ザクロ

泣いて泣いて泣いて泣き止んだら、笑顔のままでいよう
これからも、ずっと同じ景色を見続けて生きていこうね

「翼宿~」
「おぉ、来よったか!!!」
朱雀総合病院のとある一室のドアが開かれた
ベッドの上には橙色の頭をした関西弁少年
見舞いに来たのは紫髪の綺麗な少女
「来よったかじゃないでしょ?あんた、また検査サボったでしょ?ちゃんと受けないと良くなんないのよ!!」
「せやかて暇なんや~・・・毎回毎回おんなじ事しかせえへんねん、あの医者~」
「それも全部あんたの為なのよ!!」
翼宿と柳宿
二人は恋人同士
どこにでもいる普通のカップルだった
「それより弁当持ってきたか??」
「・・・持ってきたわよ!!あんたの好きなエビフライ!!検査頑張ってると思って・・・作ってきたのに」
「おお~さすが柳宿やな♪まあ心配すんなて!!次の検査は受けるよって~」
明らかに病人に見えないほど明るく振る舞う翼宿に柳宿は小さく微笑んだ
しかし二人は決して普通のカップルになれる事はなかった

翼宿と柳宿は大学時代の陸上サークルの部員とマネージャーの関係で知り合った
部員の中でもずば抜けて足が速かった翼宿に柳宿の心は一瞬で奪われた
そして最後の引退試合で柳宿は翼宿に告白し、結ばれた・・・

それから二年の歳月が流れた
大学卒業と共に結婚も考えていた二人に告げられた重い告知
就職先の職場で倒れた翼宿に下された宣告は

「余命半年」

彼の病名は心臓病
生まれつき持っていた病だった
その告知を知らされた時、柳宿は一週間自分の部屋で泣き続けた
何が出来るだろう
何をしてあげられるんだろう
悩んで悩んで悩み続けた
しかし柳宿には分からなかった
答えが見つからなかった
そんな柳宿に翼宿は告げた

『傍におってくれたら、それでえぇ』

宣告を受けても翼宿は強くて優しかった
柳宿はめそめそしている自分が恥ずかしくなった

翼宿は明るく前向きにいつも病気とひたむきに戦っていた
まだまだ悪戯もたくさんするし、大学時代と変わらない翼宿がそこにいた
だから柳宿もいつもと変わらない自分で接しようと決めたのだ

宣告を受けてから三ヶ月・・・
翼宿と柳宿は共に笑顔で支え合って生きてきた
そのお陰か翼宿の病状は少し安定してきたように思えた

「最近・・・苦しくならない?」
エビフライを頬張る翼宿に柳宿は問い掛ける
「大丈夫や。あの外出許可以来ピンピンしとるわ!!」
「あんま無理しないでよ?一瞬の行動でも命取りになる事があるんだからね!!」
「ったく・・心配性やな。お前は」
そう言ってガシガシと柳宿の頭を撫でた
「・・・もう。人事みたいに」
「今日もバイトやろ?」
「そうよ!!」
「すまんなぁ、疲れてるやろ。いつも来て貰て」
「そんな事ないわよ!!あんたの喋り相手してやんないと、夜も眠れないわよ!!」
「んな事言って・・・俺に会いたいからて素直に言えや!!」
「・・・///っるさいわね!!」
鞄で翼宿を軽く殴る
「じゃあ、明日もまた来るからね!!しっかり健康維持して早めに寝るのよ!!」
「へいへい」
翼宿はいつもと変わらない笑顔で手を振ってくれる

病室を出て、柳宿はため息をついた
今日も何事もなかった
毎日毎日、それだけが気がかりだった
いつも明るくて元気な翼宿だからこそ、彼から笑顔が消えるのが、一番心配だった
その時
向こうから大柄な体つきをした女性がやってきた
「・・・おばさん?」
柳宿は声をかけた
「・・・あぁ、柳宿ちゃん。今日も来てくれてたんかい?」
「はい!!おばさんも、今から面会ですか・・・?」
「あぁ、いつもこの時間に来ているよ」
「そうですか・・・じゃあ、私はこの辺で!!」
「あ・・・柳宿ちゃん」
「・・・はい?」
「少し・・・時間あるかい?」
「はい・・・?」
「話がしたいんだ・・・柳宿ちゃんと」
柳宿は時計を見た
幸い、バイトまではまだ余裕はある
「いいですよ!!」

二人は、病院隣の喫茶店に入った
「・・・いつもいつも・・・本当にありがとうねぇ」
「いえいえ!!私も好きで来てるので!!私こそ・・・無駄に押しかけちゃってすみません・・・」
「いやいや、今はあいつはあたしら家族よりも、柳宿ちゃんに来てもらった方がいいのさ。本当にこんないい娘を彼女に持って、あいつは幸せだよ」
翼宿の母親は少し疲れきった笑顔を見せる
(そっか・・・おばさんの方があたしの何倍も疲れてるんだもんね・・・)
柳宿の胸が痛んだ
「・・・今、お医者さんに病状を聞いてきたよ」
その言葉に柳宿はギクリとした
「・・・確実に病状は進行してるらしい・・・本人は元気にしてるけど・・・いつ、倒れてもおかしくないってさ・・・」
「・・・そう・・・なんですか」
「あいつ・・・馬鹿だねぇ。本当は苦しいのに、強がって・・・」
そう言って、母親は目頭を抑えた
「・・・おばさん。私も協力します。翼宿を共に支えて励ましていきましょう・・・?」
柳宿はそう言って微笑んだ
「柳宿ちゃん・・・」
私が支えなければ
翼宿とおばさんを・・・
確実に迫り来る「死」という現実を今はまだ考えたくなかった
あいつが頑張ってるのに

「えぇなぁ」
翼宿が、珍しく本を広げている
「なぁに?それ」
「俺の好きな写真家の写真集や。おかんに言うて、買ってきてもろた」
「へぇ・・・あんた、写真好きなんだ?」
「せやなぁ。何かこの人の写真見ると・・・全部嫌な事忘れてまう。俺も・・・こんな写真が撮りたいな」
「・・・・・・・・」
「ま、無理やろけどな」
そう言って、久々に見せた寂しそうな横顔

こいつの夢を叶えてあげたい
でも、あたしには、何が出来る?
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