Flying Stars

『えぇか?俺は、仲間を傷つける奴だけは、絶対に許さへん』
『なぁ?恋するて、そんな悪い事か?』
自分と鬼宿を助けた翼宿
そんな翼宿が・・・

『先日の「Sound Station」の翼宿さんの発言で、「空翔宿星」ファンクラブの会員は、10万人を突破しました。この勢いは、留まる事を知らず、ほとんどが翼宿さんファンを占める事は間違いないでしょう』
徹夜明け
楽屋のテレビから流れるそんな報道に、柳宿は耳を傾けていた
机には、たくさんの譜面紙の山
しかし、ほとんどが途中で切れて、終わり
曲が書けない
深刻な問題だった
なぜなら
柳宿は恋をしているから
「おはよ」
ぼけっとしてる柳宿の横に珈琲が置かれた
見上げると、我らがリーダー
「たっ、たま・・・おはよ・・・」
「また徹夜したのか?」
「う~ん・・・いい曲が書けなくてねぇ」
「それで、恋しい翼宿のニュース見てたって訳か?」
「ぶっ!!!!」
その反動で、柳宿はむせた
「ばっ・・・馬鹿言わないでよ!!だって・・・何処つけてもこの報道しか、今の時間やってないんだもん!!!」
「そう動揺すんなって~」
けらけらと笑う鬼宿
からかってる
そんな衝動で、また顔が赤くなり俯く
暫し沈黙

「嘘つくなよ。お前、もう手遅れだろ?」

鼓動が鳴る
「・・・たま、おめでと。美朱と結ばれたじゃん?さっすが~・・・あんた達って両思いだったんじゃんね?」
「・・・まぁなぁ。あいつは、自分の中で妹以上の想いが既にあった訳だし。って、あのなぁ~」
話題を逸らされて、すかさず話を戻す
また沈黙
「・・・俺、応援するよ?あいつ、高1からの付き合いだけど、いい奴だよ。全然曲がってない。お前の事、凄く真剣に護ってくれるしさ」
「・・・無理だよ。だって、この報道中だよ?」
「・・・・・・」
「さすがに天地の人間だよ、こいつは」
「んなこたねぇよ。一番身近にいる異性、お前だしさ」
「あいつは、あたしの事・・・妹以上には思ってくれないよ、絶対」
「何弱気になってんだよ~お前らしくねぇな!!よし、俺と美朱で協力してやる!!」
「はぁ?」
「はよ~」
そこに翼宿が欠伸をしながらやってきた
「はよ」
「おっ、おはよ!!」
すぐさま、柳宿はつけていたテレビを消した
「すっ凄いね!!凄い人気!!何処つけても、あんたの話題ばっかじゃん!!」
「ん?」
なぜだか、一番話したくない話題を出す柳宿
「本当、「空翔宿星」絶好調って感じ・・・」
「おい」
「顔、洗ってくる!!」
柳宿はそのまま翼宿の横を通り過ぎて、楽屋を出た
「・・・あいつ、何かあったん?」
「さぁ?」
鬼宿は肩を竦めて見せた

顔を洗う柳宿
「馬鹿・・・しっかりしろ。あいつをそんな風に見ちゃ、駄目だってば・・・」
何度か自分に言い聞かせてきた
本当はもう遅い
そんなの分かってる
それでも変に強がって、彼を忘れようとした
そんな悪循環で、柳宿は曲が書けない
その時
♪♪♪
メールの着信音が鳴った
こんな時間に誰だろうと携帯を開く
『From:美朱
柳宿せんぱ~い★おはようございます!!
今日、もしよかったら一緒にお昼どうですか!?』
嫌な予感がした
しかし可愛い後輩の頼みを断る事が出来ずに、柳宿は「OK」の返事を送った

