LOVE HOSPITAL
「急患です!木村吾郎さん20歳!急な腹痛で運ばれました!!」
ナースステーションに一人の看護婦が息を切らして駆け込んできた
「よし!行こうか!!」
今日は中井が担当として手術をする日
「しっかり頑張れや!ミスするんやないで!」
翼宿が助手の肩を叩いて力強く言い聞かせた
一時間後
ナースステーションにほっとしたような顔の中井がやってきた
「どうや?」
「大成功だったよ!これもお前の側で修行を積んだお陰だよ!」
「よかったやないか!盲腸やったんか?」
「あぁ。でも一応第二次手術もあるんだ。結構危なかったらしいし・・・」
「さよか。ま、とりあえず祝い酒でも飲みに行くか?」
二人は笑いながらナースステーションを出て行った
翌朝
「翼宿医師!」
美奈子看護婦が翼宿を大声で呼んだ
「何や?どないした?」
「大変なんです!中井先生が昨日入ってきた木村さんに・・・!」
その一言を聞いて翼宿は駆け出した
「うるせぇんだよ!!いちいち訳の判らねぇ事ばっかり吐きやがって!!」
「木村さん!どうして昨日治してくれた先生にこんな事するんですか!?」
「うるせぇ!!お前もこういう風にされてぇのか!?」
病室のドアを開けるとそこには頬に青あざが出来た中井と怒鳴り散らす看護婦
そしてあの木村吾郎がいた
「何やってんねん!?中井!大丈夫か!?」
「あぁ・・・」
中井に駆け寄った翼宿に木村は眉を引く付かせた
「あんだぁ?まだ藪医者がいたのか?」
派手な若者らしいヘアスタイルに形相の悪い顔立ちの男をじっと見つめ翼宿はため息をついた
「何でこんな事するんや?お前を治してくれたんやで?」
「この看護婦と同じ事言ってんじゃねぇよ!俺は治してほしいなんて一言も言ってねぇ!俺は病院が医者が看護婦が一番嫌いなんだよ!!」
「・・・とりあえず落ち着いて・・・」
「来るんじゃねぇ!!」
木村が拳を翼宿に向かって振り上げた
「きゃあっ!!」
看護婦は目を伏せた
ガシッ
その手を食い止めた翼宿
「・・・!」
「医者の言う事が聞けへんのか!?自分の命や人の命を大事にせぇ!!」
看護婦はポッと顔を赤らめた
「チッ!」
木村は敗北したように舌打ちするとベッドに転がり込んだ。
「はぁ・・・」
「どうしたのよ?この頃日課みたいなため息ついて・・・」
「今日問題児な患者が出たんや・・・」
「問題児?」
「あぁ、最近のきかない餓鬼や・・・。俺や助手に暴力振るいよったんや・・・」
「えぇっ!?」
「中井は怪我した・・・。俺は何ともなかったけどあいつは初めての患者やからそれなりにショックは受けてるやろうなぁ・・・」
「そうなんだ・・・。大変ね。医者も・・・」
「せやでぇ!お前もいつかこの医療現場の厳しい地獄に耐えなあかんで?お前そういえば最近勉強しとるなぁ・・・」
「あ、うん!退院したら一日でも早く免許とれるようにさ!あんたとも早く仕事したいし!」
机の上に重なっている医療書を翼宿はパラパラとめくった
「ま、せいぜい頑張れや。何か判らへん事あったら聞けや!」
「うん!有難う!」
「後・・・、その患者には気ぃつけろ。聞いた所ナンパしまくってたらしいんや・・・」
「大丈夫よ!ナンパされるほどの女じゃないわよ!」
患者間では可愛いと評判の柳宿に翼宿はため息をついた
「もしも何かあったらナースコールせぇよ!」
念押しする翼宿に柳宿はポカンとしていたがすぐに嬉しくなってにっこり笑った
それを外で聞いていた木村
「ふ~ん・・・」
「翼宿先生!」
木村が何事も無かったように声をかけてきた
「・・・何や?」
「310号室の女の子と随分仲がいいんですねぇ。俺盗み見しちゃいました!」
「・・・・・!」
「医者が患者と不順異性交遊してもいいんですねぇ」
