ザクロ

『俺も・・・こんな写真が撮りたいな』

そう言って、寂しく微笑んだ翼宿
そんな横顔が忘れられない

夜、柳宿は写真集の写真を撮った写真家のHPにアクセスしてみた
そのHPの冒頭にも美しい空、鳥、木々の写真がスライドで映し出された
確かに・・・心を奪われるようだ
そこで、[Profile]をクリック

『魄狼

大学卒業後、父親の影響でカメラを手にする。

彼の映し出す世界は、普段何気なく目にしているものでもより一層深みのある印象を残してくれる。

そんな彼の写真は世界中から評価され、95年にはアカデミー賞を受賞した』

そこには、彼の写真と共にそんな経歴が記されていた
しかし、そこから何行か改行があった
スクロールしてみて、柳宿は言葉を失った

『しかし、22歳に心臓病が発覚。

24歳に若くして還らぬ人となる。』

柳宿の鼓動がドクンと鳴った

嘘・・・嘘でしょ・・・?
心臓病・・・しかも、この人、翼宿と同じ年齢で病気が判明してる・・・

驚くほど偶然が重なっている
まさか、翼宿は彼に自分を重ねていたのだろうか
だから、あんなに寂しそうな横顔を見せたのか
柳宿の胸が締め付けられる

「あ・・・」
ふと、カレンダーを見ると、4月18日は翼宿の誕生日だった
後、二週間・・・

プレゼント、何にしよう・・・?

『俺も・・・こんな写真が撮りたいな』

すぐさま、ページを電化製品のページに切り替えた

「何や。最近、頑張っとらん?」
「何が?」
「せやかて、朝も夜もバイト入れとるやん。まさか、掛け持ちしとる?」
「まぁね~もっと、稼ぎたいのよ!!」
「おいおい、無理すんなや」
「大丈夫よ!!」
翼宿には内緒でバイトを掛け持ちしていたその訳は、勿論彼への誕生日プレゼントの為

それからあっという間に二週間が過ぎてしまった
いよいよ彼の誕生日が明日に迫った日の夜
柳宿はやっとゲットした翼宿へのプレゼントに綺麗に包装をしていた
あいつ、びっくりするだろうなぁ
喜んでくれるかな?
柳宿の心も弾んでいた
最近、体調もいいし、もしかしたら、完治なんて事もありうるかもしれない
希望が漲っていた
その時だった
「柳宿!!!」
階下から、母親の叫び声が聞こえた
「どうしたの!?ママ・・・」
「今、病院から連絡があって・・・」
柳宿はその事実を聞いて飛び出した

外は雨
時刻は0時だった

翼宿が倒れた

遂に知らされた哀しい宣告
しかも、0時を回って丁度聞かされた話だった

ちょっと・・・どういう事よ・・・!?
今日も「明日な」って手振って別れたじゃない・・・

病院に着くと、手術室の前に翼宿の母親が小さくなって座っていた
「おばさん!!!」
「柳宿ちゃん・・・」
その頬は涙で濡れていた
「翼宿が倒れたって・・・何があったんですか!?」
「まったく・・・馬鹿だよあいつは!!子供が病院の庭で遊んでたんだ。こんな夜遅くに・・・それで、飛行機を飛ばしていて木にその飛行機が引っかかって・・・あいつが取ってやったんだ・・・その後・・・あいつ・・・」
「翼宿・・・」
あいつらしい
あいつらしい理由だった

ちょっと待ってよ、神様
こんな理由で、翼宿の命をあっさり葬る気?
あいつ、生きたじゃん
頑張って、生きてたじゃん
今日は・・・誕生日じゃん

すると
ガーッ
手術室のドアが開いた
「先生!!」
母親よりも先に、柳宿が医者に飛びついた
「あの・・・翼宿は・・・どうなんですか!?」
「・・・一命は取り留めました。これから、集中治療室に運びます」
母親が脱力したように床に座り込んだ
「ただ・・・心拍数が弱まっています・・・まだ危険な状態は脱していません・・・覚悟が・・・必要になるかもしれません」
柳宿の頭の中は真っ白になった
「とにかく・・・今から運びます」
後ろから翼宿が寝台に寝かされて、運ばれてきた
「翼宿!!」
呼吸器を当てられて眠っている翼宿は、今までよりも凄く弱弱しく見えた
そんな姿に涙が溢れた

『柳宿ちゃん・・・後は任せたよ』
ショック状態だった母親は、家族の迎えで家に戻った
翼宿がもし目を覚ました時、一番にいてあげて欲しいのは誰でもない柳宿だったからだ
ずっと眠る翼宿の手を握っていた
一時間、二時間・・・一向に目を覚まさない
夜が明ける
翼宿が24歳になる朝だ
『24歳で、還らぬ人に・・・』
あの文字の羅列が頭を駆け巡る
こんなのお約束通りじゃん・・・
勝手に格好つけて行くんじゃないわよ・・・
柳宿の瞳から涙が溢れた
すると
「・・・ぬ・・・」
翼宿の口が微かに動いた
「翼宿!?」
「ぬり・・・こ」
「翼宿!!分かる!?」
「ぬりこ・・・」
はっきりと自分の名前を呼んだ
「翼宿・・・っ・・・あんた・・・馬鹿じゃないの!?自分の体も・・・省みずに危険な事を・・・」
柳宿の顔は涙でぐちゃぐちゃだった
そんな柳宿の頬に翼宿は触れた
「・・・阿呆・・・不細工な面しよって・・・お前・・・すっぴん、最悪やもん・・・な」
まだ、そんな強がり
翼宿は呼吸器を取るように促した
静かに外す
「・・・俺、助かったんか・・・?」
「そうだよ!!よかった・・・よかったね・・・翼宿」
しかし、彼の様子からまだ危険は脱してないという事は明らかに柳宿にも分かった
「・・・俺・・・」
「ん・・・?」

「・・・・・・・もうお前に・・・・・・会えなくなると・・・・・思うたわ」

「・・・・え・・・・?」
「意識がなくなって、あぁもう駄目かて・・・思った時、お前の事真っ先に考えた・・・思い出辿って・・・かわえぇな思うてたマネージャーのお前が・・・告白してくれて・・・ごっつ嬉しかった事とか」
「馬・・・鹿・・・馬鹿・・・何、言ってんのよ・・・」
「せやけど・・・もし、俺が死んだら・・・お前を・・・一生悲しませる事になる・・・そう思うたら・・・生きてる時だけは・・・精一杯笑って生きようと思ったんや・・・」
「翼宿・・・」

「ホンマは・・・怖い」

彼の瞳からは涙が溢れていた
「お前に会えなくなるのが・・・死ぬのが・・・怖い」
「たす・・・」
笑顔の裏には、いつも病気と戦ってきた孤独な翼宿がいた
柳宿は思い切り翼宿を抱きしめた
「馬鹿っ・・・ずっと一緒だよ・・・あんたは死なない・・・絶対、死なない・・・生きて・・・生きてもっと笑わせてよっ・・・」
その時、弱弱しく翼宿は笑った

決めた
決めたよ
あたし
あんたの笑顔を護る方法

ねぇ
こんな事しか出来なかったあたしを
許して?
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