Flying Stars

『柳宿!!俺と・・・付き合ってくれないか・・・?』
眩暈がする

結局返事は保留
というか、天文が恥ずかしがって逃げた
柳宿は楽屋のソファに顔を突っ伏した
(どうしよ。どうしよ。どうしよ・・・)
元々良心的だった柳宿は、こういうシチュエーションが一番嫌いだった
勿論自分が好きなのは、翼宿だ
しかし、あくまで仕事のパートナー
断ってしまうと・・・もしかしたら仕事に支障が出る
鈴菜とのコラボレーションの時にもう懲りていた
「・・・柳宿?」
背後から声が聞こえた
見ると・・・
「翼宿ぃ・・・」
一番愛しい人
「どないした?具合でも悪いん?」
翼宿はベースの交換をしに来ていた
「・・・・・・・・」
(どうしよ。聞いて貰うしかないのかな)
顔に出るというか、翼宿には隠せない柳宿はついつい喋ってしまう
「・・・告白されちゃった・・・」
「・・・は?」
「天文に・・・」
「・・・ホンマか?」
「あたしだって・・・信じられないよ」
せっかく立ち直ったのに
柳宿は大きくため息をついた
「・・・どうするん?」
「・・・そりゃ・・・断り・・・たいけど・・・」
「お前の好きな奴て、天文やないんやな?」
「うん・・・」
「しゃあないやん・・・断るしか」
「・・・だけど・・・」
「早目がえぇ」
待って
何で好きな人にいつの間にか相談乗って貰ってんの?
こうなったら

「ぶっ!!まじかよ!?」
酒嫌いの柳宿が珍しく鬼宿を居酒屋に誘った
「そうよ!!!あたし、どうすればいいの!?仕事の相手だよ!?どうやって断れば・・・」
「おい、柳宿。その辺にしとけや・・・」
翼宿も柳宿を心配して同行していた
何と、柳宿は酒が一度入ると止まらない体質があるのだ
だからこそ、翼宿も鬼宿も自粛していたし、柳宿自身もそんな自分を見せるのが嫌だった
しかし、今回は色々とストレスが溜まっていたので、少しだけと思っていたのに・・・
「そりゃあ・・・柳宿にも「好きな奴」いる訳だし、それは断るしか」
唯一相手を知っている鬼宿はわざとらしくそこを強調した
なぜ空翔宿星揃って、柳宿の相談役になっているのだろうか?
「翼宿、お前鈴菜ちゃんに告白されたよな?どうやって、断ったんだよ?」
「・・・そんなん、自分の気持ちをその場で言うただけや」
「そう簡単に出来たらいいよね・・・あたしはさぁ・・・色々と気遣うんだよ・・・」
柳宿は涙ぐんだ
「お前が自分の気持ちに正直になればえぇんやろ?そら、お前はお節介でお人好しやけど・・・そこを何とかクリアしないとやってけへんやろ・・・」
酒が入っても柳宿は翼宿への気持ちを抑えていた
寧ろ、蒸気が入って益々愛しくなっている
頼りたかった
恋の相談でも
「うぅ・・・たすきぃ・・・」
柳宿は酔った勢いで、翼宿に抱きついてしまった
「だーーーーーーーーーーーーー柳宿っ・・・お前はぁ!!」
びっくりしたのは翼宿より鬼宿だった
「おい、鬼宿。少し静かにしろ」
ここも空翔宿星専用の居酒屋だったもので、親父の奎宿は鬼宿の頭をごついた
「どぉにかしてよぉ・・・」
柳宿は泣いていた
「あかんわ。親父、上の部屋貸してくれ。こいつ、相当呂律回ってるわ」
「あぁ・・・そう思って用意しといたよ、部屋」
奎宿は苦笑いしながら、上の階を指差した
この居酒屋は練習場所にも近かったので、よく打ち上げでメンバーが酔いつぶれた時は上に専用の宿泊部屋を用意しているのだ
「担ぐわ、しゃあない」
「気をつけろよ?」
「運んだら、戻ってくるわ」
そのまま、添い寝してこいよと言いたくなる気持ちを鬼宿はぐっと抑えた

階段を登ってる時も、柳宿はまだ泣いていた
「おい、柳宿。しっかりせぇ。どないしたんや、今日は悪酔いして・・・よぅないで」
「・・・だって・・・あたしだって・・・辛いわよ・・・好きな人には気づいて貰えないし・・・大事な友達から告白されるし・・・」
恋は一番難しい
今の柳宿は、それにコントロールされてるといっても過言ではないのだ
「・・・ゆっくり考えればえぇやん。一個一個考えれば、えぇ答えが見つかるもんや・・・」
「翼宿ぃ・・・」
「ん?」
「・・・あたしの事、嫌いになったぁ・・・?」
まだ酔っている
そんな事は自分でも分かっていた
だけど、聞いてしまっていた
「嫌いになんかなれへんわ・・・お前のお守りはもう慣れた」
「翼宿・・・」
ありがとう
そのまま、柳宿は深い眠りにおちた

