Trick or Treat?
「ロコウ!ヌリコは・・・ヌリコは何処へ行ったんだい!?」
慌ててロコウに駆け寄る祖母
「それが・・・僕と口論になって家を飛び出していって・・・」
「何だって!?」
祖母は突然腰を抜かした
「どっ・・・どうしたんだい!?ばあや!」
「この馬鹿者!何故ヌリコを外へ出したんだい!!」
「何が・・・?」
「今日はね・・・年に一度の魔女狩りの日なんだよ!?もしも魔女が狩人に見つかったら早朝に街で公開処刑されるんだよ!」
「何だって!?」
早朝
空がどんよりと曇っている
何か嫌な事が起こりそうな予感
タスキは不安げに教会の窓に目をやった
(あいつは・・・、今日も元気に学校行っとるんやろな・・・何も心配する事ないやないか・・・)
そして深くため息
すると
「タスキ!!」
「何や!?びっくりさせんなや!」
昨夜訪ねてきた筈の親友が血相を変えて教会に駆け込んできた
「お前、こんなトコで何してんねん!?街で大変な事になっとるんやで!?」
「は・・・?」
「今日、魔女裁判が街であって、今見てきたら、あのヌリコって女の子が血まみれで・・・」
「何やて!?」
ついに事の真相を知ったタスキは全速力で駆け出した
「待て!タスキ!真っ向から攻めていったら街の奴らに見つかるで!」
「そんな事、言っとる場合やないやろ!?」
二人の吸血鬼は風を切るように森を駆け抜けた
ドンドンドンドン
裁判のお告げの太鼓が街中に響き渡った
「今日も始まるよ・・・あの忌まわしい裁判が・・・」
「あたしは思うよ。毎度毎度何の罪もない魔女を何故処刑しなければいけないのかねぇ・・・」
「しかもあたしら街人の前でなんて酷だよ・・・実行する奴らの方がよっぽど悪魔だよね・・・」
「見てよ!あの子!あんな可愛い子が今回処刑されるの!?」
一斉に処刑人の括り付けられた木を見て街人は仰天した
そこには頭、両腕、背中、両足が血まみれでぐったりした綺麗な紫髪の女性
その頬はまだ乾いていない涙が伝っていた
「ヌリコ!?」
念の為に裁判の様子を見に来たホウキは悲鳴を挙げた
「何をしているの!?ホウキ!早く家の中へ入りなさい!」
「ママ!ヌリコが・・・ヌリコが・・・!!」
「可哀想だけどしょうがないでしょ?貴女が殺されなかっただけでも・・・」
「嫌!ヌリコ!ヌリコーーーー!!」
母親に強引に家の中へ連れて行かれたホウキは泣き喚いた
親友が殺される
「何故、ヌリコが・・・!」
「あれ程家の外へ出るなと言ったのに・・・」
「このままじゃ、あの子は・・・」
遠く離れた白桃魔法学校の職員室から双眼鏡で広場を見つめる職員達
「先生!何とか出来ないのですか!?」
校長にヌリコの担任は縋った
「今、我々が出て行っては、この学校の存在がばれてしまう・・・悔しいが、我々の出る幕は・・・」
校長は唇を噛み締めた
ざわめく職員室で一人呆然と窓の外を見つめる職員・ホトホリ
「ヌリコ・・・!ヌリコ・・・!」
只、必死に祈るように彼女の名前を呟く
生徒が殺される
「ヌリコ!ヌリコ!」
祖母が泣きながら広場へ飛び出して行こうとする
「駄目だよ!ばあや!今、ばあやが行ったら・・・」
「お放しなさい!ロコウ!何を言っているの!?このままじゃ、あの子が・・・」
そんなのロコウにも判っていた
只どうして良いか判らないのだ
自分のせいでヌリコは・・・
孫が殺される
妹が殺される・・・
タスキとコウジが広場の茂みに辿り着いたのは、丁度ヌリコの足元に火が点けられる丁度その時だった
「あいつら・・・!よくもヌリコを・・・!」
余にも無残なヌリコの姿にタスキは拳を握り締めた
「どないすんねん!?此処まで来てしもうたけど俺らが今出てったらあっという間に捕まえられるで!?」
コウジが横から耳打ち
そうだ
絶滅した筈の吸血鬼がまた街人の前に姿を現したら、自分達も殺されるかもしれない
でも、そんな事躊躇してる暇はなかった
大事な女が今殺されようとしているのに
「そんな事っ・・・!男がすたるわい!!」