「何言うてんねん!そんなんやあらへん・・・!」
「そうなんですか~?じゃ、俺あの子貰っちゃおうかな~?」
「・・・何やて?」
「いいじゃないですか~v何でもないんでしょう?俺あの子結構好みなんですよね~v」
「アカン・・・」
「あぁ?」
「アカン!患者間での恋愛は禁止や!!此処の・・・、決まりや・・・」
翼宿はとっさに嘘をついた
自分でも何故嘘をついたのか判らなかった
ただこの男には絶対柳宿を任せてはいけない
そう思ったからだ
「ふ~ん・・・。そうなんですか~?ま。いいか!他にもたくさん女いるしな~v」
「あんまり遊んでばっかりいるとろくな大人になれへんで・・・」
「判りましたよ~」
そう言うと木村は口笛を吹きながら病室に帰っていった
「・・・大丈夫かよ?翼宿!あいつなんか信用して!!」
助手の中井はそっと翼宿に耳打ちをした
「大丈夫や・・・。女性病棟に男性病棟から移動する時は必ずナースステーションの前を通るから見張ってれば来ぇへん・・・」
それでも胸騒ぎを覚えながら翼宿は仕事に戻った
「よし!これで完璧!!」
木村は何処から持ってきたのか女装道具を身につけた
「これで柳宿ちゃんは俺の物~v」
不敵な笑みを浮かべながらそそくさとナースステーションの前を通った
コンコン
そのノックの音で柳宿はすぐに翼宿ではないと判った
見るとあの木村がいた
「やぁ。僕の事は有名人だから知ってると思うが改めて自己紹介した方がいいかな?」
「えぇ・・・。知ってるわ。何の用?」
「いいなぁ!その肝が座った態度!俺君みたいな子タイプなんだよねぇ!」
そう言うと木村はずいと柳宿に近寄ってきた
「ちょっと!来ないでよ!まずそのとさか頭を何とかしなさいよ!!」
「ヒャッヒャッヒャッ!いいねぇ!君面白い!気にいった!」
木村はガバと柳宿に抱きついてきた
「ちょっ・・・!離しなさいよ!」
「何だよ?どうせ彼氏いねぇんだろ?あ!もしかしてあの担当医が好きなのかよ!?」
その言葉にうっと柳宿はたじろいた
「図星かよ?あんな藪医者の何処がいいんだよ?」
「何よ・・・!翼宿の事よく知りもしないで勝手な事言わないでよ!翼宿はこの病院の患者さんを誰よりも大切にしてる優しい奴なんだから・・・!!」
「あんだと?」
そっと手元にあったナースコールのボタンを押す
プルルルルル
310号室のランプが着信音と共に点滅した
「俺出るわ!」
翼宿が何かを察したように素早く受話器を取り上げた
『あんな奴より俺の方がよっぽどいい男だって証明してやるよ!』
『嫌だ!やめて!!』
受話器の向こうから聞こえてくる声に翼宿は受話器を放り投げて病室へ向かった
勢いよく扉を開けた
そこにはあの木村と柳宿がいた
「貴様・・・っ・・・!」
柳宿に抱きついていた木村を翼宿は肩を引っ張り向こう側に投げ出した
「翼宿・・・!」
「何なんだよ!?お前ら二人不順異性交遊しやがって!病院は問題にしないのかよ!?信頼されてる翼宿先生に何も言えねぇのかよ!そんなんで医者が務まるのかよ!?」
「・・・お前に言われとうないわ!!」
「・・・・!」
木村と柳宿は同時にびっくりした
「看護婦はんや中井に散々迷惑かけたそんな奴に言われとうないわ!あまつさえ患者にまで手出しよって!どれだけの人が迷惑しとるか判っとるのか!?少しは反省せぇ!!」
今まで見た事の無い翼宿の血相を変えた顔
木村は悔しそうに病室を飛び出した
「翼宿・・・!」
後を追おうとした翼宿を柳宿は呼び止めた
「あの・・・」
「・・・お前は此処におれ・・・」
それだけ言うと翼宿は病室を後にした
中井と協力して木村を探して三十分
やっと屋上のベンチで肩を落とす木村を翼宿が発見した
「此処におったか・・・」
