Trick or Treat?

「ヌリコ!!!」
クラスに入った途端、親友のホウキが泣き顔で飛びついてきた
「ちょ・・・ちょっとホウキ!?如何したのよ!?」
「良かった・・・良かった・・・ヌリコ、殺されなかったのね・・・?」
その言葉にヌリコはハッとした
「ホウキ・・・あんた・・・」
「見てたわ・・・貴女が火祭りにあげられる時はどうなる事かと・・・でも、良かった・・・」
見るとヌリコは松葉杖で手足を固定している
「これくらいで済んだのね・・・」
「有難う・・・ホウキ・・・もう大丈夫よ!これからはあたしが気をつけて行動しなきゃね!!」
頬が濡れたホウキにヌリコは軽くウインクした
「でも・・・貴女を助けた方がその・・・吸血鬼って本当なの・・・?」
びくっと竦んだ
やっぱりもう街中の噂になってしまっていたのだ
そりゃそうだ
今まで人間の目の前に姿を晒さなかった吸血鬼が、群衆の前で自分を助け出してくれたのだから
「・・・うん・・・でも悪い奴じゃないのよ!!あいつが助けてくれなかったら、あたし今此処に居ないんだもの・・・」
「・・・そうよね・・・判ってるわ・・・貴女を助けてくださった方なのだもの・・・悪い方な訳ないものね・・・」
唯一信頼できる親友にヌリコはホッとした様に微笑みかけた
その背後で数人の男子生徒がヒソヒソ話をしていたとも知らずに・・・

その夜・・・
鬱蒼と茂った暗い森の中に佇む一軒の古い教会
といっても絶好の隠れ家になる様に見た目は教会でも中身は十字架を外して、吸血鬼が住み易い様になっている・・・
そこまでもう計算済みだった
松明を掲げて退治道具を持った人々には・・・
バンッ
荒々しく開け放たれた扉
「・・・誰や?ノックも無しに・・・。失礼やなぁ・・・」
のそっと起き上がったタスキの目に映ったものは信じられないものだった
ズラリと並ぶ老人や中年の男性、そして男子生徒・・・
「何や?今日は神聖な行事でもあるんですか?こんな大勢で・・・」
「・・・ふざけるな・・・この悪魔・・・!何故またこの街に現れた・・・?」
真ん中の老人が唇を震わせた
「・・・そんなん俺の勝手や・・・」
「何を言っている!私達の生徒を誑かして・・・!これ以上お前の好き勝手にさせる訳にはいかない・・・」
その言葉にタスキはプツリときた
椅子から面倒くさそうに立ち上がると
「あのなぁ!あれはあんたらの不注意もあるんやで!何でもっと厳重に注意せなかったんや!そんな奴らに俺がどうこう言われる筋合いはないで!!」
と、群集に怒鳴りつけた
「悪魔に説教されるほど私らも馬鹿ではない・・・!」
こういう人間を棚上げな性格と言うのだ
タスキはため息をつくと
「もう帰ってくれや・・・お前らと遊んでる時間なんぞ無いんや・・・」
その場を立ち去ろうとした
すると
「待て!これを見ろ!!」
老人の声がした
チラッと見やったタスキは次の瞬間、その場に崩れ落ちた
十字架
たくさんの十字架がタスキの視界に飛び込んできた
呼吸が苦しい
心拍数があがる
体中が麻痺する
「フッ・・・やっぱり、吸血鬼は十字架が苦手なのだな・・・」
「き・・・さ・・・まら・・・!!」
「お前には今から世界警察に連れて行って厳重な処分をしてもらうよ・・・」
老人が指示をすると周りに立っていた生徒は弓矢を一斉に引いた
「さぁ、君達!この前の体育の腕試しだよ!!」
こんな膨大な数の弓矢が刺さったら処分される前に死んでしまう
一瞬でそれを悟った
タスキはきゅっと瞳を閉じた

すると

パァンパァンパァン
鈍い音と共に生徒の悲鳴が聞こえた
そっと目を開けると、弓矢の残骸が足元に転がった
「何やってるんですか!?」
ヌリコが入り口に立っていた
たった今魔法を使ったようだ
「ヌリ・・・コ・・・」
倒れかけたところをさっと人ごみを掻き分けて来たヌリコに受け止められた
「タスキ!大丈夫!?しっかりして!!」
顔が蒼白になっているタスキを見てヌリコは押しつぶされそうな思いをした
抱きしめて
「ごめんね・・・」
そう呟いた
「ヌ・・・ヌリコ君!君は何故そんな奴を庇うのかね!?そいつは絶滅した吸血鬼の生き残り・・・」
「だから・・・何だって言うんですか!?」
怒りで震えるヌリコを見てその場のざわめきはぴたりと止んだ
「何だって良いわよ・・・それでもこいつはきちんと人間の心を持ってる・・・!!」
涙が溢れた
「校長先生や先生方までよってたかってこいつを殺そうとして・・・!どうしてですか!?そんなに見た目で判断するほど貴方達は人間が腐っていたんですか!?」
情けないよ
悲しいよ
何故こんな人間が、世には溢れているの・・・?
「あんた達の方がねぇ!悪魔よ!よっぽどの悪魔よ!!」
その言葉に生徒の数名がハッとした
あの時タスキが言った台詞と同じ言葉・・・
その時
ギィィィ
またお客様
そこには何故かその場にはいなかったホトホリが立っていた
「・・・ホトホリ先生・・・」
「皆さん・・・もうこんな醜い事は止めましょう・・・彼は浅はかだった私の目を覚まさせてくれたかけがえの無い存在なのです・・・そんな人に刃を向けてしまうなどこの学校は荒れ果てていたのですか?いつ、彼が街を襲撃したのです・・・?」
「・・・・」
「タスキ君がヌリコを助けてくれなかったら彼女は間違いなく此処には居ない・・・そしてもし我々の学校の存在がばれたらこの学校の存続も危うかったかもしれないんですよ・・・?そんな有り難い事の為襲撃されるかもしれないという危険を冒してまでタスキ君はヌリコを助けてくれた・・・」
反省したようにそこにいた生徒達、教師、そして校長先生は項垂れた

「・・・もっと人に優しくなりましょう・・・」

ホトホリは静かに微笑みかけると教会を後にした
その場に佇んだ人達もそれに続いて教会を後にした

ヌリコがタスキに魔力を与え続けて一時間
タスキが目を覚ました
「タスキ!!」
「・・・ヌリコ・・・」
「よ・・・かった・・・タスキ、生きてた・・・」
途端に涙が溢れた
「ごめんね・・・こんな事になっちゃって・・・許せないよ・・・よってたかってあんたを半殺しにして・・・」
ヌリコは悔しそうに涙を拭った
「・・・お前のせいやない・・・そもそも俺が出てった事自体が悪かったんや・・・」
「そんな・・・!あんたが居なかったらあたしあのままどうなってたか・・・あんたは人間なんかよりよっぽど勇気がある人だよ・・・?」
「・・・おおきに・・・」
「まだだるい!?あたしの有りっ丈の力与えたんだけどまだ足りない・・・?」
ヌリコが心配そうに覗き込むと突然タスキがヌリコの肩を掴んで自分の胸元に引き寄せた
「タッ・・・」
ヌリコはいきなり床を共にされてびっくりした
「この方がえぇ・・・」
全身で感じる温もり
ヌリコは妙に嬉しくなった
「・・・あたしも!」
二人抱き合いながら眠る時間
そう長くは続かない事を知っていながらも、幸せな時を刻んでいた
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