茂みから飛び出した
「タスキ!」
後ろの親友の声を無視して
瞬間タスキは精神を集中して呪文を唱えた
「水(ミナ)!!」
バシャッ
ヌリコの頭上から水がザバッとかけられて炎を消した
「誰だ!?」
広場がざわめきに包まれた
「緩(カン)!!」
ヌリコの縛られた体が一瞬にして自由になり、静かにタスキの腕へと倒れこんだ
抱き上げたその身体は驚く程軽かった
でもまだ死んでいない
微かな温もりがそこにはあった
「あれって・・・!」
「吸血鬼よ!!」
「きゃああああああっ!!」
街の女性はパニックになった
「お騒がせすんませんなぁ・・・今日の裁判は中止にしてもらおか・・・?」
「なっ・・・何を・・・!」
「お前らなぁ!!ふざけんのもいい加減にせぇよ!!こいつはな・・・そこらの人間なんかよりよっぽど明るくて優しい奴なんや!魔女は魔女でも立派な人間なんやで!肩書きだけで簡単に殺すんやないわ!ボケ!見てる奴らもなぁ!こんなん見て何が楽しいんや!醜いやろ!?悲しいやろ!?何で言わへんのや!そういう奴らの方がなぁ!よっぽどの悪魔や!!」
怒りを露にした表情の親友にコウジは只只呆気にとられていた
そしてロコウも・・・
彼がこんなに正義感溢れる少年だったとは知らなかった
タスキはすっかり静まり返った街を背に教会の方向へと飛び去っていった
「何や。見直したで?」
「何が?」
「お前がそこまでこの子に感情移入してたとはなぁ・・・」
教会の中
タスキとコウジは寝台に横たわるヌリコの側で談話していた
「別に・・・ホンマの事言っただけやがな・・・」
「はいはい・・・んじゃ、俺はそろそろお暇するわ!」
コウジは手を挙げると部屋を出て行った
そのすぐ後
ヌリコが目を覚ました
「タスキ・・・?」
「おぉ!ヌリコ!大丈夫か?」
タスキは満面の笑みでヌリコの目覚めを出迎えた
まるで何事も無かったように・・・
ボロボロとヌリコの瞳に涙が溢れた
それは生きている感覚の喜びより、タスキに会えた喜び
タスキにたまらなくなって抱きついた
「うっ・・・、ひっ・・・く・・・、うぅっ・・・」
怖かった
あの暗闇の中で、タスキに会えないまま殴られて殴られて
もう自分は生きてないんじゃないかと思った
タスキは震えるヌリコの小さな身体をしっかりと抱きとめた
「よしよし。怖かったな・・・」
まるで今だけは兄のように、この少女を放ってはおけなかったのだ
「・・・身体何ともないか・・・?」
そういえば
聞かれて初めて気がついた
腕が動く
足が動く
何故・・・?
「ホントだ・・・どうして・・・?」
「・・・俺の知り合いが治してくれたんや・・・よかったな・・・せやけど仮治やから松葉杖は持たなあかんけどな・・・」
「そう・・・」
「すまんな・・・ヌリコ・・・お前を一人にさせてしもて・・・ロコウさんもさっき来て言いはった・・・」
「え・・・?」
『すまなかった・・・タスキ君・・・僕は君を肩書きだけ悪者だと決め付けていた・・・君はそんな人ではなかったんだね・・・。魔女である妹が純粋な様に・・・君にもちゃんと人間の心があったんだね。君は妹の命の恩人だ・・・お礼を言わせてくれ・・・』
(そっか。兄貴も目を覚ましたんだ)
ヌリコはほっと息をついた
「・・・タスキは何にも悪くないわよ・・・悪いのは醜い心を持った人間達だもの・・・」
そんな心の持ち主も、この魔法で救ってあげられたら・・・
ヌリコは唇を噛み締めた
そのヌリコの気持ちを察したかの様に
「お前も気張るなよ・・・?」
タスキはそう一言声をかけた
そんなタスキに向かってヌリコは笑顔で頷いた
本当に打ち明けられる
本当の自分を見てくれる
大切な人が出来たね・・・
「おい・・・見たかよ・・・?今日の号外・・・吸血鬼が出たらしいぜ・・・?」
「そうなんだよな・・・ヌリコが一緒だって言うじゃねぇか?」
「あいつが危ないぜ?」
「これは、先生達にもチクって総動員で捕まえなきゃな・・・」
男子達が下校時に話していた台詞