肩で息をしながら翼宿は木村の後姿に声をかけた
「来るなよ・・・」
「そうはいかへん・・・」
「何でだよ!?俺は駄目な患者なんだろ!?もう俺の居場所なんてないんだろ!?」
「・・・居場所?」
しまったという風に木村は口を押さえたがしばらくして話し出した
「俺よぉ・・・。ずっとこの腹痛に悩まされてきたんだよ・・・。小学校の頃からみんなに迷惑かけてこの腹痛が続くとお前なんかいると迷惑だなんて言われてよぉ。もう嫌になって・・・。ヤケになって荒れて学校行かないで女作って遊んでばっかりで家にもろくに帰らなかった・・・」
木村の肩が震えている
「悔しかったんだよ!!せっかく生まれてきたのに誰からも必要とされないし、自分だけがこんな痛み抱えてなくちゃいけねぇし!!だから健康な奴に八つ当たりしたり何でも知った被ってるような医者に八つ当たりしたり・・・」
翼宿はそこまで聞くとため息をつき、木村の横に腰掛けた
木村は唇を噛んでじっとうつむいていた
「・・・確かに病気言う奴はややこしいんや・・・。時にはその人の生気さえも奪ってしまう・・・。健康な奴恨んでもうても仕方ない事なんや・・・。せやけどな、そこでお前が逃げてしもたら病気は一生お前にまとわりついてくるで・・・。負けてまうんやで・・・?」
木村は無言のままだ
「・・・俺の担当のあいつもな、五年間の発作とガン持っとるんや・・・」
その言葉に木村は初めて反応した
「結構ややこしいんや。今は落ち着いとるが再発したら俺でも治せるか・・・」
「・・・何だよそれ・・・。二個も病気持ってるのかよ。その事あの子には・・・」
翼宿は静かに首を振った
「・・・・・」
「せやけど、あいつはひたむきに前向きに頑張っとる・・・。退院したら叶えたい看護婦の夢も追って只管勉強しとるんや・・・。弱音なんか一つも吐かない。涙もこぼさない。それだけあいつも生きたいんや。頑張って病気と闘っとるんや。お前も男やろ?・・・悔しくあらへんか?」
木村は何かに気付いたようだった
「俺・・・」
その目からは涙が流れていた
「大丈夫・・・。みんなで治すで・・・。お前の事。せやからお前も負けるな・・・。な?」
静かに頷く木村の頭を翼宿はポンポンと撫でてやった。
「翼宿!あの人は・・・?」
屋上に上がっていった翼宿を柳宿は待っていた
「大丈夫や・・・。少し落ち着いたらしい・・・。さっきのもな・・・、柳宿。許してやってくれ・・・。あいつも色々あったみたいや・・・」
翼宿は穏やかな表情に戻っている
「別に怒ってないわよ」
ホッとしたようにくるりと向きを変える柳宿の頭を翼宿は撫でた
「翼宿・・・?」
「お前は偉いな・・・」
「えっ・・・?」
「何でもあらへん・・・」
翼宿は強気な患者を前に静かに微笑んだ。
それから数日後
手術は無事成功し、木村は退院の日を迎えた
「でわ、くれぐれも無理をなさらないように!木村さん!」
引き続き、担当医を受け継いだ中井はそう木村に呼びかけた
「はい。色々ご迷惑おかけしました・・・」
木村は深々と中井に頭を下げた
そして最後に翼宿の前に来ると木村は手を差し出した
「有難う・・・。あんたのお陰でこうして無事退院する事が出来たんだよ・・・」
その手を取ると翼宿も
「お前が頑張ったからやで。俺のお陰でも何でもあらへん・・・」
と、微笑んだ
「先生もあの子治すの頑張ってください。で、結婚する時は呼んでくださいよ!」
木村はそう言うと悪戯っぽく笑った
「なっ・・・、何言うとんねん!?」
翼宿の頬が瞬時に赤くなった
「あれ~?先生、どうしたんですか?お顔が真っ赤・・・」
「本当ですねv」
中井と美奈子も揃って翼宿をからかった
「アホ!今日は暑いからや!」
とっさにごまかした
「じゃ!」
