LOVE HOSPITAL

「最近、どう?」
「有難う。大分前より落ち着いたみたい・・・」
「そう?あなたすぐ無理するんだから気をつけてよ・・・?」
「心配しないでよ!鳳綺!」
310号室の中で談話しているのは患者柳宿とお見舞いに来ていた親友鳳綺だ
「でも医学部で一緒だった方に担当されるなんて安心じゃない?」
「う~ん・・・。でもこの命をあいつに預けてるわけになるのよね・・・」
「何?信用できないの?」
「そんなわけじゃないわよ!ただ・・・、ちょっと照れくさくて・・・」
柳宿は少しうつむいた
「柳宿?あなた、まさか・・・」
鳳綺が尋ねようとしたその時
「柳宿!!お前注射受けなかったやろ!?」
突然翼宿医師が現れた
「何よ!さっき行ったわよ!まだあるの!?」
「嘘つけ!さっきカルテに名前なかったで!」
その言葉に柳宿は舌をペロッと出した
「・・・だって、注射嫌いなんだもの・・・」
「何言うてんねん!それで治りたいなんて言うのは受けてからにしろ!」
そう怒鳴ると翼宿は柳宿の腕を捲り上げた
「行くで!」
そう言うと翼宿は懐から注射を取り出した
「嫌ぁぁぁっ!!注射嫌い~~~~!!」
「何言うてんねん!豆注射やで!?お前、成人やろ!?」
「鳳綺~~~~!!」
翼宿に押さえつけられてジタバタする柳宿を見て鳳綺は一言
「そんな訳ないか・・・」

「ふ~っ・・・。全く!あいつはお子様やないのに注射一本でジタバタと・・・」
やっと注射を終えた翼宿はため息をつきながら事務室の扉を開けた
「おぉ!翼宿!今日も苦戦してるな!」
中では助手の中井が待ってましたと椅子から立ち上がった
「ホンマ勘弁してほしいわ。あいつのわがままっぷりには・・・」
翼宿も椅子に腰掛ける
そして机の上に広げてあった数々の専門書に目を落とした
「でも、そんなわがまま患者さんのためにお前、昨日から徹夜で勉強してるじゃないか。」
「そりゃ、ガンが見つかったんや。調べない訳にはいかんやろ?」
「でも、お前この頃夜勤ばっかりだろ?たまには休まないとお前の体も・・・」
「大丈夫やて!俺、タフやから!」
翼宿はそう言うとニッと八重歯を剥き出しにして笑った
その様子を陰で見ていたナースチーム
「諸君!翼宿医師はかなりお疲れの様子よ!!ここは私達の白衣の天使のような優しいケアが必要よ!!」
「そうですわね!リーダー!」
「よし!翼宿医師治癒作戦開始!!」
「おぉ!!」

「翼宿医師!お疲れのようですね!これ、コーヒーです!」
「翼宿医師!肩おもみいたしますわ!\t」
「翼宿医師!これ、私の作った体によく効く蜂蜜レモンティーですvvv」
ナースは患者などほったらかしで翼宿に精を尽くした
「もう!皆さん!担当の患者さんの所へ行ってあげてください!翼宿も忙しいんですから!」
助手の中井はひがみか呆れかナースに怒鳴りつけた
「すみません~~~~~」
ナースチームはしぶしぶ退散した
「・・・何や知らんけどみんなはりきっとるなぁ・・・」
横で鈍感な翼宿が一言
しかし翼宿の顔色は異常に悪くときたま激しく咳き込んでいた事には、誰も気付いていなかった

「翼宿!すまねぇがこれ、医務室の川田さんに届けてきてくれないか?」
先輩医師の香取が翼宿に書類を渡した
「はい!分かりました・・・」
体調とは裏腹な態度で翼宿は応対した
廊下を歩いていく翼宿
が、その時
急に頭がグラグラした
そして翼宿はその場に倒れた
「翼宿医師!?」
側を歩いていた看護婦が翼宿に駆け寄った
翼宿は気を失っている
「先生!!」
看護婦は通りかかった医師を呼んだ

「!?」
その時柳宿は読んでいた雑誌から顔をあげた
「何・・・?」
何かを柳宿は感じ取ったようだ

十分後
「中井先生!どうだったの!?」
ナースステーションに顔を出した中井にナースチームが駆け寄った
「・・・過労による貧血だよ・・・。翼宿、この頃柳宿さんのために無茶しすぎた・・・」
看護婦は無理もないという風に首を振った
「一週間入院させるとドクターから報告があった・・・」
「それじゃ、柳宿さんの担当は・・・!?」
「僕がやるよ。これ以上翼宿に苦労かけられないし・・・」
「・・・柳宿さんには誰が・・・?」
「・・・自信ないけど、僕に任せて・・・」

