ザクロ
「翼宿君」
大嫌いだったあの医者から声をかけられた
心電図の音だけが空しく響く
そんな集中治療室で空ろな瞳を開ける
「君への心臓の提供者が現れた」
特に驚くことも喜ぶこともなかった
「明日・・・手術を行う」
それだけ告げると、医者は去っていった
しかし、その翼宿の意識の中には確かにその答えはあった
助かる?
翌朝、翼宿はまた手術室へ運ばれた
運ばれている間は無気力状態
けれど、これでまた柳宿に会える
柳宿と愛し合える
そんな感情は確かに湧いていた
「翼宿君。苦しい戦いになるかもしれない。耐えられるかい?」
医者の問いかけに翼宿は初めて頷いた
医者は一瞬悲しげな表情を見せたが、翼宿に麻酔をかけた
眠りに落ちていく中、夢を見た
海で柳宿が笑って走っている
自分の名前を呼んで笑っている
俺は、そんな彼女に向けてシャッターを押す
彼女は、恥ずかしげにそれを止めた
その時、俺は言う
「これが俺の人生のファーストショットや」
その後、彼女はまた笑うんだ
「き・・・たすきっ!!」
母親の声
ゆっくりと目を開けると、病室だった
「翼宿!!!」
そこには友人もたくさん駆けつけてくれていた
その場に歓喜の声が沸き起こった
「手術・・・成功したんだよ!!よく・・・よく頑張ったなぁ!!」
家族も全員涙を流している
周りの反応で、徐々に自分が生きている事を実感した
心臓の躍動感が全身に伝わる
そして初めて発した言葉
「・・・柳宿は?」
その言葉にその場は一斉に静まり返った
「なぁ・・・?柳宿、何処におるん?おったんやなかったんか?」
「柳宿ちゃんは・・・バイトがあるから帰ったよ・・・ずっとあんたにつきっきりだったから・・・疲れが溜まったんだよ」
その言葉に翼宿は落胆した
目を覚まして一番に柳宿に会いたかった
結局、その日は家族が病室に泊まった
それから二週間、翼宿の体調は順調に回復していった
友人も代わる代わる訪ねてきてくれていた
しかし、柳宿は・・・いつまで経っても病室に姿を見せる事はなかった
「先生・・・ホンマにありがとうございました・・・」
「いいえ。ここまでよく頑張りましたね」
無事に退院の日が来た
その日は、母親と帰る事になった
母親が車に荷物を全部積んで、助手席に翼宿を乗せた
「なぁ、オカン」
「何や?」
「この心臓・・・誰が提供してくれたん?」
「・・・・・・・・・親切な方だよ」
「・・・俺、その親族にお礼に行った方がえぇんちゃう?せっかく自分の心臓を提供してくれたんやし・・・」
「そうやな・・・その内行ったらえぇ」
母親は遠くにいる誰かに呼びかけるように空を見上げてそう答えた
次の日
いくら何でも連絡もよこさずに自分に会いに来ないのはおかしいと察した翼宿は、柳宿の家を訪ねてみる事にした
「・・・はい」
柳宿の母親が顔を出した
「あら・・・翼宿君!!退院できたのね!?おめでとう!!」
「ありがとうございます・・・あの・・・柳宿さんおりますか・・・?ずっと・・・病院に顔出してへんのです・・・心配で」
「あら・・・そう。柳宿なら・・・・・・・部屋にいるわ。会ってやってちょうだい」
母親はそう言って寂しげに微笑んだ
柳宿の部屋への階段は長く感じた
コンコン
「・・・柳宿?俺や」
返事はない
「入るで・・・?」
そっと開けるとそこには誰もいなかった
代わりに日差しに照らされたカーテンが導くように、柳宿の机に向かって靡いていた
そこにそっと翼宿は近づいた
そこには、カメラが一台と「翼宿へ」と書かれた置手紙が置いてあった
翼宿は無言でその封を切った
『翼宿へ
お誕生日おめでとう・・・
と言っても、この手紙を見る頃にはとっくに過ぎてるよね。
だって、あんた誕生日に倒れちゃうんだもん。
本当びっくりした・・・あたし・・・ちゃんと包装して持って行くつもりだったのにさ。
けど・・・あんたは本当に生きたかったんだと思ったよ。
あたしだけじゃない・・・あたし以上に翼宿は・・・苦しかったんだよね。
分かってた筈なのに、分かってあげられなくてごめんね?
あんたの笑顔があたしは大好きだったよ
これからもずっとずっと一緒にいたかった
一緒に思い出作りたかった
だけど』
そこに書かれてある一行を読んで翼宿は手紙を落とした
『あたしはもうこの世にはいません』
ドクン
その時、自分の中の「心臓」が脈打った
ゴメンナサイ
カッテナコトシテ
ダケド、アナタヲタスケタカッタノ
アナタノタメニシネルノナラ
ソレガワタシノコウフクダカラ
アタシハイツデモアンタノナカニイルヨ
まさか・・・お前・・・・お前なんか・・・?
手紙に大粒の涙が落ちる
「ここに・・・おったんか・・・柳宿・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
机の上には、陸上大会で初めて二人で撮った写真が飾られていた
パシャッ
小高い山の上
翼宿はシャッターを切る
あれから、翼宿は柳宿から貰ったカメラで写真を撮り続けた
そして、翼宿の撮った写真はコンクールで入賞
今や、博物館の壁画になるほどのものとなっている
「柳宿・・・えぇ景色やろ・・・?」
ドクン
幸せそうに刻む鼓動
「これからもずっと・・・一緒やで」
そう言うと翼宿はフィルムが入った鞄を持ち上げた
首から下げたカメラの横には
「NURIKO」
そう書かれていた
大嫌いだったあの医者から声をかけられた
心電図の音だけが空しく響く
そんな集中治療室で空ろな瞳を開ける
「君への心臓の提供者が現れた」
特に驚くことも喜ぶこともなかった
「明日・・・手術を行う」
それだけ告げると、医者は去っていった
しかし、その翼宿の意識の中には確かにその答えはあった
助かる?
