Trick or Treat?

「進級生起立!!」
白桃魔法学校の校長の掛け声で体育館に整列した約百名程の生徒が一斉に起立した
その中にはもちろん胸を張って立つヌリコの姿もあった
「進級生諸君!!進級おめでとう!!これまでいかなる苦労をして辿り着いた事だろう。これからは更なる進級に向けて君達の活躍を期待しています」
ニコニコ笑顔で挨拶をした校長は自分の横にあった証書を取って証書授与を始めた
「77番!ヌリコ!」
「はい!!」
元気よく返事をしてヌリコはステージに登った
「おめでとう。君はこの学校でも優秀な成績を残してくれたね。これからも期待しているよ」
「はい!有難う御座います!」
やっと掴んだ念願の進級の日
ヌリコはうきうき気分でステージから降りた

「タスキ!!」
とある森の奥にあるボロ教会の扉をヌリコは勢いよく開けた
この教会の住人・・・吸血鬼のタスキは、先日この教会を寝床にしたのだ
やはり、空調も悪く、年がら年中洞窟に身を隠していたのではたまらない
「ねぇ!聞いてよ!聞いてよ!聞いてよ!」
開きかけた棺桶の中で寝ていたタスキをヌリコはゆさゆさと揺さぶった
「----っーーーーー!何やねん!?」
「あたし、無事進級出来たわよ!一気に1級まで合格よ!」
「・・・俺は眠いんや・・・そんなんでいちいち起こすなや・・・!そういえば菓子持ってきたか・・・?」
自分の報告などお構い無しにタスキはまた寝返りを打った
その態度にヌリコは頬を膨らませた
「何よ!馬鹿!!」
ヌリコはタスキの頬を思い切り拳で殴った
「痛っ!!何すんねん!このヘタレ魔女が!!」
「せっかく人がわざわざ報告に来たのに何よ!!その態度!!しかもお菓子期間はもう終わったでしょ!?」
「誰も報告せぇなんて頼んどらんわ!お前が此処に来る以上、菓子は持ってくるんが礼儀や!」
つくづく自分勝手なタスキに腹が立ったのかヌリコはそのまままた馬鹿と言い残して去っていった
一番喜んでもらいたかったのに
祖母よりも先生よりも誰よりも、タスキに一番最初に「オメデトウ」って言ってほしかったのに
あれが本当に自分を進級させてくれた恩人なのだろうか
そんな気持ちが頭を過ぎったが、ヌリコは気にせず箒にまたがった

「ん・・・?」

その二時間後、ようやく起き上がったタスキは辺りを見渡した
(そういや、あいつ来たんやったな・・・)
頭を掻き毟りながらそんな事をふと思った
(ちょっと言い過ぎたな・・・)
後悔の念が押し寄せた

「ちょっと言い過ぎたな・・・」
同じ頃、同じ台詞で再び箒で教会に向かうヌリコがいた
「もう起きたかしら・・・?でもタスキに一番喜んでほしかったのにあんな事言うなんて・・・」
ぶつくさ言いながら空を漂うヌリコ
その時
メキメキバリッ
側にあった大木が音を立てて割れた
「えぇっ!?」
こんな丈夫そうな大木がなぜ割れるのか
それだけでも驚いたのにヌリコはその最下部を見て更に驚いた
そこには生後間もないであろう野兎が身を震わせながら大木の下にうずくまっていた
(助けなきゃ!!)
とっさにヌリコは心の中で呪文を唱えていた
とたんに大木の動きはピタッと止まった
その隙にヌリコは地上に降りると兎を静かに抱き上げた
そしてまた心の中で一つ呪文を唱えて大木を修復させた
「ふぅ・・・」
ヌリコは額の汗を拭った
「大丈夫?」
ヌリコが優しく背中を撫でた野兎は足に怪我をしていた
「猟銃で撃たれたのかしら・・・?こんな赤ちゃんを撃つなんて何て事・・・」
ヌリコはその足に手を翳すとまた一つ呪文を唱えた
すると兎の足の傷口が塞がった
「もう大丈夫・・・」
ヌリコはほっと一息つくと大木を見上げた
こんなに殺風景な木でいいのだろうか
確か此処はタスキの教会の近くの森
もう少し賑やかにしてやりたい
ヌリコは再び呪文を唱え始めた

「もう帰ったやろな~」
今更だが謝罪したくなったタスキは教会から抜け出た
「俺も素直やないな・・・祝いの言葉くらいかけてやれば・・・」
ザァァァァァッ
突然強い風がタスキのマントを靡かせた
風と一緒に一枚のピンクの花びらがタスキのマントについた
「・・・?何や?」
ふと先を見るとそこには桜の木の下で兎と戯れているヌリコがいた
「・・・ヌリコ!!」
その声に気づいたヌリコは兎を抱き上げると此方を向いた
「タスキ・・・」
「これ、もしかしてお前が?」
「そうよ!あたしの手でね!!ここら一帯の木を桜で満開にしたの!!」
満開の桜の木の下で満面の笑みを浮かべるヌリコに一瞬タスキはドキッとなった
「寂しくないでしょ?これだけ花に溢れていれば!」
その言葉でヌリコは自分のために魔法を使ったのだと悟った
「・・・ヌリコ・・・」
「何?」
「その・・・魔法上手く使えるようになったやん・・・」
「え?」

「進級・・・、おめでと・・・」

少し小さい声でタスキはヌリコに告げた
その言葉にじわっとヌリコの瞳に涙が溢れた
「わっ!何泣いとんねん!?」
「だって・・・タスキがおめでとうなんて・・・」
ヌリコは涙を拭って笑った
また見れた
人里離れた場所で暮らす吸血鬼の素顔を・・・
嬉しかった

桜の花びらが舞い落ちる中この街にも少し遅い春が訪れたー
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