コンコン
310号室の扉をノックする音がし、中井が入ってきた
「初めまして・・・。翼宿医師の助手の中井です・・・」
「どうも・・・」
「実は、君に報告があって・・・」
「翼宿に何かあったんですか!?」
言う前に柳宿が尋ねた
「えぇ・・・。大した事ないんだけどね、さっき、翼宿が倒れたんだ・・・」
「・・・!?」
「過労だって、ドクターが言ってた・・・」
「そんな・・・」
「という事で、一週間翼宿医師は入院する事になったので、代理として僕が君の看病をする事になります・・・」
「・・・宜しくお願いします・・・」
翼宿がわがままだと言っていた柳宿だったが思ったより素直だ
「・・・あの!」
「何ですか?」
「私のせいでしょうか・・・?この前も夜遅くナースコールしちゃったり、今日も注射嫌ってわがまま言っちゃって・・・」
柳宿が申し訳なさそうにうつむいた
「違うよ・・・。翼宿は君のために色々勉強したり研究してきたから少し疲れがたまっただけさ・・・。君のせいじゃないよ。この頃君のために夜勤の申し込みも毎日してたしね・・・」
「あたしのために・・・?」
「翼宿医師はベテランなんだ。だから君は幸せだよ。でも今のままでは知識は不十分らしくて君の事治すために一生懸命頑張ってる・・・」
翼宿が自分のために
そんな事考えた事もなかった
柳宿の胸がきゅうんと熱くなった
「じゃ、何かあったらナースコールで!」
「待ってください!・・・あの・・・、翼宿、入院してるんですよね?会わせていただけないでしょうか?」
「え?」
「だって・・・、お礼が言いたいんです・・・」
中井はあっけにとられていたが静かに微笑むと
「いいよ。ただし、一回きりだからね」
と、部屋番号を教えた

「ここか・・・」
女性の病棟と男性の病棟はかなり離れていた
柳宿は中井に支えられながらも此処にたどり着いた
ドアをそっと開けてみる
翼宿が眠っていた
そっと中に入った
側に近寄ると涙が自然に溢れた
(そっか・・・。こいつ、あたしがどんなにわがままでもあたしのために頑張ってくれたんだね・・・)
そんな気持ちがこみ上げてきた
すると
翼宿が目を覚ました
「柳宿・・・?」
「翼宿・・・」
「あれ?俺、何やっとんねん・・・」
「倒れたのよ!此処まで運ばれて・・・。入院だって・・・」
「さよか・・・。すまんな。柳宿。担当なのに・・・」
「そんな事・・・!あたしこそごめんね・・・。中井先生から聞いた。あたしのために頑張ってくれてたんだね・・・」
柳宿の瞳から涙が溢れた
「有難う・・・」
静かにお礼を告げた
すると
「せやかて、約束したやん」
「え?」
「絶対治すって・・・」
小さく微笑んだ翼宿が当たり前のようにそう答えた
「翼宿・・・」
「早くよくなるから。心配すんな・・・」
「うん・・・」
翼宿の指が柳宿の涙を掬い取った
「あのね・・・。退院までこれ、持っててほしいの!翼宿があたしの所へ戻ってきてくれるって約束に!」
そう言うと柳宿は懐から取り出したパンダの鈴を翼宿の手に握らせた
「さよか・・・。ほな。俺のも持ってけ・・・。車のキーに付いてるの一個だけ・・・」
翼宿は机の上のキーを促した
「分かった・・・」
柳宿はキーに付いていた鈴を一個取った
しかしその姿を見ていた看護婦の怒りがついに最高潮に達していた・・・

一週間後
「これから無理しないで仕事するんですよ・・・。翼宿先生・・・」
「はい・・・。有難う御座いました。」
翼宿は白衣を着ると医者に頭を下げた
そして部屋を出ると看護婦の美奈子が翼宿を呼び止めた
「翼宿医師!」
「あぁ。すまんかったな。色々迷惑かけて・・・」
「いえ・・・。あの・・・、翼宿医師!・・・もう・・・、柳宿さんの担当なんて辞めてください!!」
「・・・何言うとるんや・・・」
「だって、貴方のお体に害を与えるなんて幾ら患者でも許せません!」
「・・・心配せんでえぇって。美奈子看護婦・・・」
「それとも・・・、何か訳でもあるんですか・・・?」
美奈子の目が座った
「私、この前の夜見たんです!翼宿医師と柳宿さんが抱き合ってた所・・・」
「・・・・」
「ただの同じ医学部仲間なのにどうしてあそこまでする必要があるんですか!?」
「美奈子看護婦・・・、俺はそんなわけじゃ・・・」
「医者は患者に感情を持ってはいけません・・・。もしもあの子と何もないのなら、あの子の担当から外れてください!!」
翼宿は黙ってうつむいていたが
「・・・分かった・・・」
顔をあげた
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