Flying Stars

恋愛の仕方なんて分からない
だけど、彼を好きな事が自分の生き甲斐だから
どんなに辛くたって傷ついたって
貴方が好き
この事実だけは、変わらないから・・・

「お兄ちゃん!!今回の「空翔宿星」の新曲、すっごくいいよ!!」
「そっ、そうか!?美朱・・・退院してからやけに元気だな。大丈夫か?」
「全然大丈夫!!」
「ったく・・・たまの愛の力か?」
奎介は、悪戯っぽく笑った
「へへっ♪」
美朱と鬼宿は、スキャンダルのせいで歌手とファンの関係ながら交際を始める事になった
最初はメンバーやスタッフに気を遣っていたのだが、柳宿はいつもエールをくれるし、周りの人も思いの他優しかったので、今でも順調に交際を続ける事が出来ている

「鬼宿~」
「美朱!!また、こんな寒い中にいたら、風邪ひくだろが!!」
スタジオから出てきた鬼宿に美朱が声をかける
「いいのいいの!!鬼宿の事考えると体もぽかぽかだよ!!」
「ったく・・・しょうがねぇなぁ!!ほら、乗れ!!」
鬼宿は車のドアを開けて、美朱に乗るように促した
いつも最近は、2人してこういう生活を続けてきた

「あ~あ、すっかりラブラブ~・・・羨ましいなぁ~」
スタジオの窓からそんな光景を柳宿は羨ましそうに眺めていた
「いいなぁ~美朱。楽しそう~ね!!」
「・・・・・」
「ねぇってば!!」
「何やねん、お前は~・・・いちいち人の恋愛に干渉しすぎなんや!!」
新曲の音をヘッドホンで確認していた翼宿は声を荒げる
「あんたには・・・女心ってもんが分かんないのよ」
「何か言うたか?」
「何で、そういうとこだけ聞こえんのよ!!」

「美朱。寒くねぇか?」
そのまま2人は極寒のレインボーブリッジに来ていた
「いいの!!あたしこそ、またわがまま言っちゃって、ごめんね・・・でも、一度レインボーブリッジから、夜景見てみたかったんだ♪」
「俺は構わねぇよ、いちいち気遣うなって!!」
鬼宿の腕に抱かれながら、港の海を見渡す
「・・・ねぇ、鬼宿」
「何だ?」
「あたしの事・・・これからも好きでいてくれる?」
「え・・・?」
「あたしね・・・まだ夢みたいなの。鬼宿とこうやって夜景見られるなんて」
「・・・・・」
「あたしみたいに、鬼宿の彼女になりたいって女の子たくさんいると思う。なのにあたしを選んでくれて・・・今でも本当夢みたい」
「・・・そうか」
鬼宿は優しく美朱の頭を撫でた
「これからも・・・よろしくね、鬼宿」
「もちろん」
そう言って、鬼宿は美朱の唇に優しくキスをした
「・・・帰ろうか」
「うん・・・」

しかし、次の日
鬼宿は暗い面持ちでスタジオに顔を出した
「・・・どうしたの。たま」
昨日のラブラブっぷりとは打って変わった鬼宿に一番最初に気がついたのは柳宿だった
「・・・腕がこれ以上上がらねえんだよな」
「へ・・・?」
「何でだろうな・・・最近、頑張りすぎたからかな」
「そうなんだ・・・困ったね。今日は休みなよ!!たま!!」
「・・・いいのかよ?」
「大丈夫大丈夫!!あたしらもまだ曲覚えてないしさ!!」
「はよ」
翼宿が寝ぼけ眼で到着した
「ごめん、翼宿。俺、休むわ。病院行ってくる」
「どないしたん?」
「腕が上がらねえんだよな、腱鞘炎かも」
「ホンマか?」
「あぁ、ごめん。後、メールする」
その表情は暗かった
「・・・たま、大丈夫かな」
「・・・痛めると大変や」

勿論、病名は腱鞘炎
2週間ドラム禁止令が出された
勿論、それはそれは鬼宿は落ち込んだ
大好きなドラムが叩けないからだ
メンバーやスタッフに迷惑がかかる
「気にすんなって、鬼宿!!」
夕城プロは明るく励まし飲みにも誘ってくれたが、しばらく鬼宿は、作詞活動に専念する事にした