そして掲げた作戦
吸血鬼絶滅作戦
慌ててロコウに駆け寄る祖母
「それが・・・僕と口論になって家を飛び出していって・・・」
「何だって!?」
祖母は突然腰を抜かした
「どっ・・・どうしたんだい!?ばあや!」
「この馬鹿者!何故ヌリコを外へ出したんだい!!」
「何が・・・?」
「今日はね・・・年に一度の魔女狩りの日なんだよ!?もしも魔女が狩人に見つかったら早朝に街で公開処刑されるんだよ!」
「何だって!?」
早朝
空がどんよりと曇っている
何か嫌な事が起こりそうな予感
タスキは不安げに教会の窓に目をやった
(あいつは・・・、今日も元気に学校行っとるんやろな・・・何も心配する事ないやないか・・・)
そして深くため息
すると
「タスキ!!」
「何や!?びっくりさせんなや!」
昨夜訪ねてきた筈の親友が血相を変えて教会に駆け込んできた
「お前、こんなトコで何してんねん!?街で大変な事になっとるんやで!?」
「は・・・?」
「今日、魔女裁判が街であって、今見てきたら、あのヌリコって女の子が血まみれで・・・」
「何やて!?」
ついに事の真相を知ったタスキは全速力で駆け出した
「待て!タスキ!真っ向から攻めていったら街の奴らに見つかるで!」
「そんな事、言っとる場合やないやろ!?」
二人の吸血鬼は風を切るように森を駆け抜けた
ドンドンドンドン
裁判のお告げの太鼓が街中に響き渡った
「今日も始まるよ・・・あの忌まわしい裁判が・・・」
「あたしは思うよ。毎度毎度何の罪もない魔女を何故処刑しなければいけないのかねぇ・・・」
「しかもあたしら街人の前でなんて酷だよ・・・実行する奴らの方がよっぽど悪魔だよね・・・」
「見てよ!あの子!あんな可愛い子が今回処刑されるの!?」
一斉に処刑人の括り付けられた木を見て街人は仰天した
そこには頭、両腕、背中、両足が血まみれでぐったりした綺麗な紫髪の女性
その頬はまだ乾いていない涙が伝っていた
「ヌリコ!?」
念の為に裁判の様子を見に来たホウキは悲鳴を挙げた
「何をしているの!?ホウキ!早く家の中へ入りなさい!」
「ママ!ヌリコが・・・ヌリコが・・・!!」
「可哀想だけどしょうがないでしょ?貴女が殺されなかっただけでも・・・」
「嫌!ヌリコ!ヌリコーーーー!!」
母親に強引に家の中へ連れて行かれたホウキは泣き喚いた
親友が殺される
「何故、ヌリコが・・・!」
「あれ程家の外へ出るなと言ったのに・・・」
「このままじゃ、あの子は・・・」
遠く離れた白桃魔法学校の職員室から双眼鏡で広場を見つめる職員達
「先生!何とか出来ないのですか!?」
校長にヌリコの担任は縋った
「今、我々が出て行っては、この学校の存在がばれてしまう・・・悔しいが、我々の出る幕は・・・」
校長は唇を噛み締めた
ざわめく職員室で一人呆然と窓の外を見つめる職員・ホトホリ
「ヌリコ・・・!ヌリコ・・・!」
只、必死に祈るように彼女の名前を呟く
生徒が殺される
「ヌリコ!ヌリコ!」
祖母が泣きながら広場へ飛び出して行こうとする
「駄目だよ!ばあや!今、ばあやが行ったら・・・」
「お放しなさい!ロコウ!何を言っているの!?このままじゃ、あの子が・・・」
そんなのロコウにも判っていた
只どうして良いか判らないのだ
自分のせいでヌリコは・・・
孫が殺される
妹が殺される・・・
タスキとコウジが広場の茂みに辿り着いたのは、丁度ヌリコの足元に火が点けられる丁度その時だった
「あいつら・・・!よくもヌリコを・・・!」
余にも無残なヌリコの姿にタスキは拳を握り締めた
「どないすんねん!?此処まで来てしもうたけど俺らが今出てったらあっという間に捕まえられるで!?」
コウジが横から耳打ち
そうだ
絶滅した筈の吸血鬼がまた街人の前に姿を現したら、自分達も殺されるかもしれない
でも、そんな事躊躇してる暇はなかった
大事な女が今殺されようとしているのに
「そんな事っ・・・!男がすたるわい!!」
茂みから飛び出した
