LOVE HOSPITAL

「今日の申し送りは以上です」
主任の掛け声でナースステーションはいつもの活気を取り戻した
「翼宿医師」
「はい?」
「柳宿さんの体調はどう?」
「はい。順調に回復してきています。発作の回数も前より少なくなったし、後はガンだけですがこれは近日手術を行えば大丈夫かと」
「そう。柳宿さんは精神面でもすぐに参ってしまうからしっかり君がフォローしてあげるのよ!」
主任がウインクする
周りのナースチームも温かく微笑んだ
柳宿の元へ翼宿が帰ってきて一週間
あれから柳宿の体調はみるみるよくなっていった
それもこれもみんな担当医師の翼宿に支えられてきたから
周りの看護婦もすっかり翼宿の力だと思うようになっていた

「そういえばもうすぐバレンタインよね?」
「そうそう!やっぱり例え柳宿さんがいても付き合ってる訳じゃないんだからここは翼宿医師にアタックすべきよね?」
「あたし、本命一本で行くからね!」
「私だって!」
またもや看護婦同士の取っ組み合いが始まっていた

「翼宿医師!14日は何かご用事ありますか?」
「もしよかったら私達とお出かけいたしません?」
「14日・・・?あぁ。すまん!その日夜勤や!」
その一言で迫っていた看護婦全員がのけぞった
「また柳宿さんのために夜勤ですって!」
「しょうがないけど悔しい!」
「いいえ!私達は神聖なる看護婦よ!病院内でも翼宿医師には会えるわ!!」
負けず嫌いのナースチームは次々と作戦を編み出した

310号室でバイタルチェックを翼宿から受ける柳宿
「なぁ?」
「何?」
「14日って何の日や?」
「14日・・・?バレンタインじゃない?」
「あぁ!さよか!」
「何?看護婦さん達に聞かれたんでしょ?」
「あぁ。みんなあんなに焦ってどないしたんや?」
「鈍・・・」
「何か言ったか?」
「何でもありません!」
そんな性格が好きと柳宿はクスッと笑った
「さてと。今日は豆注射やで!」
翼宿は柳宿の腕を掴んだ
「なっ・・・!」
柳宿の心臓がドクンと鳴った
「何や?お前何か熱くないか?」
「べっ・・・、別に・・・」
前も腕を触られたのに以前と感情が違う
翼宿に帰ってきてほしいと強く思うようになってから、彼を前より意識するようになったのだ
「ホンマか?熱でもあるんやないか?」
翼宿は自分のおでこと柳宿のおでこをくっつけた
「・・・・・!!」
柳宿はますます赤くなった
「やっぱりあるやないか!風邪でもひいたんか?」
「無い無い無い!!」
柳宿はフルフルと首を振った
翼宿は首を傾げたが構わず注射を打った

「・・・あいつ、前より素直になったなぁ」
助手の中井と休憩室で休んでいた翼宿はポツリとこぼした
「そりゃ、お前が帰ってきてくれたんだから前より素直になるさ」
中井は何もかも見透かしたようにニコニコと答えた
「そうなんか?せやけど、あいつ熱もあるみたいやったなぁ」
「鈍・・・」
「何か言ったか?」
「いや、何でも!」

2月14日
「翼宿医師!私の愛のチョコレート受け取ってください!」
朝から翼宿の周りに人だかりが出来ていた
看護婦やら患者やらがチョコレートを持っていた
「おおきに・・・」
得意の笑みでチョコレートをくれた人に笑顔を返す
「私の事忘れないでください!」
退院する人からもたくさんチョコを貰った
その背後でうらめしそうに見つめる中井
「いいなぁ。翼宿・・・。俺だって一個くらい・・・」
「あの・・・」
中井は声のする方に振り向いた
そこには美奈子が立っていた
「あれ。美奈子看護婦。翼宿の所に行かないんですか?」
「いえ。あの、これ・・・」
美奈子の手には赤いラッピングペーパーで包まれた箱
「え?」
中井が辺りをきょろきょろして最後に自分を指差した
「俺?」
美奈子は顔面真っ赤でコクンと頷いた

「ふぅ・・・」
バイタルチェックの器具を持ちながら310号室の扉を開けた
「お疲れ様・・・」
中では柳宿が待っていた
「何でや?」
「此処まで丸聞こえ。翼宿医師!受け取って!って。モテモテだね・・・」
「何言うてんねん・・・」
謙遜するように翼宿はバイタルチェックを始めた
一通りバイタルチェックを済ませた翼宿が部屋を出ようとした時
「ねぇ!」
「あ?」
「これ・・・」
柳宿が一つの小さな綺麗にラッピングされた箱を渡した
「何や?これ・・・」
「だから!翼宿がさっき貰ってた物!きっといっぱい貰うだろうと思って小さい物にしたんだけど・・・」
柳宿は翼宿を見ないように手渡した
「・・・おおきに。お前には貰えるとは思ってなかった・・・」
翼宿はまだ信じられないような顔つきで箱を見た
「手紙入れたから読んでね!」
柳宿はさりげに念押しした

夜勤の合間に翼宿は柳宿から貰った箱から手紙を取り出した

「翼宿

何かあんたに手紙書くの照れくさいけど、今まで本当に有難う

あたしね 今まで本当に翼宿に素直になれない自分が嫌いだった

翼宿が本当にあたしのために頑張ってくれてた事知らなかったし

でもあんたは医者としてすごく優秀だね

あたしと医学部にいた頃も頭よかったもんね

色々な患者さんや看護婦さんから信頼されて

いいなぁ あたしもそんな看護婦になりたい

退院したらあたしに医療の勉強も教えてください

そしていつか二人で仕事したいです

これからも宜しくお願いします

柳宿」

そこまで読み終えて翼宿はフッと笑った

翌朝
目を覚ました柳宿の横に一通の手紙があった
そこには短く一言
「チョコうまかったで」
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