LOVE HOSPITAL

バタバタバタ・・・
向こうから誰かが駆けてきた
それは手術室のベッドで横たわっている女性と瓜二つの顔
「すみません!今連絡を受けた鳳綺です!あの・・・!柳宿は・・・!?」
息を切らしながら中井にすがりつく鳳綺
「今、手術中です・・・。まだ何とも言えない状態で・・・!」
「そんな・・・」
鳳綺はその場に座り込んだ
「私のせいだわ・・・。あの時体調悪い柳宿を連れて買い物に出かけたから・・・、それで人ごみの中に出て行ったから・・・、私が誘わなければ柳宿はこんな目には・・・」
「大丈夫ですよ・・・。貴方のせいではありません・・・」
顔を覆って泣き出した鳳綺を美奈子はなだめた
「お願いします・・・。助けてください・・・。親友を・・・。柳宿を・・・!」
手術中のランプを見上げながら鳳綺は呟いた
「柳宿・・・!ごめんなさい・・・、ごめんなさい・・・」

ゴメンナサイ

ピーーーーーーー
まだ悲しく室内に響く音
その場に佇んだ医師達
そこには綺麗な穏やかな顔で眠る一人の少女
我に返った先輩医師は
「これより心肺蘇生を試みます・・・」
と、器具を取り出した
ドンッドンッドンッ
空っぽになったような身体を揺さぶられた
亡骸はびくともしない

なぁ、目開けてくれ・・・
またいつものように、「何すんのよ」って怒って起き上がってくれ

まだ呆然としている翼宿は目でその亡骸に訴えかけた
しかし眉も動かない
瞼も動かない
今までに見たことないほど静かな柳宿
「・・・駄目か・・・」
医師は諦めたように器具を取り外した
その時
「貸してください・・・」
やっと我に返った翼宿が先輩医師が外していた器具に手をかけた
「翼宿・・・。しかしな、もうこの子は・・・」
「1%の確率でも俺はこいつを助けてやらなあかんのです・・・」
先輩医師の目も見ずにそう答えた翼宿に先輩医師は何も答える事が出来なかった
ドンッドンッドンッ
今まで身につけてきた全ての医療技術を忘れるほどに、翼宿は無我夢中に柳宿の胸を押した
お願い
お願い
お願い
そう何度も念じながら
既に心肺蘇生に入って三十分は経とうとした
亡骸に全くの変化は無い
翼宿は全身汗びっしょり
手は真っ赤になっていた
「翼宿・・・!もう・・・」
その時

ピーーーピッピッピッ

希望の音

皆は一斉にモニターに目をやった
そこにはわずかに動く心拍数
数字も回復していた
「心拍数が回復しました!」
側で涙を飲んで見守っていた看護婦が悲鳴をあげた
「翼宿・・・」
信じられないといういうような顔つきで先輩医師は翼宿を見た
こいつには生存率0%の患者を生き返らせる力があるのか
翼宿は息を切らしながらモニターに只釘付けになっていた

手術中のランプが消えた
皆は一斉に扉に駆け寄った
そこから出てきたのは先輩医師
「先生・・・!あの・・・!柳宿さんは・・・」
「・・・大丈夫です。一命は取り留めました・・・」
その場が薔薇が咲いたように明るくなった
「やりましたね!先生・・・」
中井は先輩医師に元気に声をかけた
「否・・・。俺は何もやってないよ・・・。一時は呼吸停止になったんだがあいつが・・・」
顎で合図すると穏やかに眠る柳宿と共に翼宿が出てきた
「あいつが生き返らせたんだ・・・」
皆は呆気に取られた顔で翼宿を見た
「柳宿!!」
鳳綺はすぐさま柳宿に駆け寄った
「大丈夫ですよ・・・。もう大丈夫です・・・」
翼宿は優しい表情で柳宿の額を撫でた
「柳宿・・・!よかったね・・・!頑張ったね・・・!!」
鳳綺は涙をボロボロ零しながら柳宿の手を握った