翌朝
小鳥のさえずりで、目を覚ました
「・・・う~ん」
頭がガンガンする
「はっ!!」
柳宿はがばと飛び起きた
「やぁ、覚めたかい?」
居酒屋の女将の昴宿が顔を出した
「・・・昴宿さん。あたし、どうして・・・?」
「やっぱり覚えてないのかい。昨日は荒れてたよ?柳宿ちゃん。翼宿がここまで運んでくれたんだけどね、あんた、翼宿に甘えて甘えて効かなくて」
「えぇぇぇぇ!!??」
まったく記憶にない
どうやら、その場にいた者は一発で柳宿の気持ちに気づいてしまっていたようだ
「・・・で、翼宿達は・・・」
「世話になるのは悪いからって、昨日帰ったよ。楽屋で待ってるってよ!!」
「・・・・・・」
「柳宿ちゃん、辛くないかい?交際断るよりさ、好きな人近くにいるのに中々伝えられなくて」
「まぁ・・・」
「さっさと伝えれば昨日みたいな事、なくなるんじゃあないかい?」
「だって・・・昴宿さん・・・あたし・・・」
「芸能界とかで悩んでるんだって?こっそり、鬼宿から聞いたさ。そんなの関係ないよ。あんたが翼宿を本気で好きなら、芸能界だって協力してくれるもんだよ。あんた、ちゃんと頑張ってるしねぇ」
「・・・・・・」
本当は楽になりたい
でも待って?
まだ天文との話が残っている
それを片付けてからだ
どうなるかは、全部自分次第なんだ

「柳宿!!大丈夫かよ!?心配したぜ!?」
楽屋に既に鬼宿は来ていた
「へへ・・・ごめん・・・遅くなった」
「今日はあんま、練習やんねぇからさ。ゆっくり休めよ」
「ありがと・・・」
その時、ヒヤリとした缶が額に当たった
「ひゃっ・・・」
「よぅ、酔っ払い」
大好きな橙頭
「たすきっ・・・」
そうだった
昨日、翼宿に甘えて甘えてきかなかったんだっけ
瞬時に顔が赤くなる
空気を読んだのか、鬼宿は楽屋を出て行った
「翼宿っ・・・」
「あ?」
「その・・・昨日はごめん・・・」
「何が?」
「何か・・・色々・・・」
「・・・・・・」
「ごめんねっ・・・自分の事くらい自分で何とかするよ・・・頼ってばっかで」
「別に俺は構へんけど」
「・・・え?」
「気楽になんなら、話聞くくらいは出来るし」
「・・・ごめん・・・ありがと」
「だから、謝んな」
優しい
冷たさの裏に常に優しさがある
こいつは、そういう奴だった
ちゃんと言おう
天文に

「よぅ」
陰でそのやりとりを聞いていた天文に鬼宿が声をかけた
「鬼宿・・・」
「はよ。珍しいじゃん?お前が俺らの楽屋来るなんて」
何も知らないフリをして鬼宿が尋ねた
「ちょっと・・・柳宿に用があってな」
「ふ~ん・・・・・・まぁ、お前も空気読めただろ?」
「・・・翼宿なんだな」
「そ。昨日は悪酔いしちゃってさ。困ったもんだよ。まだ少し熱っぽい」
「・・・・・・・・」
「あいつも用あるらしいぞ」
ガチャ
「柳宿。お客さん」
「あ・・・」
少し気まずい空気が流れた
「翼宿。出ようか」
「あぁ」

「・・・・・・・・・・」
重たい空気
「「あのっ・・・」」
沈黙を割ったのは二人同時
「あ・・・天文、先どうぞ・・・」
「いや、柳宿の方こそ・・・」
また沈黙
ここはやはり、柳宿が先であろう事は流れから予測はついた
「・・・天文・・・あのね・・・・・・ごめん、あたし・・・好きな人が・・・いるんだ・・・だから、あなたとは付き合えない・・・本当、悩んで悩んで悩みまくったんだけど・・・こんな風に貴方を傷つける言い方しか出来ない・・・本当にごめんなさい・・・」
「・・・・・・」
「けど・・・あたし、またあんたと仕事がしたい。身勝手だけど・・・「空翔宿星」の最高のギタリストは、あんただけだって思ってるから・・・」
「・・・やっぱりか・・・」
「え・・・?」
「あってほしくなかったんだ・・・最近、鬼宿、彼女出来たからもしかしたらって・・・翼宿は国民的スターだし、俺、自信なかった。けど・・・ちゃんと柳宿に気持ち伝えたかったんだよ・・・」
偉いな、天文は
自分が出来ない事を自分にしてくれたんだ
「そっか・・・凄いよ。天文・・・勇気・・・出してくれたんだ」
そこで沈黙
さすがにこれ以上一緒にいるのはきつい
「じゃあ・・・天文・・・あたし・・・夕城プロに用事があるんだ・・・今日は、これで・・・」
柳宿は楽屋から出ようとした
その時
後ろから抱きしめられた・・・