木村は手を挙げると静かに病棟を後にした。
ナースステーションに一人の看護婦が息を切らして駆け込んできた
「よし!行こうか!!」
今日は中井が担当として手術をする日
「しっかり頑張れや!ミスするんやないで!」
翼宿が助手の肩を叩いて力強く言い聞かせた
一時間後
ナースステーションにほっとしたような顔の中井がやってきた
「どうや?」
「大成功だったよ!これもお前の側で修行を積んだお陰だよ!」
「よかったやないか!盲腸やったんか?」
「あぁ。でも一応第二次手術もあるんだ。結構危なかったらしいし・・・」
「さよか。ま、とりあえず祝い酒でも飲みに行くか?」
二人は笑いながらナースステーションを出て行った
翌朝
「翼宿医師!」
美奈子看護婦が翼宿を大声で呼んだ
「何や?どないした?」
「大変なんです!中井先生が昨日入ってきた木村さんに・・・!」
その一言を聞いて翼宿は駆け出した
「うるせぇんだよ!!いちいち訳の判らねぇ事ばっかり吐きやがって!!」
「木村さん!どうして昨日治してくれた先生にこんな事するんですか!?」
「うるせぇ!!お前もこういう風にされてぇのか!?」
病室のドアを開けるとそこには頬に青あざが出来た中井と怒鳴り散らす看護婦
そしてあの木村吾郎がいた
「何やってんねん!?中井!大丈夫か!?」
「あぁ・・・」
中井に駆け寄った翼宿に木村は眉を引く付かせた
「あんだぁ?まだ藪医者がいたのか?」
派手な若者らしいヘアスタイルに形相の悪い顔立ちの男をじっと見つめ翼宿はため息をついた
「何でこんな事するんや?お前を治してくれたんやで?」
「この看護婦と同じ事言ってんじゃねぇよ!俺は治してほしいなんて一言も言ってねぇ!俺は病院が医者が看護婦が一番嫌いなんだよ!!」
「・・・とりあえず落ち着いて・・・」
「来るんじゃねぇ!!」
木村が拳を翼宿に向かって振り上げた
「きゃあっ!!」
看護婦は目を伏せた
ガシッ
その手を食い止めた翼宿
「・・・!」
「医者の言う事が聞けへんのか!?自分の命や人の命を大事にせぇ!!」
看護婦はポッと顔を赤らめた
「チッ!」
木村は敗北したように舌打ちするとベッドに転がり込んだ。
「はぁ・・・」
「どうしたのよ?この頃日課みたいなため息ついて・・・」
「今日問題児な患者が出たんや・・・」
「問題児?」
「あぁ、最近のきかない餓鬼や・・・。俺や助手に暴力振るいよったんや・・・」
「えぇっ!?」
「中井は怪我した・・・。俺は何ともなかったけどあいつは初めての患者やからそれなりにショックは受けてるやろうなぁ・・・」
「そうなんだ・・・。大変ね。医者も・・・」
「せやでぇ!お前もいつかこの医療現場の厳しい地獄に耐えなあかんで?お前そういえば最近勉強しとるなぁ・・・」
「あ、うん!退院したら一日でも早く免許とれるようにさ!あんたとも早く仕事したいし!」
机の上に重なっている医療書を翼宿はパラパラとめくった
「ま、せいぜい頑張れや。何か判らへん事あったら聞けや!」
「うん!有難う!」
「後・・・、その患者には気ぃつけろ。聞いた所ナンパしまくってたらしいんや・・・」
「大丈夫よ!ナンパされるほどの女じゃないわよ!」
患者間では可愛いと評判の柳宿に翼宿はため息をついた
「もしも何かあったらナースコールせぇよ!」
念押しする翼宿に柳宿はポカンとしていたがすぐに嬉しくなってにっこり笑った
それを外で聞いていた木村
「ふ~ん・・・」
「翼宿先生!」
木村が何事も無かったように声をかけてきた
「・・・何や?」
「310号室の女の子と随分仲がいいんですねぇ。俺盗み見しちゃいました!」
「・・・・・!」
「医者が患者と不順異性交遊してもいいんですねぇ」
「何言うてんねん!そんなんやあらへん・・・!」