夕暮れの光が差し込む310号室
翼宿はその病室の患者の手をずっと握って目が覚めるのを待った
すると
柳宿がゆっくりと目を開けた
「柳宿!」
柳宿はまだ焦点が掴めないような瞳で翼宿を見た
「大丈夫か!?判るか!?」
「翼宿・・・」
その言葉を聞いて翼宿は一気に安心した
「もう大丈夫や・・・。助かったで・・・。柳宿・・・」
「あたしね・・・、夢見てた・・・」
柳宿は天井に視線を向けた
「すごく綺麗な海があって・・・、あの海の向こう側には何があるんだろうって思って・・・」
「・・・・」
「海を渡って渡っていったの・・・。そしてついに向こう側にたどり着いたと思ったら・・・、あんたの声が聞こえて・・・」
「俺の・・・?」
「そう・・・。柳宿・・・。行くな・・・。帰って来い・・・って・・・」
柳宿の瞳から涙が溢れた
「一緒に・・・、仕事しよう・・・って・・・」
「柳宿・・・」
「だから・・・、行きたかったけど・・・、海の向こう側を見てみたかったけど・・・、戻らなきゃって・・・」
翼宿の頬を一滴の雫が伝った
「あそこには翼宿がいるって・・・、大好きな翼宿がいるって・・・」
「あぁ・・・」
「だから・・・、ありがとう・・・翼宿・・・本当に・・・」
「何・・・、言うてんねん・・・。お前が病気に勝ったんや・・・。俺のお陰やないで・・・」
涙で声が詰まった
患者にこんなに涙したのは初めてだ
「あのな・・・、柳宿・・・。俺もずっと言えなかった事があるんや・・・」
「何?」
「俺・・・、ホンマにアホやったな。お前の気持ち全然判っとらんでベラベラ命令ばっかりしとった。医者と患者の関係やのに、お前とは以前の仲間だっただけでお前を荒く扱っとった・・・。許してくれ・・・」
「そんな事・・・、謝る事じゃないわよ・・・」
柳宿は優しく微笑んだ
むしろ嬉しい
自分を他の皆と同じ存在として扱っていなかった事だけでも
「せやけど・・・、何でお前をそんなに意識したのか、守りたかったのか、救いたかったのか・・・やっと判った・・・」
「翼宿・・・?」

「俺も・・・、お前が好きや・・・」

「・・・え?」
自分の耳を疑った
自分の目を疑った
今彼は何と言った?
「愛しとる・・・」
戸惑いの不意打ちを突くように翼宿は言葉をかけた
これが生きてるって事なんだ
生きてるって感じる時なんだ
実感するように柳宿は頷いた
その頬を涙でびっしょり濡らして
翼宿はその涙を静かに拭うと、柳宿の唇にそっと口付けをした

もう離れないよ
どんな事があっても絶対に
ねぇ?私のお医者さん・・・


三年後
「ちょっと!翼宿!!あんた605号室の相模さんの薬間違えたでしょ!?」
「なっ・・・、何やて!?・・・ホンマや・・・!!」
「もう~!あんたも頭が老化したんじゃないの!?一回診てあげましょうか?」
「アホ抜かせ!どんな医者でも間違いはあるんや!まだ飲ませてないんやからえぇやないか!!」
ナースステーションに鳴り響く怒鳴り声
患者はまた痴話喧嘩かと首を振った
そこには院長の椅子に腰掛ける翼宿と、白い白衣に身を包んだ柳宿の姿
二人は夫婦
今や二人は医療界でもベテランと言われる程の医療技術を持った人々が集まる四神総合病院で働いていた
「これじゃ、世界の片腕と呼ばれているあんたの名誉も台無しね・・・」
柳宿はため息をついた
「大きなお世話や!」
プイとそっぽを向く翼宿
「ま、その内あたし達の子供が大きな病気にかかっても治せるような腕は残しておいてよ!」
柳宿は翼宿にウインクした
「なっ・・・、何言うとるんや!アホ!」
翼宿は顔面真っ赤でつっかかった

此処は二人の病院
どんな病気もお治し致します
もちろん恋の病の貴方だってしっかりケアします
貴方のご来院をお待ちしてますv
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