Trick or Treat?

「タスキ~、いる~?」
街外れの小さな森の中に位置するその洞窟
そこを小さな魔女が訪ねた
「やっと来たかぁ~・・・待ちくたびれたで~」
大あくびをして、寝床である棺桶から顔を出すその人物は、吸血鬼
それを見て、魔女ヌリコは深くため息をつく
「あんたねぇ~・・・いつまで寝てんのよ!?もう16時よ!?」
「しゃあないやん。昼間の活発な運動は、吸血鬼にとって毒なんやて」
もうひとつため息をつくと、ヌリコは籠に入ったお菓子をドスンと彼の目の前に置いた
「はい!!今日の分!!ったく・・・毎日足腰痛めてここまで運ぶあたしと箒の身にもなってよねぇ~?」
「何婆くさい事、言うとるんじゃ!!もとはといえば、災害の発端はお前やないか」
「ありがとう」の代わりにその言葉
ヌリコはいらっと来たが、まぁ無理もない

三日前・・・
ヌリコは箒の運転を誤り、吸血鬼タスキの塒のこの洞窟に落ちてしまった
その際に、箒は折れ、おまけにタスキの洞窟の天井すらも壊してしまった
天井を元通りに修復したはいいが、箒は謎の魔術でタスキが直してくれたのだ
そのご恩を・・・とタスキ本人からの要求で、こうしてお菓子を毎日持ってこなければならなかった

「お前、今日も学校か?」
「そうよっ!!学生は、忙しいのよ!!」
「何や知らんけど・・・お前、いつまでも検定合格出来んとか言うとらんかったっけ?」
「そんな事・・・あんたに関係ないでしょっ・・・」
「まぁ、そやけど」
持って来てくれたお菓子を食べながら、タスキはそれとなく答えた

その次の日
「やったわ!!ヌリコ!!私、進級認定テスト合格した!!」
親友のホウキが、通知書を持ってこちらへ駆けてくる
「え・・・ホウキ?進級認定テストって・・・?」
「え!?ヌリコ・・・あの試験会場にいなかったの?一週間前に、三年生は進級認定テストを受けたのよ?」
(嘘・・・あたし、その通知貰ってない・・・)
「まさか・・・知らなかった?」
「う・・・うん。まぁ・・・あたし、検定落ちちゃったからねぇ。省かれたのかもね」
それは、自分の留年を意味する言葉
「そっ・・・か・・・元気出して?ヌリコ・・・きっと、先生方も何か訳があるんだわ!!」
(先生方・・・か)
ヌリコの脳裏によぎったのは、この三学年を統括する主任ホトホリ
自分にとって憧れの教師でもある
(嫌われちゃったかな・・・?あたし・・・)

一方、その頃
タスキは大いびきをしながら、棺桶で眠りこけていた
学校を終え、ヌリコはまた籠いっぱいのお菓子を抱えて洞窟に到着した
「タスキ~・・・」
その声にいつもの活気はない
「タスキ?」
棺桶の中の人間は、まだ眠ったまま
「タスキ!!!!」
「がっ!!??」
ヌリコは突如、そのお菓子いっぱいの籠をタスキの腹に思い切りぶつけた
「なっ・・・何すんねん!?おのれ、俺を窒息死させる気かぁ!?」
「あんたは、どうしてそういつも空気を読まないのよ!?」
そこで、タスキの動きがはたと止まった
ヌリコの頬は、涙でぐっしょり濡れていて
「何、泣いとるん・・・」
「関係ないでしょ!?こんな気分の時も・・・あんたのトコ行かなきゃいけないこっちの身にもなってよ!!」
ヌリコは、顔を背けて頬の涙をごしごしと拭った
「おい」
「何よ?」
「座れ」
「・・・は?」
「何があったか、聞かせろ言うてんねや!!」
その言葉に、しばしヌリコはタスキを見る
なぜ、デリカシー0のこいつの口から、そんな言葉が・・・?
「あ、今、俺の事、ちょっとかっこえぇ思たやろ?嫌やなぁ・・・これでも女心分かるんやで!!大体、血で分かるわ!!」
吸血鬼独特の勘が、物を言わせる
その態度にまたムカッと来たが、今は誰かと会話をしたかったヌリコは、そのままタスキの隣に座る
「・・・進級できなくなっちゃったんだ」
「へ?」
「当然・・・検定落っこち続けたら・・・出来ないのは当たり前なんだけど」
「・・・・・・」
「何でだろうねぇ!?頑張ったのに・・・あたし、こんなに」
その話を聞けば分かる
彼女は学校で、憧れの魔女になる為に一生懸命頑張ってきたのだ
それなのに、その努力は報われず、進級を喜ぶ親友をただ眺めるだけ
自分にどこにオチがあったのかさえ、分からないままなのだ
「・・・そんなん、学校に抗議すればえぇだけやん」
「えっ?」
「それくらい、聞く価値あるやろ。生徒は」
「けど・・・」
「指咥えて留年するんか?そんなヤワな奴の愚痴、これからも聞きたないで」
(これからも・・・?)
お菓子を与える猶予期間は後三日な筈なのに・・・
勝手に期間延長されたみたいで、癪に障ったが、それが一番いいのかもしれない
恐いけど・・・あのホトホリに
「嫌われちゃってないかなぁ・・・?」
「そんなん俺にも分からんけど・・・今のままやと俺もすっきりせぇへんやん」
横を見ると、自分が持ってきたキャンディをタスキが差し出した
「全部聞いて、すっきりした顔で明日は報告に来い!!えぇな!?」
それが彼の優しさだった
まるで自分に不器用な兄貴が出来たようなそんな気分に、ヌリコはなった
「うん・・・うん・・・」
デリカシー0のこいつの言葉に励まされる自分は馬鹿みたいだったけど、それでも今の自分を分かってくれる存在がいる事は有難い事だった

まだ知らなかった
これが恋心だとは・・・
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