「そうなんですか~?じゃ、俺あの子貰っちゃおうかな~?」
「・・・何やて?」
「いいじゃないですか~v何でもないんでしょう?俺あの子結構好みなんですよね~v」
「アカン・・・」
「あぁ?」
「アカン!患者間での恋愛は禁止や!!此処の・・・、決まりや・・・」
翼宿はとっさに嘘をついた
自分でも何故嘘をついたのか判らなかった
ただこの男には絶対柳宿を任せてはいけない
そう思ったからだ
「ふ~ん・・・。そうなんですか~?ま。いいか!他にもたくさん女いるしな~v」
「あんまり遊んでばっかりいるとろくな大人になれへんで・・・」
「判りましたよ~」
そう言うと木村は口笛を吹きながら病室に帰っていった
「・・・大丈夫かよ?翼宿!あいつなんか信用して!!」
助手の中井はそっと翼宿に耳打ちをした
「大丈夫や・・・。女性病棟に男性病棟から移動する時は必ずナースステーションの前を通るから見張ってれば来ぇへん・・・」
それでも胸騒ぎを覚えながら翼宿は仕事に戻った
「よし!これで完璧!!」
木村は何処から持ってきたのか女装道具を身につけた
「これで柳宿ちゃんは俺の物~v」
不敵な笑みを浮かべながらそそくさとナースステーションの前を通った
コンコン
そのノックの音で柳宿はすぐに翼宿ではないと判った
見るとあの木村がいた
「やぁ。僕の事は有名人だから知ってると思うが改めて自己紹介した方がいいかな?」
「えぇ・・・。知ってるわ。何の用?」
「いいなぁ!その肝が座った態度!俺君みたいな子タイプなんだよねぇ!」
そう言うと木村はずいと柳宿に近寄ってきた
「ちょっと!来ないでよ!まずそのとさか頭を何とかしなさいよ!!」
「ヒャッヒャッヒャッ!いいねぇ!君面白い!気にいった!」
木村はガバと柳宿に抱きついてきた
「ちょっ・・・!離しなさいよ!」
「何だよ?どうせ彼氏いねぇんだろ?あ!もしかしてあの担当医が好きなのかよ!?」
その言葉にうっと柳宿はたじろいた
「図星かよ?あんな藪医者の何処がいいんだよ?」
「何よ・・・!翼宿の事よく知りもしないで勝手な事言わないでよ!翼宿はこの病院の患者さんを誰よりも大切にしてる優しい奴なんだから・・・!!」
「あんだと?」
そっと手元にあったナースコールのボタンを押す
プルルルルル
310号室のランプが着信音と共に点滅した
「俺出るわ!」
翼宿が何かを察したように素早く受話器を取り上げた
『あんな奴より俺の方がよっぽどいい男だって証明してやるよ!』
『嫌だ!やめて!!』
受話器の向こうから聞こえてくる声に翼宿は受話器を放り投げて病室へ向かった
勢いよく扉を開けた
そこにはあの木村と柳宿がいた
「貴様・・・っ・・・!」
柳宿に抱きついていた木村を翼宿は肩を引っ張り向こう側に投げ出した
「翼宿・・・!」
「何なんだよ!?お前ら二人不順異性交遊しやがって!病院は問題にしないのかよ!?信頼されてる翼宿先生に何も言えねぇのかよ!そんなんで医者が務まるのかよ!?」
「・・・お前に言われとうないわ!!」
「・・・・!」
木村と柳宿は同時にびっくりした
「看護婦はんや中井に散々迷惑かけたそんな奴に言われとうないわ!あまつさえ患者にまで手出しよって!どれだけの人が迷惑しとるか判っとるのか!?少しは反省せぇ!!」
今まで見た事の無い翼宿の血相を変えた顔
木村は悔しそうに病室を飛び出した
「翼宿・・・!」
後を追おうとした翼宿を柳宿は呼び止めた
「あの・・・」
「・・・お前は此処におれ・・・」
それだけ言うと翼宿は病室を後にした
中井と協力して木村を探して三十分
やっと屋上のベンチで肩を落とす木村を翼宿が発見した
「此処におったか・・・」
肩で息をしながら翼宿は木村の後姿に声をかけた
