ザクロ

カランカランカラン
「いらっしゃいませ~」
女性ばかりの香水店に、帽子を深々と被って入店する男性
「・・・お探し物ですか?」
「いや!俺のやなくて・・・」
声をかけられ、男性は頬を赤らめる
「彼女さんへのプレゼント・・・とかですか?」
「ああ~・・・まあ。ただ、香水の名前を忘れてもうて・・・ザクギリだがザクラだかっちゅー奴なんやけど・・・」
「それって・・・「Drop of Zakuro」の事ですか・・・?」
「そうそう!それや!」
「お客様。ラッキーですね!当店の人気商品でして、後1個で完売になるところでした!」
「さ・・・さよか」
「海外からの輸入品で、取り寄せに半年はかかるんですよ!」
「ほな・・・それを1つ」
包装を施されている間
「お客様。もしよろしければ、こちら。期間限定でコスモスのペンダントもお付けしているんです。彼女さんに是非付けてあげてください」
「・・・あ。ありがとうございます」

『何やねん。物珍しそうな顔しよって』
『このカタログ見てよ!「Drop of Zakuro」。今度新しく発売する新作の香水よ!』
『お前、香水なんか付けるんか?』
『病院にいると、どうも美容衛生の観念が訛っちゃって・・・こういうもの欲しかったのよね』
『そっか・・・』

明日は、柳宿の誕生日。そして、待ちに待った外泊の日
滅多に外に出られない彼女のために、何か気の利いた贈り物をしてあげたい
翼宿は、入り慣れないお店に勇気を持って入ったのだった

「ふう・・・」
翼宿は、すっかり暗くなったアパートの電気をつけた
机の上には、柳宿との思い出の写真
それを、そっと手に取る
確か、去年のあいつの誕生日はこの部屋で2人で過ごしたっけ
そして、その夜に初めてひとつになった
もう、随分あいつをまともに愛してあげられていない
「明日は・・・久々に特別な思いさせてやらなきゃな」
笑みが零れた翼宿

次の日
「すみません。310号室の柳宿さんを迎えに来ました」
見知らぬ男性に、受付の女性は首を傾げる
「今日、外泊許可の出ている柳宿さんのお知り合いの方ですか?」
「ええ・・・彼氏、ちょっと仕事で遅くなるんで。代わりに迎えに来たんです」
女性はその話に妙に納得し、外泊手続きを始めた

部屋で、柳宿は私服に着替えて念入りに化粧をしている
「せっかくの久々のデートだもの。おめかししなくちゃねv」
ガラガラ・・・
「あれ・・・?翼宿?早かったのね・・・」
途端に、2人の男性に口を抑えられる

「っちゃ~・・・遅刻してしもたわ・・・。あいつ、怒ってるやろうなあ・・・」
翼宿は、その少し後に受付に駆け込んだ
「あら・・・?翼宿さん?柳宿さんなら、お知り合いの方が外泊手続きをして行かれましたが?」
「は・・・?知り合いって、何やねん・・・?」
「さあ。私も見ない方でしたけど・・・」
嫌な予感がした
翼宿は、そのまま病院を飛び出した
すると
ブロロロロロロ
ワゴン車の窓から、紫色の髪の毛が見えた
「ぬ・・・柳宿っ!?」
途端に、翼宿は自分の車に飛び乗った

ドサッ
連れられたのは、ウィークリーマンションのような場所
「ちょ・・・ちょっと・・・!何なのよ、あんた達・・・!?」
「ずっといいなあと思ってたんだよ。お前の外泊のチャンスを伺っていた」
車のキーを回して嫌らしく笑う男性とその友人の2人の男性
「今日は・・・楽しい外泊にしようねv」
「ちょっと・・・嫌っ・・・!」
ネクタイで、後ろ手を縛られた
「誰も邪魔出来ないから、安心して~v心臓止まられちゃ困るからさ、あんまり暴れないでくれよ?」
「やだっ・・・!!」
自分の胸と脚にたくさんの手が侵入する
ドカッ
途端に、固く施錠されていたドアが何者かに破られた
「誰だ・・・!?」
そこには、息を切らしている翼宿の姿

「お持ち帰り出来るのは・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺だけや、ドアホ!!」

「くそ・・・やっちまえ!!」
男性2人が襲い掛かるが、翼宿はいとも簡単に2人をなぎ倒していく
「このやろっ!!」
もう1人はナイフを持って翼宿に襲い掛かった
「ちっ!!」
避けた衝動で、陰に持っていたプレゼントが
パリン
音を立てて落ちた
「・・・・・・・・・・・・・・!!!」
「隙あり!!」
「翼宿!!」
翼宿の目が鋭くなり
ドガッ
肘で、男を思い切り殴った
「貴様・・・・・・・・・・・!!!!せっかくの1個を・・・・・・・・・・・・・」
3人は、腰を抜かして逃げていった
「翼宿・・・翼宿!!」
涙で頬を濡らす柳宿
「アホ。ホンマドンくさい女や・・・」
ネクタイを外してあげる
「あたし・・・あたし・・・」
「よしよし。怖かったな・・・」
静かに、柳宿を抱きしめる
「あの・・・香水・・・」
「やってもうたなあ。残り1個やったんやけど」
「あたしの為に・・・?」
「お前が欲しいもんが1番やろ・・・」
翼宿は、懐からもう1つを取り出した
「すまんな・・・これで、勘弁してくれや」
それは、おまけのコスモスのペンダント
首にそっと付けてあげると、柳宿は再び翼宿に抱きついた

「あんたが・・・欲しい!!」

「え・・・?」
「あたしが欲しいのは、あんただけよ・・・どんなに着飾ったって、あんたが傍にいてくれなきゃ意味ない・・・」
その続きは、翼宿の唇によって塞がれた

骨の髄まで愛したい
君が消えてしまう前に

ザクロの香りで、充満する部屋
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