「タスキ!」
後ろの親友の声を無視して
瞬間タスキは精神を集中して呪文を唱えた
「水(ミナ)!!」
バシャッ
ヌリコの頭上から水がザバッとかけられて炎を消した
「誰だ!?」
広場がざわめきに包まれた
「緩(カン)!!」
ヌリコの縛られた体が一瞬にして自由になり、静かにタスキの腕へと倒れこんだ
抱き上げたその身体は驚く程軽かった
でもまだ死んでいない
微かな温もりがそこにはあった
「あれって・・・!」
「吸血鬼よ!!」
「きゃああああああっ!!」
街の女性はパニックになった
「お騒がせすんませんなぁ・・・今日の裁判は中止にしてもらおか・・・?」
「なっ・・・何を・・・!」
「お前らなぁ!!ふざけんのもいい加減にせぇよ!!こいつはな・・・そこらの人間なんかよりよっぽど明るくて優しい奴なんや!魔女は魔女でも立派な人間なんやで!肩書きだけで簡単に殺すんやないわ!ボケ!見てる奴らもなぁ!こんなん見て何が楽しいんや!醜いやろ!?悲しいやろ!?何で言わへんのや!そういう奴らの方がなぁ!よっぽどの悪魔や!!」
怒りを露にした表情の親友にコウジは只只呆気にとられていた
そしてロコウも・・・
彼がこんなに正義感溢れる少年だったとは知らなかった
タスキはすっかり静まり返った街を背に教会の方向へと飛び去っていった
「何や。見直したで?」
「何が?」
「お前がそこまでこの子に感情移入してたとはなぁ・・・」
教会の中
タスキとコウジは寝台に横たわるヌリコの側で談話していた
「別に・・・ホンマの事言っただけやがな・・・」
「はいはい・・・んじゃ、俺はそろそろお暇するわ!」
コウジは手を挙げると部屋を出て行った
そのすぐ後
ヌリコが目を覚ました
「タスキ・・・?」
「おぉ!ヌリコ!大丈夫か?」
タスキは満面の笑みでヌリコの目覚めを出迎えた
まるで何事も無かったように・・・
ボロボロとヌリコの瞳に涙が溢れた
それは生きている感覚の喜びより、タスキに会えた喜び
タスキにたまらなくなって抱きついた
「うっ・・・、ひっ・・・く・・・、うぅっ・・・」
怖かった
あの暗闇の中で、タスキに会えないまま殴られて殴られて
もう自分は生きてないんじゃないかと思った
タスキは震えるヌリコの小さな身体をしっかりと抱きとめた
「よしよし。怖かったな・・・」
まるで今だけは兄のように、この少女を放ってはおけなかったのだ
「・・・身体何ともないか・・・?」
そういえば
聞かれて初めて気がついた
腕が動く
足が動く
何故・・・?
「ホントだ・・・どうして・・・?」
「・・・俺の知り合いが治してくれたんや・・・よかったな・・・せやけど仮治やから松葉杖は持たなあかんけどな・・・」
「そう・・・」
「すまんな・・・ヌリコ・・・お前を一人にさせてしもて・・・ロコウさんもさっき来て言いはった・・・」
「え・・・?」
『すまなかった・・・タスキ君・・・僕は君を肩書きだけ悪者だと決め付けていた・・・君はそんな人ではなかったんだね・・・。魔女である妹が純粋な様に・・・君にもちゃんと人間の心があったんだね。君は妹の命の恩人だ・・・お礼を言わせてくれ・・・』
(そっか。兄貴も目を覚ましたんだ)
ヌリコはほっと息をついた
「・・・タスキは何にも悪くないわよ・・・悪いのは醜い心を持った人間達だもの・・・」
そんな心の持ち主も、この魔法で救ってあげられたら・・・
ヌリコは唇を噛み締めた
そのヌリコの気持ちを察したかの様に
「お前も気張るなよ・・・?」
タスキはそう一言声をかけた
そんなタスキに向かってヌリコは笑顔で頷いた
本当に打ち明けられる
本当の自分を見てくれる
大切な人が出来たね・・・
「おい・・・見たかよ・・・?今日の号外・・・吸血鬼が出たらしいぜ・・・?」
「そうなんだよな・・・ヌリコが一緒だって言うじゃねぇか?」
「あいつが危ないぜ?」
「これは、先生達にもチクって総動員で捕まえなきゃな・・・」
男子達が下校時に話していた台詞
そして掲げた作戦
吸血鬼絶滅作戦