TEACHER×STUDENT

「・・・クラブに通ってた頃に関西弁の男に出会ったの。聡史って奴でね。あたしはそいつにどんどん引き込まれていって交際する様になったのよ・・・」
窓枠に寄りかかって二人窓の外を見つめながら少しずつ柳宿は過去を打ち明けていった
「それで?」
「最初はすごく良い奴だったわ・・・。笑顔が素敵で優しくて誠実で・・・。でも就職していくに連れてあいつはどんどん変わっていって・・・」
「・・・うん」
言葉が小刻みに震えだす
「妊娠・・・したの・・・」
「!?」
「でも、中絶した・・・」
「・・・柳宿」
「・・・あたしだって堕ろしたくなかった・・・。でも、あんな奴に好き勝手されてそれで出来た子供なんて・・・」
いきなり涙が溢れた
「・・・さよか・・・・・・すまんな。辛い事話させてしもたな・・・」
あやすように背中をそっと叩く
「だから・・・、正直あんたと居るのは辛かった・・・。どうしても重ねてしまって・・・」
「そら、そうや・・・」
「ごめんね・・・。要らないとか言ったりばらしたりして・・・」
「えぇて。気にしてへん・・・」
「それで、あたしはそいつの元から逃げ出したの。クラブにも行かなくなった・・・」
「・・・何も言わずにか・・・?」
「そう・・・。だから時々怖いの・・・。一人で居る時、あいつが帰ってくると思うと・・・」
「・・・よし!」
「・・・何?」
「バスケしよう!」
「・・・は?」
「・・・そんな恐怖も忘れるくらい、ぱーっと好きなバスケすれば少しは気持ちも晴れるでv」
いきなり笑顔で言われて柳宿は呆気にとられた
「・・・でも・・・」
「俺の家の近くに体育館有るんや。そこなら誰も来ぇへんやろ?」
「・・・・」
「少し現実から逃げ出してみ?そしたら少し考え方も変わるから・・・」
「・・・うん・・・」
「ほな、行こか?」

「部活の時思い出してバンバンシュート打ってえぇで!」
運動着を着て二人は体育館のバスケコートに立った
「・・・あんた出来るの?」
「何言うてんねん!これでも陸上一位や!運動神経ならえぇで!」
そう胸を張ると翼宿は準備運動を始めた
そんな翼宿の後姿を見つめて気づかれないようにふっと微笑んだ
「ほな、俺とお前の一対一の勝負や!フリースロー対決で先に一本とった方が勝ち!スタートはお前からでえぇで~♪」
ボールを投げてよこされてそれを少し見つめると、柳宿の目の色が変わった
その色に少し戸惑ったが、翼宿はよし来いと言うように構えた
ピーッ
翼宿が吹いたホイッスルで二人が同時に地を蹴った
翼宿の防御を必死に交わしながら、柳宿はドリブルでボールをどうにか自分の物にしていた
(・・・何こいつ・・・!何て無駄の無い動き・・・!こんな守備、部活時代も無かったわ・・・)
(やるやないか・・・!さてはこいつ結構バスケでもえぇ役におったな・・・!)
お互いがお互いを褒め合って、お互いを睨み合う
その瞬間
タンッ
柳宿の小さな体が翼宿の腕の下を掻い潜り
バスッ
ダンクシュートを決めた
ピーーーーッ
試合終了
翼宿が振り向いたその先には、息を切らしながら呆然と立ち尽くしてゴールを見上げる柳宿の姿が有った

「ほれ」
自販機から購入した飲料の一本を柳宿に手渡す
「・・・有難う」
「・・・にしても、お前やるなぁ!結構上手い役に居たやろ?ん?」
隣でからかう様にどつく
「・・・現役時代は部活命だったからね・・・。あたし・・・」
「そんなもんなんやなぁ・・・」
「でも、あんただってすごかったじゃない。体力の差も有るけど無駄の無い動きで・・・」
「何や?俺の事認める気になったか?」
その言葉に柳宿はハッと気づくと立ち上がった
「別に・・・」
「せやせや!元気出てきたやないか!」
横目で見るとそこには満足そうに笑う翼宿
その目を外の野球部の自主練風景に戻した
「・・・今日は色々有難うね・・・」
「ん?」
「あんた・・・のお陰よ・・・。立ち直れたのも・・・」
そんな柳宿に並んで翼宿も野球部の練習に目を向けた
「・・・また来いよ」
「・・・え?」
「寂しくなったら・・・」
そんな優しい事言われたら、別れたくなくなっちゃうじゃない
このままずっと一緒に居たくなるじゃない・・・
胸が締め付けられて、柳宿は俯いた
手を
そっと翼宿の大きな手に重ねた
その行動に少し相手は驚いたかもしれない
顔は見えなかったから判らないけれど、すぐにまた握り返してくれた
強くて優しくて温かかった

暗闇にほんの少し光が射したよ
それは、多分貴方の太陽
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