TEACHER×STUDENT

「翼宿先生!!」
「ふぁい?」
居眠りしかけて呼びかけられて、目を覚ますとそこには呆れて自分を見下ろす同じ理科の教員の猿山
「あぁ!猿山先生、如何したんですか?」
「如何したもこうしたも今は明日の実験の予行演習でしょう?居眠りしていては爆発しますよ!」
「あぁ、すんません!」
呑気な若手教師にまたもや呆れる
「先生、この頃何してるんですか?昨日もいきなり学校を抜け出して・・・」
「まぁ、軽い運動ですかねぇ。俺、この頃体鈍っちゃって・・・」
はははと笑い返す
「まさか、その若さを利用して生徒と不順異性交遊なんぞしていないでしょうな?」
猿山の眼鏡の奥がキラリと光った
「はぁ?」
「言っておきますが今、テレビ等でそういう恋愛は流行っているようですが、本校ではそんな事許しませんよ。教師からそういう流行を流さないように!!」
「・・・判ってますよ・・・」
今度は翼宿が呆れる
そういう事を口に出す者こそ、実は一番危なかったりするのだから・・・

部活も終わり、校門も閉まる午後七時頃
翼宿は最後の実験を終え、器具の片付けをしていた
すると側のカーテンに人の気配を感じた
そっと覗きこむとそこには、紫の月明かりに照らされて綺麗に輝く髪
一瞬撫でてみたくなると思ったほど綺麗な・・・
向こうも気づいた
「何だ。まだ居たの?」
「それはこっちの台詞や。もう下校時刻はとっくに過ぎとるやん・・・」
「別に良いじゃない・・・」
「何かあったんか?」
「別に。只、家に帰りたくないだけ・・・」
「あかん。それは只の甘えやで」
「・・・猿山とかに言われてない?」
「何が?」
「昨日の事とかばれてない?」
「あぁ。全然大丈夫やて」
「あたし、あんたとそういう噂になるのだけはごめんだから軽く喋ったりしないでよ・・・」
相変わらず硬派で突き通す
素直じゃないな
昨日はあんなにのびのびしてたのに
まぁ良いか
「とにかく今日は家に帰れ!この頃変質者も出とるみたいやからな・・・」
「一回襲われてみたいわよ」
「おい。何言うて・・・」

「こんな自分、一回くらいめちゃめちゃにして欲しい・・・」

その一言に硬直した
「何てね、冗談よ。じゃ、また明日。タスキセンセイ」
感情も込めずにさらりと言うと柳宿は理科室を出た
「おい・・・、気ぃつけろよ・・・」
胸騒ぎがした
どうか無事で

柳宿の家に着くまでは細い人通りの少ない路地を通らなければいけない
久々に通る暗闇の路地
以前は部活帰りもこんなに暗かったが、あの時は友達が居てくれた
温かい素敵な友達が・・・
少し吹いた北風に体を震わせる
その時
「ねぇ、何してるの?」
いきなり暗闇から声をかけられた
横を向くといつの間にか自分の横にぴったりと寄り添うように、長髪の嫌らしい雰囲気の男性が立っていた
「・・・別に何も・・・」
こいつだ
変質者
すぐに睨みつけて先へ進もうとした
「暇ならさ、俺と遊ばない?」
その後をまたもぴったり着く様に着いてくる
「暇じゃないわよ・・・。少なくともあんたよりはね・・・」
それでも平静を保つ
本当は怖くて仕方なかったけど
「君可愛いねぇ。こんな場所一人で歩くのは危ないよ・・・。僕が何処か面白い場所に連れて行ってやるよ・・・」
「結構です」
嫌気がして少し力強く断る
すると相手も痺れを切らしたのか、乱暴に柳宿の後姿に襲い掛かった
「嫌・・・っ・・・!止めて!!」
鞄が落ちる
男の手が自分の胸と脚を求めてさまよった
暴れるが男の腕の中
どうにもならない
「・・・お兄さんが面白い事教えてやるよ・・・」
耳元で吐息がする
怖くて目を瞑った
ゆっくりと制服の緩み目に男の手が侵入する

助けて

「ぐっ・・・!」
鈍い音の後に悲鳴
自分の腰を抑えつけていた手の力が緩んだ
振り向くとそこには
「触るな・・・」
来てくれた

「俺の生徒に手出すんやない!!」

白衣の騎士

「ちっ!」
男は舌打ちすると暗闇の向こう側へと去っていった
柳宿は、脱力したようにその場に座り込む
「・・・アホ!!せやから言ったやろ!!」
翼宿は、息を切らしていた
「如何して此処に・・・?」
「あれから心配になってお前の通学路調べて追いかけたんや!」
そんな
もし翼宿が来てくれなかったら、あたしあのまま
涙が零れ落ちた
「・・・ご・・・、ごめんなさい・・・」
「柳宿・・・」
翼宿はそっとしゃがみ込むと、触れたかった綺麗な髪の毛ごと柳宿を抱きしめた
「・・・・!」
「自分の事もっと好きになれ・・・。簡単にめちゃくちゃにして欲しいとか言うな・・・。そうしないと明るい事も楽しい事もみんな逃げてまう・・・」
「・・・・」

「俺は好きやから・・・。お前みたいな奴・・・」

好き

その言葉に意味が無い事は判っていた
でも嬉しくて嬉しくて、頷いた

「有難う・・・、翼宿・・・」

あれ?
名前呼んだの初めてだ
他人の名前呼んだの何年ぶりだろう?
心のブレーキが緩んだ
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