連絡を受けた2人は、その日の練習を終え、スタジオを出た
「しばらく練習メニュー、変えよっか・・・」
「せやなぁ」
「たま、最近頑張りすぎたんだね」
「うん」
「あれ?・・・美朱?」
美朱がいつもの場所で鬼宿を待っているのが見えた
「美朱!!」
「あ、柳宿先輩!!」
「どうしたの?たま、もう帰ったよ!?」
「・・・えっ!?」
「あれ・・・何も聞いてない・・・?」
「はい・・・そうなんですか・・・」
さすがに他人の口から言うよりも鬼宿の口から言ったほうがいいだろうと、翼宿も柳宿も鬼宿の事態を伝えるのをやめた
「分かりました・・・すみませんでした」
「あ・・・」
そのまま美朱は駆け出した
「・・・何も聞いてなかったんだ・・・普通、一番に連絡しない?まぁ・・・たまも気が回らなかったんだろうけどさぁ・・・」
柳宿は少しがっかりした

家に帰ってドアを閉める
「・・・鬼宿」
(どうしたんだろ。こんな事一度も・・・もしかして、あたしの事飽きちゃったのかな・・・)
「ああ、美朱」
そこにヘッドホンをした奎介が現れた
「あのさ、鬼宿が腱鞘炎になったらしいんだ」
「えぇ!?」
「それで・・・しばらく練習休むんだと。お前に伝えてて欲しいんだって」
「・・・それ・・・お兄ちゃんだけに・・・?」
「そうだよ。まぁ、相当彼、ショック受けてたからな・・・」
奎介も残念そうにため息をつく
(お兄ちゃんに言って、あたしには何もなし・・・?)

『鬼宿!!大丈夫?あたし、今日もスタジオ行ったんだけど・・・お兄ちゃんに聞いてびっくりしたよ・・・元気出してね?』
メールを送っても何だかすっきりしなかった
(あたしって・・・鬼宿の彼女だよね・・・?未だにプロデューサーの妹扱いなのかな・・・)

次の日
美朱は母親に買い物を頼まれた
乗り気じゃなかったが、仕方なく外に出る事にした
ヘッドホンからは、「空翔宿星」の曲
鬼宿のドラムはいつも美朱を元気付けてくれる
すると、丁度鬼宿のアパートを通りかかった
いや、自然に足が向いていた
(鬼宿・・・)
勇気を出してインターホンを鳴らす
すると
ガチャ
「はい・・・」
鬼宿が寝起きの格好で顔を出した
「・・・美朱」
「鬼宿・・・ごめん。いきなり押しかけて・・・」
「・・・いいけど。ごめんな?メール返さなくて」
「いいよ・・・鬼宿。忙しかったんでしょ?しょうがないよ・・・」
「うん・・・」
暫し沈黙
やっぱり元気がない
「あの・・・鬼宿!!あたし、何も出来ないけど・・・完治祈ってる・・・ちゃんと治ったら・・・また連絡してね!!」
「あ・・・あぁ」
「じゃあ・・・今日はこれで・・・」
美朱は、そそくさとアパートの階段を下りていった
自分でも何をしに行ったのか分からない
自分の自己満足で部屋を訪ねただけじゃあないか
美朱は後ろも振り返らずに全速力で走り出した

辿り着いたのはスタジオ
鬼宿はいる筈もないのに
側のベンチで待っているのが自分の居場所みたいに楽しかったのだ
そのベンチに座る
心が・・・気持ちが離れていってる気がする
あんな鬼宿を笑わせてあげる事も出来ない
お兄ちゃんのほうが・・・一緒に飲めて元気付けてあげられるよね
無力な自分に嫌気がさして涙が零れる
その時
「美朱」
名前を呼ぶ声がした
玄関を見ると、何とあの空翔宿星のスター翼宿だった
初めて名前を呼ばれた
「・・・寒いやろ。入りぃ」
「え・・・あの・・・」
突然の誘いに戸惑ったが、今は誰かと話がしたかったので、美朱は恐る恐るスタジオに入った