翌朝、翼宿はまた手術室へ運ばれた
運ばれている間は無気力状態
けれど、これでまた柳宿に会える
柳宿と愛し合える
そんな感情は確かに湧いていた
「翼宿君。苦しい戦いになるかもしれない。耐えられるかい?」
医者の問いかけに翼宿は初めて頷いた
医者は一瞬悲しげな表情を見せたが、翼宿に麻酔をかけた
眠りに落ちていく中、夢を見た
海で柳宿が笑って走っている
自分の名前を呼んで笑っている
俺は、そんな彼女に向けてシャッターを押す
彼女は、恥ずかしげにそれを止めた
その時、俺は言う
「これが俺の人生のファーストショットや」
その後、彼女はまた笑うんだ
「き・・・たすきっ!!」
母親の声
ゆっくりと目を開けると、病室だった
「翼宿!!!」
そこには友人もたくさん駆けつけてくれていた
その場に歓喜の声が沸き起こった
「手術・・・成功したんだよ!!よく・・・よく頑張ったなぁ!!」
家族も全員涙を流している
周りの反応で、徐々に自分が生きている事を実感した
心臓の躍動感が全身に伝わる
そして初めて発した言葉
「・・・柳宿は?」
その言葉にその場は一斉に静まり返った
「なぁ・・・?柳宿、何処におるん?おったんやなかったんか?」
「柳宿ちゃんは・・・バイトがあるから帰ったよ・・・ずっとあんたにつきっきりだったから・・・疲れが溜まったんだよ」
その言葉に翼宿は落胆した
目を覚まして一番に柳宿に会いたかった
結局、その日は家族が病室に泊まった
それから二週間、翼宿の体調は順調に回復していった
友人も代わる代わる訪ねてきてくれていた
しかし、柳宿は・・・いつまで経っても病室に姿を見せる事はなかった
「先生・・・ホンマにありがとうございました・・・」
「いいえ。ここまでよく頑張りましたね」
無事に退院の日が来た
その日は、母親と帰る事になった
母親が車に荷物を全部積んで、助手席に翼宿を乗せた
「なぁ、オカン」
「何や?」
「この心臓・・・誰が提供してくれたん?」
「・・・・・・・・・親切な方だよ」
「・・・俺、その親族にお礼に行った方がえぇんちゃう?せっかく自分の心臓を提供してくれたんやし・・・」
「そうやな・・・その内行ったらえぇ」
母親は遠くにいる誰かに呼びかけるように空を見上げてそう答えた
次の日
いくら何でも連絡もよこさずに自分に会いに来ないのはおかしいと察した翼宿は、柳宿の家を訪ねてみる事にした
「・・・はい」
柳宿の母親が顔を出した
「あら・・・翼宿君!!退院できたのね!?おめでとう!!」
「ありがとうございます・・・あの・・・柳宿さんおりますか・・・?ずっと・・・病院に顔出してへんのです・・・心配で」
「あら・・・そう。柳宿なら・・・・・・・部屋にいるわ。会ってやってちょうだい」
母親はそう言って寂しげに微笑んだ
柳宿の部屋への階段は長く感じた
コンコン
「・・・柳宿?俺や」
返事はない
「入るで・・・?」
そっと開けるとそこには誰もいなかった
代わりに日差しに照らされたカーテンが導くように、柳宿の机に向かって靡いていた
そこにそっと翼宿は近づいた
そこには、カメラが一台と「翼宿へ」と書かれた置手紙が置いてあった
翼宿は無言でその封を切った
『翼宿へ
お誕生日おめでとう・・・
と言っても、この手紙を見る頃にはとっくに過ぎてるよね。
だって、あんた誕生日に倒れちゃうんだもん。
本当びっくりした・・・あたし・・・ちゃんと包装して持って行くつもりだったのにさ。
けど・・・あんたは本当に生きたかったんだと思ったよ。
あたしだけじゃない・・・あたし以上に翼宿は・・・苦しかったんだよね。
分かってた筈なのに、分かってあげられなくてごめんね?
あんたの笑顔があたしは大好きだったよ
これからもずっとずっと一緒にいたかった
一緒に思い出作りたかった
だけど』
そこに書かれてある一行を読んで翼宿は手紙を落とした
『あたしはもうこの世にはいません』
ドクン
その時、自分の中の「心臓」が脈打った
ゴメンナサイ
カッテナコトシテ
ダケド、アナタヲタスケタカッタノ
アナタノタメニシネルノナラ
ソレガワタシノコウフクダカラ
アタシハイツデモアンタノナカニイルヨ
まさか・・・お前・・・・お前なんか・・・?
手紙に大粒の涙が落ちる
「ここに・・・おったんか・・・柳宿・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
机の上には、陸上大会で初めて二人で撮った写真が飾られていた
パシャッ
小高い山の上
翼宿はシャッターを切る
あれから、翼宿は柳宿から貰ったカメラで写真を撮り続けた
そして、翼宿の撮った写真はコンクールで入賞
今や、博物館の壁画になるほどのものとなっている
「柳宿・・・えぇ景色やろ・・・?」
ドクン
幸せそうに刻む鼓動
「これからもずっと・・・一緒やで」
そう言うと翼宿はフィルムが入った鞄を持ち上げた
首から下げたカメラの横には
「NURIKO」
そう書かれていた