは中止しないで・・・いっ・・・」
「柳宿・・・」
「柳宿!!」
鬼宿が扉を開ける
「たまっ・・・翼宿・・・」
柳宿の頬は涙で濡れている
「辛いけど・・・中止だよ。とてもじゃないけど、今のお前をステージには上がらせられない」
「そんな・・・そんな事ないよっ・・・あたしは平気・・・」
翼宿は暴れる柳宿を寝かせた
「・・・翼宿」
「・・・暴れるな。傷に響く」
「だって・・・だって、あたし・・・」
鬼宿と夕城プロは、黙ってその様子を伺っていた

「柳宿は・・・?」
珈琲を持ってきた夕城プロは、病室の前の長椅子に座っている鬼宿と翼宿に声をかけた
「ずっと・・・泣いてます」
「そうか・・・」
「一番楽しみにしてたの・・・あいつですからね」
翼宿はその横で煙草を吸っている
「翼宿。それでいいよな・・・?」
「何が?」
「今回のツアー」
「当たり前やろ。柳宿の命が一番大事や」
しかし、廊下まで響く柳宿の泣き声には3人も耳を塞ぎたくなる程だった

ライヴ当日
ファンに届けられた知らせ
「柳宿が・・・怪我!?」
「大丈夫なのかな・・・」
「しょうがないよね。また、ライヴ出来るようになるまで待とうよ」
ファンは、悔しい気持ちはあったが、ここは素直に知らせを受け入れたようだ

「柳宿」
ベッドの中で蹲っている柳宿に翼宿は声をかけた
「何・・・?」
「調子、どうや?」
「・・・平気」
「そか」
その場に沈黙
「・・・怒ってないの?」
「何が?」
「中止になったの・・・」
「しゃあないやろ」
「優しくしなくていいよ・・・足手まといでしょ・・・ファンいっぱいいるのにね・・・」
柳宿の頭を翼宿は撫でた
「お前は、危険も顧みずにスタッフ庇ったんや。もっと誇りに思え」
「でもっ・・・」
柳宿は起き上がった
「ごめん・・・ね・・・」
「えぇから」
また柳宿は泣き出した
「・・・今日、どっか出かけるか」
「え・・・?」
「せっかく、こんな天気えぇんや。外出許可出とる」
「翼宿と・・・?」
「たまと夕城プロ、事務所に行ってん。俺、暇なんや」
翼宿は、そう言って笑う

ツアーは中止になったけれど、翼宿とデート

ブルルルルル
柳宿の額にはガーゼを当てて、2人は国道へ飛び出した
最初は海
少し風が肌寒かったけれど、一度来てみたかった
好きな人と・・・
「・・・ごめんね。こんなトコ・・・」
「いや。俺もたまに来てみたかったんや」
「あたしも・・・曲思いつきそうだしね」
咄嗟に嘘をついた
「今頃・・・ライヴ中かぁ・・・」
バイクに寄りかかって、ため息をつく
「その話は、もう終わりやろ?」
コツンと頭を叩かれる
その仕草に顔が赤くなる
「また出来る。すぐ出来るて」
その言葉にドキンと鼓動が鳴った
ああ。好きな人と夢を追いかけられて、好きな人に支えてもらえて、どれだけ幸せなんだろう

帰りに、柳宿は雑貨屋に寄りたいと我侭を言った
どうしても、翼宿に渡したいものがあったから
「はい!!!」
突然少し洒落たデザインのリングを取り出す
「・・・何や、これ?」
「色々・・・迷惑かけちゃったし・・・今日、あたしを外に連れ出してくれたお礼!!」
「・・・んな貰てばっかじゃ、悪いやん」
「いいの!!あたしがあげたいの!!翼宿に似合うと思ってさ!!ベースやってる人って、指がお洒落だから、結構サマになるんだよね!!」
そんな笑顔を見て、翼宿もつられて笑った
その指輪は、細すぎる翼宿の指にすんなりと入った

ねぇ。いつかさ
本当に自分に自信が持てたら、気持ちを伝えさせて
この想いに気づいてね?
愛しいベーシスト

ベーシストへの愛の証


何日か経って、柳宿の怪我もすっかり回復
追加公演が出来るかもしれないとの情報も知り、すっかり柳宿はまたいつもの調子に戻っていた
今度こそ
今度こそ、「空翔宿星」でまたライヴが出来る

「おはよう!!!」
元気よく楽屋へ入る
鬼宿と夕城プロの話し声が聞こえたからだ
「どうしたの?2人共、こんな朝早くから深刻な顔して!!」
2人は、明らかに暗い表情で話し込んでいたようだ
「あのな・・・柳宿」
希望で膨らんだ胸が

「翼宿が引き抜かれた・・・大手会社主催のバンドに」

破裂する
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