Trick or Treat?

リーンゴーンリーンゴーン
白桃魔法学校の第二校時目の鐘が鳴った
ヌリコのクラスのその時間は家庭科だった
「皆さん!!進級おめでとう御座います!!さて、今日からこのクラスの家庭科も前の簡単な家庭科よりも課題が難しくなります!!皆さんの実力は前よりも格段と上がっているはずなので此方も遠慮なく出題したいと思います!!」
その場がざわめきだした
特に魔導士の男子といったらもう餓鬼のように嫌だの連発
「ヌリコ・・・、余裕ねv」
隣の親友のホウキがそっとヌリコに耳打ちした
「まぁね♪家庭科だけは得意だから任しといてv」
ヌリコも軽くウインク
「でわ、今日はこのお皿いっぱいに料理を盛り付けてもらいます!!誰が一番豪華に作れるかな?」
もうすぐ成人になる生徒に幼稚園児に話しかけるように説明するのが特徴の家庭科のソイ先生はそう言うとにっこり笑った
「ヌリコ・・・。何作るの?」
しばらくお皿と睨めっこして考えていたヌリコにホウキが尋ねた
「判った!!」
ホウキの問いかけと同時にヌリコはポンと手を打った
そしてお皿の上に手を翳すと呪文を唱え始めた
ポンッ
するとそこには様々な装飾のサンドイッチが並んだ
「わぁ!!美味しそう!!」
先生も気づいたのかヌリコの皿の前に駆け込む
「あらぁvヌリコ!!綺麗に出来たわね!!合格よ!!」
「やったv」
ヌリコはホウキにVサインを交わした
「ねぇ!どうしてサンドイッチにしたの?」
「うん!ウチのばあやがね、昔からサンドイッチ好きで!子供の頃からあたしも食べさせてもらってたしvこれ、ばあやにあげるの!」
可愛い孫だなとホウキはくすっと微笑んだ
「ねぇねぇ、ヌリコ。いつもいつもお婆さんの為に料理作ってるけど他に作ってあげる人いないの?」
「う~ん・・・たまに兄貴にも作ってあげてるけど・・・」
「家族の人じゃなくて!」
「え?」

「その・・・いないの・・・?好きな子・・・」

好きな子?
ヌリコは首を傾げた
「いないわよ!何で?」
「だって、もうすぐ貴女も成人よ?そろそろ好きな子くらい・・・」
「な~に?ホウキがそんな事聞くなんて珍しい!何?まさかあんた・・・」
「し~っ!」
ヌリコが段々大声になってきたのに気づいたホウキは慌てて人差し指を立てた
「ヌリコだから言うけどね・・・あたし・・・ホトホリ先生が好きなの・・・」
「えっ!?」
「それで、今日の料理先生にあげようかなって・・・」
「そうなんだ~v知らなかった!!頑張って!!」
以前告白されたなんて言えないやと思いながらもヌリコはガッツポーズをホウキに送った

その夜
「美味しいわ!ヌリコ!!また上達したわね!!」
「ホント!?ばあや!」
リビングの中祖母と孫は昼間作ったサンドイッチを囲んで話していた
「ばあやの為に作ったから嬉しい!」
素直で可愛い孫に祖母は思わず嬉し泣きをしてしまいそうになった
「でもねぇ、ヌリコ。私達家族の為に頑張ってくれてるけどそろそろお前の自由にしてやってもいいんだよ?」
十八歳の孫娘だ
そろそろ幸せになってもよい時期なのだが
「自由って?」
ヌリコは相変わらずきょとんとした
「お前のクラスの男の子とか気になってる子とかいないのかい?お婆ちゃんはいたなぁ・・・」
ホウキと同じ事を聞く祖母
「いないわよ~!そんな気遣わなくてもいいわよ!ばあや!」
「そうかい?」
だって、本当にいないんだもん
そういえば、一人居たけどね
変わった男の子が…

「皆さん!今日はメニューを限定します!女の子なら得意かな?今日のメニューはお菓子です!」
またもや男子からブーイング
「ヌリコ!お菓子だってよ!?貴女大得意じゃないの!」
ホウキが嬉しそうにヌリコに呼びかける
「お菓子・・・?」
あぁ そうだ
あいつはお菓子が好きなんだっけ
毎日毎日お菓子持って来いってうるさくて
そういえば昨日も行ってないや
今日くらいあいつの為に作ってやってもいいかな・・・
ヌリコはそう心の中で呟くとよしっと腕まくりをした

「タスキ~!!」
教会の扉を押し開ける

昨日行ってないから、怒っているんじゃないか
でも自分が一日くらい来なくたって、あいつは何とも思わないか
教会の中には誰もいない
何処か行ったのかな?
あいつが行くって言ったって何処へ?
今更街を襲撃する気じゃあるまいし
教会の外へ出てため息一つ
今日は帰ろう
その時

「・・・遅い・・・」

空から声が降ってきた
時に大好きだけど、時に大嫌いな声
見上げると屋根の上で待ちくたびれたように寝転がっているタスキがいた
「あんた!・・・まさか・・・」
「腹減った・・・何で昨日来ぇへんかったんやぁ?」
そんな
こんな自分をこいつが一晩中待っててくれたのか
自分が恥ずかしくなった
「ごめん・・・今、そっち行くから・・・」
ヌリコは箒にまたがるとタスキのいる屋根に登っていった
「菓子、持ってきたか~?」
「うっ・・・うん・・・」
途端にヌリコは戸惑ったが、鞄の中からアルミホイルに包まれたクッキーを取り出した
「?」
「これさ・・・調理実習の時作ったの・・・お菓子が課題だったからあんたに作ってあげたんだけど・・・」
「・・・・」
「美味しくないかもしれないけど・・・」
タスキに何故か顔面真っ赤になってクッキーを差し出した
タスキもさすがにびっくりしたが、クッキーを受け取って口に入れた
「ど・・・どう?」
相手の顔を直視できなかった
何故だろう?
恥ずかしい?
何であたしが?

「何や・・・美味いやん!!」

「・・・え?」
「待った甲斐あったな!お前、料理美味いやん!」
見るとタスキが満面の笑みを浮かべていた
心臓が爆発しそうだった
え?え?え?どうして?
こんなデリカシーの欠片も無い奴なんかに、どうして?
そして何故いつでも誰からでも言われていた「美味しい」を、こいつに言われるとすごく嬉しいんだろう?
「あ・・・有難う・・・」
「また作ってきてーな。俺、お前の菓子の方が好きや!」
食べ終わったタスキが一言
スキヤ
心の何処かで望んでいた言葉
嬉しくなって泣いた
彼はいつものように慌てる
こんな時間がとても心地よい
私が一番幸せになれる時間だった

私の好きな子はもしかしたら・・・
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