「来るなよ・・・」
「そうはいかへん・・・」
「何でだよ!?俺は駄目な患者なんだろ!?もう俺の居場所なんてないんだろ!?」
「・・・居場所?」
しまったという風に木村は口を押さえたがしばらくして話し出した
「俺よぉ・・・。ずっとこの腹痛に悩まされてきたんだよ・・・。小学校の頃からみんなに迷惑かけてこの腹痛が続くとお前なんかいると迷惑だなんて言われてよぉ。もう嫌になって・・・。ヤケになって荒れて学校行かないで女作って遊んでばっかりで家にもろくに帰らなかった・・・」
木村の肩が震えている
「悔しかったんだよ!!せっかく生まれてきたのに誰からも必要とされないし、自分だけがこんな痛み抱えてなくちゃいけねぇし!!だから健康な奴に八つ当たりしたり何でも知った被ってるような医者に八つ当たりしたり・・・」
翼宿はそこまで聞くとため息をつき、木村の横に腰掛けた
木村は唇を噛んでじっとうつむいていた
「・・・確かに病気言う奴はややこしいんや・・・。時にはその人の生気さえも奪ってしまう・・・。健康な奴恨んでもうても仕方ない事なんや・・・。せやけどな、そこでお前が逃げてしもたら病気は一生お前にまとわりついてくるで・・・。負けてまうんやで・・・?」
木村は無言のままだ
「・・・俺の担当のあいつもな、五年間の発作とガン持っとるんや・・・」
その言葉に木村は初めて反応した
「結構ややこしいんや。今は落ち着いとるが再発したら俺でも治せるか・・・」
「・・・何だよそれ・・・。二個も病気持ってるのかよ。その事あの子には・・・」
翼宿は静かに首を振った
「・・・・・」
「せやけど、あいつはひたむきに前向きに頑張っとる・・・。退院したら叶えたい看護婦の夢も追って只管勉強しとるんや・・・。弱音なんか一つも吐かない。涙もこぼさない。それだけあいつも生きたいんや。頑張って病気と闘っとるんや。お前も男やろ?・・・悔しくあらへんか?」
木村は何かに気付いたようだった
「俺・・・」
その目からは涙が流れていた
「大丈夫・・・。みんなで治すで・・・。お前の事。せやからお前も負けるな・・・。な?」
静かに頷く木村の頭を翼宿はポンポンと撫でてやった。
「翼宿!あの人は・・・?」
屋上に上がっていった翼宿を柳宿は待っていた
「大丈夫や・・・。少し落ち着いたらしい・・・。さっきのもな・・・、柳宿。許してやってくれ・・・。あいつも色々あったみたいや・・・」
翼宿は穏やかな表情に戻っている
「別に怒ってないわよ」
ホッとしたようにくるりと向きを変える柳宿の頭を翼宿は撫でた
「翼宿・・・?」
「お前は偉いな・・・」
「えっ・・・?」
「何でもあらへん・・・」
翼宿は強気な患者を前に静かに微笑んだ。
それから数日後
手術は無事成功し、木村は退院の日を迎えた
「でわ、くれぐれも無理をなさらないように!木村さん!」
引き続き、担当医を受け継いだ中井はそう木村に呼びかけた
「はい。色々ご迷惑おかけしました・・・」
木村は深々と中井に頭を下げた
そして最後に翼宿の前に来ると木村は手を差し出した
「有難う・・・。あんたのお陰でこうして無事退院する事が出来たんだよ・・・」
その手を取ると翼宿も
「お前が頑張ったからやで。俺のお陰でも何でもあらへん・・・」
と、微笑んだ
「先生もあの子治すの頑張ってください。で、結婚する時は呼んでくださいよ!」
木村はそう言うと悪戯っぽく笑った
「なっ・・・、何言うとんねん!?」
翼宿の頬が瞬時に赤くなった
「あれ~?先生、どうしたんですか?お顔が真っ赤・・・」
「本当ですねv」
中井と美奈子も揃って翼宿をからかった
「アホ!今日は暑いからや!」
とっさにごまかした
「じゃ!」
木村は手を挙げると静かに病棟を後にした。