「・・・柳宿の奴、一人で・・・大丈夫かな」
今更ながら、部屋を通した事を鬼宿が後悔し出した
「あいつは、あぁでもせんと行動せんかったやろ」
翼宿は呑気に煙草を吸う
「・・・なぁ。お前は、どうなんだよ?」
「何が?」
「その・・・柳宿がさ、他の男と・・・とか」
「・・・何で」
翼宿は笑った
「あいつは、「空翔宿星」の為に一生懸命頑張ってくれた。プライベートくらい、あいつの好きにさせたらえぇやん」
「そりゃ・・・そうだけど」
何とかして翼宿の気持ちを聞き出したいけど、鬼宿にもそれは出来ない事だった
その時だった
「きゃあああっ!!!!」
柳宿の悲鳴
「柳宿!!??」

「やめてっ・・・天文・・・離してっ・・・」
天文はソファに柳宿を押し倒していた
「何で・・・何で、翼宿なんだよっ・・・柳宿・・・!!!俺じゃ・・・俺じゃあ・・・お前を・・・」
「何してんだよ!!天文!!」
鬼宿が扉を開けた
そこで天文は、柳宿から離れた
「ちくしょ・・・」
そのまま、駆け出した
「天文!!おっ、おい・・・」
鬼宿はそのまま天文を追いかけていった

取り残された翼宿と柳宿
柳宿は涙をボロボロに流して、その肩は異様なほどに震えていた
「た・・・すき・・・」
翼宿はすぐさま駆け寄った
「何があった・・・?」
「天文・・・ちゃんと・・・断ったのに・・・あたしの事・・・襲・・・」
翼宿は柳宿の頭をそっと抱きしめた
「ちゃんと・・・言うてみ」
「あたしね・・・ちゃんと・・・断ったのに・・・襲われて・・・うっ・・・」
頑張った
頑張ったんだ
この妹は
翼宿は、力の限り妹を強く抱きしめた

「・・・天文」
天文は行き止まりの廊下でもたれかかって息を切らしていた
自分でも何をしたか分からない状態らしかった
鬼宿は、ため息をついた
「あんな事する為に、楽屋に来たのか?」
「違う・・・ただ、俺は・・・柳宿の返事が聞ければそれでよかった・・・けど・・・翼宿より俺は下等なのかって・・・普段から気にしてる事考えたら・・・気が気じゃなくなって・・・」
「・・・・・・・」
翼宿は時には同性からも憧れられている存在だった
それは一緒に演奏している鬼宿だって感じる事だった
その気持ちは分かる
「けどさ・・・お前は余計に柳宿を傷つけちまったよ・・・」
「分かってる・・・だから」
鬼宿は、天文の肩に手を置いた
「お前、しばらく柳宿と会うな。まだ全体練習まで日はあるから、ゆっくり頭冷やせ」
特に何も叱らず鬼宿は、天文にそう声をかけた
天文は震えながらも、静かに頷いた

一方、楽屋では翼宿は、ずっと柳宿が泣き止むのを待っていた
「もう泣くな」
「うぅ・・・」
「泣いたって、何も変わらん」
時には彼は厳しかった
「お前は、何も悪くない」
精一杯励ましてくれているのが分かる
「・・・翼宿・・・お願い・・・天文を辞めさせないでね・・・あたし・・・こんな事で絆壊れるの嫌だから・・・あんた達も責めないであげて欲しい・・・」
天使のように優しい娘だった
翼宿は、柳宿の頭を撫でた
「分かった・・・お前がそう言うんなら、そうするわ。夕城プロには、今回の事、黙っとく」
「・・・ありがと」
「・・・頑張ったな」
その言葉に涙が溢れた
貴方だけ
もう貴方だけしか見えない・・・

それから数日が経ち、柳宿にも徐々に笑顔が戻ってきた
天文も十分に頭を冷やし、きちんとギターも練習しているようだ
そして、いよいよ合同練習の日がやってきた
「おはようございま~す」
「よろしくお願いしま~す」
スタッフや夕城プロも入っての合同練習だ
翼宿と鬼宿は、柳宿の事がどことなく気になっていたが、顔には出さずにいつも通り接した
すると
「おはようございます!!」
天文が元気よく現れた
その表情に以前の陰りは消えていた
「天文、おはよっ!!」
「おぅ!!柳宿!!今日も元気だな!!」
「天文もね!!」
いつも通り
変わらなかった
翼宿と鬼宿も安心して微笑んだ
そこで天文は、柳宿に耳打ちした
「この前・・・ごめんな」
「ううん!!気にしてないよ!!」
「俺・・・もっとお前らの役に立つように頑張るからさ・・・これからも友達でいてくれるか・・・?」
「もっちろん!!!」
そこで天文も微笑んだ

「・・・お前もさ、早く告っちまえよな」

そのまま、天文はスタンバイに入った
(ごめんね、天文。貴方の想いは無駄にはしないから)
スポットライトの下には、柳宿の王子様が光り輝いていた

あたしも・・・頑張るよ
いつかあいつに気持ちを伝えるから・・・
いつか・・・
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