初めて通される楽屋
そこには柳宿の姿もなかった
「今日は柳宿も親のピアノ講演会の手伝いや」
翼宿は珈琲を入れている
初めてまともに話すかもしれない
「突っ立ってるのも何やし、座れや」
「はい・・・」
向かい合って座ると、翼宿は煙草に火をつけた
「・・・たまの事、待っとったん?」
「・・・えっ・・・いえ・・・今日はその・・・自然に足が向いてて・・・」
「夕城プロには聞いたんや?」
「はい・・・」
美朱の目が腫れている事に翼宿は気がついていた
「もしかして・・・たまに会った?」
「えっ・・・」
「顔にそう書いとる」
「・・・はい。実はさっき・・・」
「たま、落ち込んでたやろ」
「はい・・・」
「あんたまで、元気なくすなや」
翼宿がちょっと笑った
「・・・私・・・やっぱり、鬼宿の彼女向いてないんじゃないかって思って・・・だって、私じゃ無力だし・・・鬼宿の力になれないし・・・今日も、鬼宿・・・私が訪ねても元気がなかった・・・今回の事だって、お兄ちゃん伝で私に伝えてきたんです・・・まだ私は・・・お兄ちゃんのお墨付きで付き合ってるのかなって思ったら・・・自信がなくなってきて・・・」
翼宿は黙って煙草を吸っている
何話してんだろ
馬鹿みたいだよね
「あいつは・・・ドラムが好きやからな」
「え・・・?」
「俺と出会った頃もな、嬉しそうにドラム叩いてたんや。あいつ、昔一人で家族しょっとったから、しんどそうで・・・俺 が知り合いに頼んでドラム指導してやったら、みるみる伸びてな。あいつは、ドラムなしでは生きられへんねん」
「・・・・・」
「せやけど、今はあんたなしでも生きられへんって感じかいな」
「え・・・?」
「あいつの書く詞、最近は全部恋一色や。俺が歌うのにな、ちょっとは考えろや」
翼宿はまたそう言って笑う
「すみません・・・」
「いや、あんたは謝るなや。あんたにドラム聞いてて元気出る言われて、ホンマに嬉しかったらしいで。あんたの為にも・・・申し訳なく思ったんちゃう?」
「あたしの・・・為に・・・?」
「あいつも、今笑顔見せられなくて、後悔し
とる思うで?」
そんな話を聞いていると、顔が火照ってくる
「あんたしか・・・おらへんねん」
そう言って、翼宿は灰皿に煙草を押し付けた
「・・・翼宿先輩!!ありがとうございます!!私・・・恋愛の仕方なんて・・・分かりませんでした。けど・・・鬼宿もあたしも・・・一緒で・・・お互い不安だったんですよね・・・?」
「つーか、あんた出来とるやん。俺なんか出来へんわ」
「え・・・?」
「一途で純粋で・・・えぇな、そういう子」
そんな言葉にみるみる元気が出てきた
「あたし!!もう一度、鬼宿の家に行ってみます!!」
「へ?」
「あたしがめげてちゃ、鬼宿も元気なくしますよね!!」
いきなり元気になった美朱に、今度は翼宿が拍子抜けした
「ありがとうございました!!翼宿先輩!!翼宿先輩だって、きっと近くに・・・いますからね!!」
「あ・・・あぁ」
そう言って、美朱は元気よく部屋を飛び出した
翼宿はフッと微笑むと、全然飲んでいない美朱の珈琲を口にした

ピンポーン
2度目の呼び鈴
「美朱!?」
思ったより、早く鬼宿は出てきた
「鬼宿!!」
美朱は笑顔を作った
「美朱・・・あの、さっきは・・・ごめん。後、すぐに連絡しなくてごめんな。夕城プロに頼んじゃって・・・俺」
「いいよ、鬼宿!!男がめげんなって!!あたし・・・鬼宿と一緒に痛みも共有していきたいと思ってるから!!頼りないかもしれないけど、どんどん寄りかかっていいよ!!また、鬼宿のドラム聞くの楽しみにしてる!!だから、何か出来る事があったら何でも言って!!」
「美朱・・・」
鬼宿は美朱を抱きしめた
「鬼宿っ!?」
「本当ありがとう・・・お前でよかったよ」
「たまほめ・・・」
一番聞きたかった言葉

あなたを愛する気持ちなら、誰にも負けないよ


2週間後
鬼宿は無事に練習に復帰した
そして、美朱も外で待っていた
しかし、その手には大きな花束
「美朱!!」
「鬼宿♪」
「おい、どうしたんだよ!?その花束!!」
「へへっ、ちょっとね!!あ、翼宿先輩~」
「ん?」
「この前のお礼です!!はい!!」
美朱は翼宿に花束を渡した
「あたし、翼宿のファンにもなっちゃった!!」
「「えぇぇぇぇ!!??」」
鬼宿と柳宿は同時に驚いた
「おい!!お前、俺の美朱に何やったんだ!?」
「翼宿!!あんた、何なの!?人の彼女に!!」
「おいおい、誤解や・・・」
その光景を見ながら、美朱は楽しそうに笑った

「空翔宿星」は、私の味方だもんね
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