昼休み
柳宿は午前中の練習を終えて、ビル下のレストランで美朱と待ち合わせした
「柳宿せんぱ~い!!」
遂先日まで、発作で悩んでいたとは思えないほど、明るい美朱が走ってきた
「こらっ!!美朱!!そんなに走ったら、体に悪いでしょっ!?」
「えへへっ♪先輩に早く会いたくてっ!!」
(可愛いなぁ。あたしもこんくらい可愛ければいいのに)
「先輩!!今日、あたしのおごりです!!何でも好きなもの、頼んじゃってください!!」
「えぇ!?何言ってんのよ!!後輩に奢って貰うなんて、情けないわよ!!あたし、そんなにお金なくないわよ!?」
「いいからいいから♪」
何か企んでるな
そう思いつつもここは素直に従った
「・・・で、柳宿先輩!!あたしに何でも話しちゃってください!!」
「なっ、何を!?」
「先輩の悩みですよ~」
鬼宿の奴
後で覚えてろよ
「・・・美朱。その指輪」
そこで、美朱の右手の薬指に光る指輪を見つけた
「あ・・・これ、この前鬼宿から・・・貰ったんです!!仕事で中々会えないけど、これいつも付けててねって!!」
途端に頬を染めてそう話す美朱
「そっかぁ~よかったじゃん、美朱!!幸せそうだね!!あんた、この後たまに会ってけば、いいじゃん!!何でわざわざあたしになんか・・・?」
「だって、今日のは鬼宿が・・・」
そこで言いかけて口を噤んだ
「や~っぱりねぇ~・・・たまに何か言われた訳だ?」
「・・・ごめんなさい、先輩。騙すような事して・・・だって・・・柳宿先輩が翼宿先輩の事で・・・」
「そこまで聞いてるのね・・・」
柳宿は苦笑いをした
「先輩・・・あたし、いずれはその!!同じメンバーとしてじゃなくて、人間として!!柳宿先輩と翼宿先輩は結ばれるんじゃないかって密かに信じてましたよ!?」
「ちょっとちょっと~。何言ってんのよ、美朱。そんな事ある訳・・・」
「あたし、応援します!!鬼宿と2人で、バックサポートします!!お2人を!!」
「えっ・・・えぇ・・・?」
「柳宿先輩も!!いつまでもキューピッドは辞めて、自分の恋に専念してください!!」
「中々難しいかもよ~・・・世間の目もあるしね。その・・・同じグループのメンバー同士が付き合うとなると・・・みんなに迷惑かかるわ。スタッフにもファンにも・・・」
「先輩・・・」
「それに、あたしはどうしたって、翼宿にとって妹以上にはなれないのよ・・・」
「そんな事・・・」
「あいつには、でっかい夢もある訳だし・・・音楽を「空翔宿星」を誰よりも愛してるのは翼宿だからね」
「・・・・・・・・・・」
そう言って、自分に言い聞かせていた
あいつを好きになってはいけない
そう自負するしかなかったのだ

楽屋に戻ると
「お帰り」
翼宿がベースの手入れをしていた
「あれ・・・たまは?」
「何か用事あるから、帰るらしいで」
「・・・おいっ!!!」
未だに自分と翼宿をくっつけよう作戦は進行していたのだ
(多分、美朱と一緒に帰ったんだろうな・・・あの馬鹿)
「俺らも終わりにするかぁ?ドラムいぃひんと、練習出来へんしな」
「そう・・・だね」
相手の顔が見づらい
「せや。帰り、ちょっと付き合ってくれへんか?」
「えっ!!??」
派手に驚いた
「楽器屋」
「・・・あぁ」
(そうだ。一緒に帰るんだもん。ついでだもんね)

「おぅ、翼宿!!柳宿ちゃん!!最近、拍車かかってんねぇ~翼宿、テレビ見たぜ?かっこいいな、お前は~」
空翔宿星ほぼ専用の楽器屋「SuZaKu」の店長功児は、笑顔で出迎えた
「功児、いつもの奴と譜面紙100枚くれや」
「えっ・・・?」
そこで柳宿は驚いた
「何で・・・?」
翼宿は、無視して勘定を自分一人で払った

