LOVE HOSPITAL

プルルルルル・・・
今日もいつものようにけたたましい呼び出し音が病棟内を騒がせた
「おい!翼宿!出ろ!」
先輩医師の命令でまだ若手の医師が一人受話器を取った
「どうなされましたか?」
「あの!友人が大変なんです!いきなり苦しみだして・・・」
コチラも若い女性の声だった
「落ち着いてください。脈は激しいですか?」
「・・・はい!かなり速いです!」
「でわ今から救急車を出動させますのでそのまま動かさないで。その方のお名前と住所は?」
「柳宿です!住所は・・・」
「柳宿・・・?」
「あの・・・?何か・・・」
「いえ、続けてください」
しばらくして受話器を置いた翼宿は
「急性の発作の患者が出たようです!直ちに手術の準備を!」
と、指導した
病棟内の医師は一斉に立ち上がった

「柳宿!もう大丈夫だからね!しっかり!」
しばらくして到着した救急車からは先ほど連絡をしたらしき女性と、ベッドで苦しそうに息をする女性が出てきた
見ると二人とも面影がそっくりだ
「お医者さん!柳宿を助けてください!!あの子は私の唯一の親友なんです!」
「分かりました。全力を尽くします」
しがみついてきた女性に力強く頷くと翼宿はベッドへ近寄った
「紅南市の柳宿さん。24歳です」
その顔を見て翼宿は信じられないような顔つきになった
「やっぱりな・・・」
「は?」
「何でもあらへんです!はよう運んでください!!」
救急隊員に呼びかけると翼宿は病院内に駆け込んだ

手術中のランプが消えた
中から翼宿が出てきた
外で待っていた女性はすぐさま駆け寄った
「先生・・・」
「一命はとりとめました。発作もおさまっています・・・」
「よかったぁ・・・」
女性はその場にへたり込んだ
「ただ再発の恐れがありますので一ヶ月入院させます。あの・・・、貴方は柳宿さんの妹さんではないのですか?」
「いえ、顔は似てると言われますが違います。あの子の両親は幼少の頃亡くなって・・・」
「そうでしたか・・・」
「でも私に出来る事があれば私に言ってください!」
「分かりました。とりあえず病室に運びます・・・」

「ん・・・」
柳宿が瞳を開けたそこは病室だった
点滴を用意する医師の後姿がぼんやり見える
「お。気ぃついたか。柳宿はん」
そこで柳宿はガバと飛び起きた
「た・・・、翼宿ぃ!?」
「病院内ではお静かに」
「何であんたが・・・」
「何言うとんねん!医師免許とったんや!!」
二人は大学時代に医学部で知り合った仲だった
同じ医療系の仕事を目指す者同士共に闘争心を燃やしていた
「持病の発作があんのに看護婦目指してたんやったっけなぁ。お前は」
「そんなのあんたに関係ないでしょ!?」
「関係大有りや!何やねん!親友の鳳綺はんが、お前の事助けてくれって泣きついてきよったんやで!」
「そう・・・。鳳綺が・・・」
いつも大人しい鳳綺が自分のために必死になっていたのだと分かり、柳宿は申し訳なさそうにうつむいた
「そんな訳でまた再発するといけないから1ヶ月入院してもらうで!担当医は俺や!」
「えぇっ!?何で!?」
「何でやあらへん!お前と知り合い言うたら院長に任されたんや!」
「・・・だって、医学部で一緒だったあんたに看病してもらうなんて・・・」
少し柳宿の頬が紅潮した
「ま、今日はもう消灯やから寝なさい!何かあったらナースコールで呼べや!」
「勝手に決めないでよ!あたしは女の担当医がいいんだから!誰か交替させてよ!!」
いつものわがままぶりに翼宿はため息をついた
「アホ!みんな忙しいんや!!命惜しかったら俺の言う事聞け!!」
そう言うと翼宿は病室から出て行った

「全く!あんなわがまま患者は俺は苦手や!!」
「翼宿!早速の患者に早くも降参か?ま、あの子も幸せだよ。こんなベテラン医師に担当になってもらえるとは・・・」
「止めてくださいよ・・・」
そう。翼宿はこれでも病院内で数々の難病を解決してきたベテラン医師なのだ
次期院長の希望の星でもある
「せやけど、こいつ難病なんですよ・・・。発作ももう五年間くらい続いて症状も悪化してきてるし」
「そうだよなぁ。こんなレントゲンも初めてだ」
「これは俺にも治せるかどうか・・・。今はわがまま言うほど元気やけどな・・・」
その時ナースコールが鳴った
「どうしました?」
「大変です!翼宿医師!!今巡回に回ったら渡辺さんが泡吹いて・・・」
巡回に回っていた看護婦の声だった
「すぐに行くんで動かさないように!」
翼宿はナースコールを切ると相棒の医師に合図を出した

タタタタタタ
廊下の騒々しい足音に柳宿は目を覚ました
何事かと病室の扉を少し開けると患者に呼びかけながら走る翼宿の姿が見えた
「大丈夫ですよ!すぐに治りますから・・・」
そのいつもと違う翼宿に導かれるようにこっそり翼宿の後を追った

手術室の前で息をひそめて数十分後・・・
手術中のランプが消えた
柳宿はハッと側の壁に身を隠した
手術室の扉が開いた
そこには優しい翼宿の顔とゆったりした患者の顔
「よかったですね!渡辺さん!!翼宿医師が治してくれましたよ!」
側にいた看護婦が患者に呼びかけた
「ありがとう・・・。先生・・・」
「いえ、手術に耐えた渡辺さんの根性のお陰ですよ・・・」
そう言って微笑む翼宿に柳宿はドキッとなった
すると翼宿は柳宿に気づいた
「柳宿・・・!じゃ、俺はこれで!!」
(やばっ・・・)
こちらへ駆けてくる翼宿
「柳宿!何やっとんねん!こんな所で!」
「ごめん・・・。あんたが走っていったから気になって・・・」
「こんな場所にいたら風邪ひくやないか!」
「・・・あのね、翼宿・・・」
「ん?」
「ごめんね。さっき交替してくれなんて言って・・・。見直したよ。あんた一流じゃん。あたし、あんたがいいな。担当医・・・」
顔を真っ赤にして柳宿は翼宿を上目遣いに見た
しばらくポカンとしていた翼宿はニッと笑うと
「ほなら明日から健康プラン鍛えなあかんな!」
と、答えた

これが二人の波乱万丈な病院生活の始まりになる事は言うまでもない
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