Trick or Treat?

ギィィィィ
教会の扉が重々しく開かれた
「・・・誰や?」
教会の椅子で眠りかけたタスキは起き上がって訪ね主を見た
そこには垂れ目で少し気弱そうな誰かさんに良く似た長身の男
「・・・何や?見かけないお客さんやなぁ?」
もう相手は大体誰の何かは判っていた

ヌリコの兄

「初めましてだね・・・僕はヌリコの兄のロコウ・・・」
その瞳は決して優しい物ではなかった
「何で此処を嗅ぎ付けたんや?」
「妹が此処に入っていくのを見たからさ。そしたら、君と楽しそうに話しているらしいしね・・・」
ロコウは冷たい瞳でタスキと視線を交わした
「せやから、何や・・・?」
「妹と・・・、金輪際関わるのは止めてくれ・・・」
ゴーンゴーンゴーン
午前0時を告げる鐘が教会に響き渡った
「・・・何や?兄の護衛心ってトコか・・・?」
「君の噂は聞いてるよ。絶滅した筈の吸血鬼・・・」
その言葉にタスキは僅かに反応した
「妹は大事な未来を担う娘なんだ・・・君のような危ない存在と一緒に居ると妹の命も危ない・・・」
「へぇ・・・俺があいつを殺すとでも言うんか?」
「・・・やりかねないだろう?君なら・・・」
思いっきり犯罪者扱いされていて少しムッとなる
しかししょうがないのだ
彼が言った事は全て真実なのだから
「もしも、また妹に近づくようなら・・・」
「・・・判った」
「・・・・」
「もう、あいつとは会わん。あいつの為やし、俺の為や・・・」
否定のしようがないならば肯定するしかない
タスキはロコウの冷たさに圧倒されたのか、案外すぱっと納得した
ロコウはその返事を聞くと静かに教会を出て行った

コンコン
ドアをノックする音
「はい?」
中から可愛らしい妹の声
「ヌリコ・・・ちょっといいか・・・」
「あぁっ!まだ駄目ぇ!!」
ボンッ
途端にものすごい勢いでヌリコの部屋から煙が立ち込めた
「ヌッ・・・ヌリコ!?」
ロコウは度肝を抜かれた
煙の中から妹が出てきた
「ごめんなさい・・・今度の試験の練習・・・」
「張り切るのもいいけど、自分の部屋で魔法を使って何かあったら大変だろう?」
「はぁい・・・」
それでも可愛いのでついつい許してしまう
「ヌリコ・・・話があるんだ・・・」
「なぁに?」
箒で散らかったゴミを片付けながらヌリコは尋ねた
「最近・・・吸血鬼の所へ遊びに行っているだろう?」
その一言にヌリコが箒を止めた
「知っているよ・・・この前見ちゃったんだから・・・」
「兄貴・・・」
振り返ると真剣な兄の顔
怖い
「・・・もう彼とは会わないでほしい・・・」
「!?」
「あの吸血鬼はこのままじゃ、君の夢を奪う事になる・・・」
「何言ってるの・・・?」
「太古の昔、絶滅した筈の吸血鬼の子孫がこの街に潜んで、自分の妹と関わっているなんてばあやが知ったらどんなに心配するか判るだろう・・・?」
「でも・・・でも、あいつはそんな奴じゃ・・・」
「いい人なのかい?いつ人を殺してもおかしくない彼を君は信用するのかい?」
「それは・・・」
「彼にはもう話したよ・・・」
「え・・・?」
「妹には会うなと・・・。それで彼も承諾した・・・」

あいつが?
「そ・・・そんな・・・」
ヌリコの持つ箒がガタガタ震えた
(せっかく、あいつの事知れたのに・・・これからも、もっとあいつの事知りたいのに・・・)
「駄目・・・!駄目よ!今すぐ修正して!」
「何故あの男にそこまでこだわるんだ!?」
「兄貴には判らないわよ!あいつは絶対そんな人じゃない!だって笑ったり怒ったりするのよ!?そんな悪い人に感情を表現出来るの!?」
「君を騙しているかもしれないじゃないか!」
ロコウがムキになった
「もういいよ!兄貴なんて大嫌い!!」
そう言ってヌリコは部屋を飛び出した
「ヌリコ!!」

「・・・・・・」
さっきから親友は黙ったまま
同じ吸血鬼であるコウジは心配そうに親友の顔を覗き込んだ
「・・・寂しいのか?」
「何が・・・?」
「否・・・、お前がそんな顔するの珍しい思てな・・・」
コウジはよく教会に顔を出していたようで最近タスキにガールフレンドが出来た事も知っていた
「そんなに気になるんか?彼女の事・・・」
「は?何言うてんねん。あんな馬鹿女誰が・・・」
「ふぅん・・・」
判りやすい奴やなとコウジは聞かないフリをした

茂みの中を走るヌリコ
そこは真っ暗
何も見えない
「何よ・・・何よ・・・何よ・・・!兄貴の馬鹿!何であんな事言うのよ!?」
でも、タスキも承諾したのだ
もう自分とは会わないと
教会の方向へ走っていたヌリコはピタッと足を止めた
「あいつ・・・あたしの事なんてどうでもいいのかな・・・?只の女の子としか思ってないの・・・?」
そう思うと止まりかけた涙がまた溢れてきた
「あたしは・・・、もう独りぼっちなの・・・?」
その場に座り込んで箒を抱きしめて声を殺して泣いた
その時
ガサッ
近くの茂みが揺れた
「誰!?」
濡れた瞳でその方向に目を向ける
そこには、長身の怖い顔の男が数名
「何よ・・・?あんた達・・・」
「やっと見つけたよ・・・魔女・・・」
その冷たくも恐ろしい声にヌリコは身を震わせた
身体が動かない
呪文が出ない
声が出ない
ゆっくりと近づく男達
そして
バキッ
腕を金棒で殴られた
「うっ・・・!」
その場に倒れこんだ
そして更に上から背中と足を殴られた
骨が折れる鈍い音がした
完全に身体の自由を奪われた
髪の毛を掴まれて持ち上げられた
「・・・フン・・・とんだ災難だな・・・?こんな日に外に出るなんて・・・」
(何で?どうして?)

「知らないのなら教えてやるよ・・・今日は魔女狩りの日だ・・・」


呆気にとられた
そうだ
今日は

『今日は年に一度の魔女狩りの日です・・・皆さんは今夜は絶対外に出てはいけません・・・』

担任の注意深い声が意識の彼方で蘇る
迂闊だった
タスキの事で頭が一杯だったのだ
でも今更後悔してももう遅い・・・
「あの世で、神様にでも泣きつくこった・・・」
嫌だ
怖い
助けて
タスキ

ドカッ

鈍い音がした
気が付けば頭を思い切り殴られてて
身体が地面へ人形のように静かに倒れていく

ごめん
ごめんね
タスキ・・・

体中血まみれになった人形の顔は涙でぐちゃぐちゃだった
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