ザクロ

泣いて泣いて泣いて泣き止んだら、笑顔のままでいよう
これからも、ずっと同じ景色を見続けて生きていこうね

「柳宿!」
「お疲れ!今日も、ちゃんと走ってきたの?」
「かなわんわ、あのコーチ。俺の筋肉ばっかりバカにしてきよる~」
「その話題何回目よ?僻みだって言ってるでしょ?」
「ほれ。お前の好きなフカヒレまん!」
「やった~v食事制限明けなのよ!ありがとう★」
病室を訪れたのは、橙色の頭のトレーニング帰りの男性
紫髪の綺麗な女性は、ベッドに横たわっている
翼宿と柳宿
二人は恋人同士
どこにでもいる普通のカップルだった
「今度の外出、約束のお台場よ?忘れないでよ!」
「お前は来る度来る度それやな~俺が、約束を忘れた事あるか?」
「30回以上は・・・あるわよ」
明らかに病人に見えないほど明るく振る舞う柳宿に翼宿は小さく微笑んだ
しかし二人は決して普通のカップルになれる事はなかった

翼宿と柳宿は大学時代の陸上サークルの部員とマネージャーの関係で知り合った
部員の中でもずば抜けて足が速かった翼宿に柳宿の心は一瞬で奪われた
そして最後の引退試合で柳宿は翼宿に告白し、結ばれた・・・

それから二年の歳月が流れた
大学卒業と共に結婚も考えていた二人に告げられた重い告知
職場で倒れた柳宿に下された宣告は

「余命半年」

彼女の病名は心臓病
生まれつき持っていた病だった
その告知を知らされた時、翼宿は一週間泣き続けた

何が出来るだろう
何をしてあげられるんだろう

悩んで悩んで悩み続けた
しかし翼宿には分からなかった
答えが見つからなかった

そんな翼宿に柳宿は告げた

『あんたは、あたしの隣でずっと笑ってくれていればいいんだよ』

宣告を受けても柳宿は強くて優しかった
翼宿は、その日から男として柳宿との約束を護ると誓った

宣告を受けてから三ヶ月・・・
翼宿と柳宿は共に笑顔で支え合って生きてきた
そのお陰か柳宿の病状は少し安定してきたように思えた

「最近・・・苦しくないか?」
翼宿は柳宿に問い掛ける
「大丈夫。あたし、ちゃんと医者の言う事聞いてるから!」
「まあ、無理すんなや」
「・・・うん。ありがと」
柳宿の照れた笑みが、翼宿は大好きだった
「明日は、会社?」
「せやな~また、1週間の始まりや・・・」
「そっちこそ、体調崩さないでよ?その為に、土日はトレーニングしてるんだろうけど!」
「お前との将来もあるしな。しっかり働かんと」
「・・・・・・・・・・・・翼宿」
「まあ、何年かかるか分からないけどな~」
「バリバリ延長してくから、がっつり稼いできてよね!」
笑い合う2人
「ほな。明日は、少し遅くなるけど来るから」
「たまには、会社の付き合いにも参加しなさいよ?」
いつもいつも、柳宿は翼宿の事を心配してくれる

病室を出て、翼宿はため息をついた
今日も何事もなかった
毎日毎日、それだけが気がかりだった
心配性で神経質な柳宿だからこそ
すぐに無理をするのが、翼宿は怖かった

「・・・・・・・・・・・・・・あれが、彼氏か?」
「何だ、あの頭。ふざけてるのか?」
「あの女にしては意外なタイプだけど・・・まあいいか」
「作戦は、そろそろ決行か?」
「そうだな。あんまりうかうかしてられねえ」
そんな彼を陰から見ているのは、2人の男
柳宿を狙う野獣だった
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