「翼宿」
「何や」
「気づいてた・・・?やっぱり」
帰りのバイクで柳宿は翼宿に話し掛けた
「せやかて、たまがお前の様子おかしいて昼間もずっと言うてたしな」
何で元気ないのか、聞かないのかな
「作曲者が情けないね」
「別に・・・誰にでもスランプはあるやろ」
もうすぐ自分の家に着く
何だか今日は翼宿を帰したくなかった
「・・・翼宿」
「ん?」
「そこの公園で停めて?」
「?」
「話がある」

ベンチに座って煙草を吸う翼宿
その向かい側で柳宿は黙って、ブランコを漕いでいる
(何で、こんなトコに連れ込んだんだろう?ああ、何を話すの?自分!!一体、何を・・・)
結局、自分でも訳が分からず、連れ込んだのだ
辺りは薄暗くなってきて、元々人通りは少なかったからスキャンダルになる心配はなかったけど
「・・・あのね、翼宿」
「何や」
「あたし・・・その・・・何で曲書けないか・・・知ってる?」
「・・・さぁ」
そこまでは聞いていなかったようだ
「悩んでるんだわ、珍しく」
「・・・・・・」
「あたしらしくないの、何でだろ」
(何で?何でこいつにこんな事話してんの?)
「・・・何や。そんな深刻なんか?」
明らかに心配してくれている

「あたしさ・・・・・・恋・・・・・・してる」

やっと絞り出た言葉
彼は何て返す?
「・・・なるほどな、それでか」
人事だ
「よっぽど好きなん?そいつの事」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん」
やっと絞り出た言葉
本人に聞かれて素直に答えられた
(ていうか、こいつはそういう話嫌いだよね。仕事と恋愛混ぜるなって、この前、言われたばかりなのに)
翼宿は、煙草を灰皿に突っ込んだ
「せやったら、そいつの為に書けや」
「え?」
「そいつが聞いてくれるて思えば、少しは書く気にならん?」
「・・・まぁ」
彼のアドバイスは、それだけだった
(誰の事なのか、聞かないのかな・・・)
「・・・ま、頑張れや」
翼宿は譜面紙を柳宿に手渡した
柳宿はその譜面紙を両手で受け取ると、ぎゅっと握り締めた
「・・・ごめん、ありがと」
「いや」
告白する気にはなれなかった
だけど気づいた
否定できないこの気持ち
好きなままなら、いいよね・・・?
邪魔しないから
あんたの夢路は絶対に

次の日
アシスタントも加えてのスタジオ練習になった
柳宿は何とかあれから徹夜で、新曲を書き終えた
『いいじゃん!!柳宿!!どうしたんだよ、一体!?』
曲を聴き終えた鬼宿は大変気に入った様子だ
そして翼宿は、何も答えなかった
練習中もいつの間にか翼宿の姿ばかり目で追っていて、いつもなら何ともない女性スタッフとのやりとりにまで嫉妬してしまう
休憩になり、柳宿は頭を冷やす為に、自販機まで行った
(・・・・もっとしっかりしなきゃ・・・・益々意識してんじゃないの・・・)
缶で額を冷やす
その時
「・・・柳宿」
陰から顔を出したのは、空翔宿星のギターアシスタントの天文だった
「あぁ、天文。お疲れ様・・・」
「その・・・大丈夫か?最近、顔色よくなかったから・・・」
「そっ、そんな事ないよ!?元気元気!!」
柳宿は無理に笑顔を作った
「柳宿・・・今さ、好きな奴・・・いる・・・?」
「ぶっ!!」
柳宿は缶ジュースを喉に詰まらせた
「なっ、何!?急に・・・」
「いや、いるのかなぁ・・・って」
「そっ・・・そういう天文こそ、いるんじゃないの~?あ、もしかして女性スタッフの中とか?」
自分の事を棚に上げて、天文をどつく
「・・・お前」
「え・・・?」
「お前なんだ」
「へっ・・・?」

「柳宿!!俺と・・・付き合ってくれないか・・・?」

突然の告白
頭の中は、益々混乱する
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