Trick or Treat?

「ふぅ・・・」
受験勉強の後の様な様子でタスキは書斎の机の椅子から身をもたれ掛けた
全然入った事の無い父親の書斎
いつか自分が勉強する時の為にと父が残しておいてくれたのだ
父の書斎には数多くの専門書が並んでいた
その中の目当ての本をタスキは見つけ、たった今まで読んでいたのだ
その題名は
「魔導帥」
その中の555P目の項目をずっとタスキはにらみ続けていた
「魔導帥に戻る方法それは・・・一人の魔女と交わり、その生気、知識、能力を受け取る」
一瞬で目に痛みが走るほど痛い文面
自分にとって知り合いの魔女は
あいつしかいなかった
強がりの癖に泣き虫な可愛いあいつ
「アホ・・・」
タスキは目頭を抑えた
「そんな事・・・出来るわけ無いやろ・・・」

「でねぇ・・・此処の学校の人達総動員でタスキを殺そうとしたのよ!酷いと思わない?」
「うんうん!」
放課後、帰路を共にしていたヌリコは昨夜あった出来事を親友のホウキに一通り話していた
「でも、ヌリコがタスキ君を護ったんでしょ?かっこいいじゃない!」
ホウキは肘でヌリコを突付いた
「そんな・・・あたしは当たり前の事しただけよ・・・でも昨夜の出来事でタスキが人間不信になっちゃってあそこから逃げ出していないと良いけど・・・」
「大丈夫よ!ヌリコがいるじゃない!!」
「んなっ・・・」
ホウキの言葉にヌリコは瞬時に赤くなった
「ねぇ・・・、ヌリコ・・・告白してみたら?」
「こっ・・・!?何言ってるのよ!あいつはあくまで妖怪!あたしは人間よ!?」
「差別は駄目よ・・・?自分で言ったんでしょ?」
「うっ・・・」
「ホントは恥ずかしいだけな癖にvヌリコは純情乙女だからねv」
「ホウキに言われたくないわよ!」
帰路が別れてそのまま二人は別れ、ヌリコは教会の方向へと歩いていった

「タスキ!いるの?」
扉を押し開けて中を覗き込んだ
「・・・ん~?」
椅子に寝転がっていたタスキは眠そうに起き上がった
「ちょっと~!吸血鬼さんが一日中寝てても良いの?たまには身体を動かさないと!!」
「アホ・・・俺は吸血鬼やで・・・?」
「あ。そっか・・・」
タスキは少し緊張していた
何故あの文面からこいつを意識するのか
「・・・何よ?人の顔じろじろ見て・・・」
「否・・・、何でも・・・せや・・・お前この前俺の部屋に忘れ物して行きよったんや・・・取りにけぇへんか?」
「あ!もしかしてあれ・・・?」
二人はタスキの部屋へ続く階段を降りていった

「あった~!やっぱりこんなトコに!!」
それはヌリコが唯一の両親の形見として持っている香水だった
「もう!あるんならあるってちゃんと言ってよ!!」
いつも肌身離さずその香水を持ち歩いていたヌリコはソファに腰掛けているタスキをにらみ見た
「アホ・・・。言い出す前に昨日の連中が来てしもたんや・・・」
そう言うとタスキは机の上の血のドリンクを飲み干した
これを飲むと冷静さを保てるようになる
「何これ!?血じゃないの~!こんなのどっから持ってきてんのよ!?」
「アホ抜かせ。親父のワインセラーにあったんや。まぁ、この味やと女やな。」
「気持ち悪ぅ~・・・」
全身悪寒がしてヌリコは両の手で自分の体を摩った
「じゃ、あたし帰るわね!香水見つけられただけでもお礼言っておくわ!!」
ソファから立ち上がろうとして腕を掴まれた
「・・・何」
面倒くさそうにタスキを見下ろす

「・・・今夜は帰さへん・・・」

その言葉に鼓動がドクンと鳴った
ソファにもう一度身を翻させられて、両腕を掴まれた
「・・・何言ってるのよ!?」
半分おどけた様に問い返してみる
相手の目は戸惑いと決意で少し曇って見えた
「・・・このドリンクの代わり作る訳やないけどな・・・俺に協力して欲しいんや・・・」
「協力・・・?」
「今夜だけお前と一緒にいて・・・」
「・・・・」

「交わりたい・・・」

それは、彼にとっての決死の告白
「・・・交わるって・・・」
「お前、俺が嫌いか・・・?」
「嫌い・・・じゃないけど、でも・・・」
顔が赤くなる
「・・・今夜だけやから・・・」
何故今夜だけなのか
今夜が終われば只の友達なのか
意味が判らない
こいつのやる事成す事全てが
でも、自分もタスキがきっと好きなのだ
その気持ちを自分で確かめる為ならば
こいつの為になるのならば
ヌリコは目をそっと閉じて、暗黙の了解をした
その唇は僅かに震えていたが・・・
二人は、その場に倒れこんだ

スマンナ
コレハスベテオマエノタメヤカラ
コンヤガオワレバ、オマエヲマモレル
マドウシニモドレルンヤカラ・・・
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