TEACHER×STUDENT

校長室
「翼宿先生!あれ程言ったでしょう?あなたの経歴は絶対に生徒に漏らしてはいけないと・・・」
「すんません・・・」
校長は呆れた顔して椅子から立ち上がった
「とにかく、今日の話は何かの間違いだと各教師から言って貰うけど、金輪際また何か有ったら貴方のクビも決定ですよ?」
「はい・・・」
校長室の扉を開ける
「失礼しました・・・」
扉を閉める
そこでため息
やっぱりまだ彼女は心を閉ざしているのだ
こんな事になってもこだわるのはいつもあいつの事だった

放課後
バスケ部の自主練習をベンチに座りながらぼーっと見ていた翼宿
ボールが転がってきた
拾ってやって部員に手渡す
「先生。何だか元気無いですよ?今朝のあれなんて気にしないでくださいよ!あたし達何時でも先生の味方ですから!」
「おおきに・・・」
生徒は心が広くて優しいな
あいつだってこういう心持ってないはず無いのに
その時
ふと気配を感じて振り返った
そこには帰り際なのか鞄を持った柳宿が部活の練習を寂しそうに見ていた
「・・・柳宿」
その瞳には今朝の冷たさは消えていた
何故か孤独と寂しさの入り混じった今までに見た事の無かった瞳だった
そんな柳宿に翼宿はこれっぽっちも怖さなど感じていなかった
そっと近づいて頭をごついた
「痛っ・・・」
集中していたらしく気配すら気づかなかったようだ
「よ」
「なっ・・・、何よあんた・・・!クビになったんじゃないの!?」
「残念ながら」
「信じられない・・・。あんな事書かれて何で普通にしてられるのよ?」
「せやかて俺がお前に話した事なんやし、真実なんやからな・・・」
「・・・・」
こいつは何処か人間の感性が抜け落ちているのか
落ち込むとか傷つくとかそういう感情は無いのか
「・・・何であんな事したん?」
「決まってるでしょ?あんたなんかこんな学校に要らないからよ・・・。人の事小馬鹿にして過去無理矢理聞き出そうとして・・・」
「・・・バスケ部楽しそうやな」
「え?」
「今そういう目で見てたやん」
「ちょっ・・・。人の話聞きなさいよ」
「何か関係有るんか?バスケ部と・・・」
「・・・だからあんたには関係ないでしょ・・・」
呆れて物も言えずに立ち去ろうとした腕を掴まれた
「何よ?また誑かす気?」
「・・・昨日の事は謝るわ・・・。せやけど、約束したよな?」
「・・・何の事だか・・・」
「お前にどんなに貶されても構わん。せやけど俺は約束を破る奴だけは許せん・・・」
真剣な瞳に圧倒されてたじろいた
「此処で話しにくいなら理科室来るか?」
「・・・判ったわよ」
「逃げるなよ」
「判ったって言ってるでしょ?」
「よし!」
満足そうに微笑んだ翼宿をまるで柳宿はおかしな物を見るような顔つきで見ていた

「・・・あたしだって最初は普通の女子高生だったわよ・・・。普通に勉強して、普通にバスケして・・・」
「何でバスケ辞めたんや?」
「・・・あんたと同じ運命かしらね・・・」
「俺と?」
「あたしも毎日つまらなくなってね・・・。何か面白い事無いかなって。それで知人にクラブ誘われて・・・」
「・・・・」
「そこでバイトしてて、それで先コーに見つかって停学処分受けて留年してるのよ・・・」
「・・・お前」
「それからあたしは一つ下の子達と過ごす日は自分にフィルターをかける様にしたの・・・。もうこれ以上自分と関わる人間を作って深入りされない様にしたのよ・・・」
「・・・なるほどな・・・」
「これで良いでしょ?もう約束は守ったわよ・・・。これ以上あたしに関わらないでよね・・・」
「待て」
「何・・・?」
「もう一つ。お前が関西弁の奴に反応すんのは何でや?」
「そんな事あんたに・・・」
「関西弁やから言いにくいか?せやけど此処まで来たらもうえぇやろ?」
「・・・・」
「全部話してしまえ。お前も疲れるやろ?」

最初はこいつなんかウザいと思ってた
他人のプライバシーに干渉して、どんな痛い事されても平気な顔して
だけど心のどこかでこいつが羨ましかった
憎らしいくらい羨ましくて
そんな奴があたしを求めてる・・・?

本当は一人で泣いた夜もあった
辛くて寂しくてでも誰にも言えなくて、何度も死のうとしたこともあった
こんなに自分のことを知りたがってくれる人なんかいなかった
いるのはいつも上辺だけで身体にしか興味がない男ばかり

誰も信じない

そう思ってたのに

「・・・あたしの事・・・変だと思わないの・・・?」
「思わへん」
「生意気な癖にこんな過去持ってるのに・・・?」
「ああ」
「これ以上関わりたくないって思わないの・・・?」
「うん」

馬鹿
馬鹿じゃないの
だけど、こんな馬鹿に癒されてるあたしももっと馬鹿だ

柳宿が暫く口を噤んでいた時、翼宿の手が柳宿の頬に触れた
鼓動が鳴った
「すまん。無理に話さんでもええ。同情とかそんなんちゃうから。ただ、もう放っとけへんねん」
固い表情が少しずつ解けていく
本当は求めていたこんな存在
「あたし泣いちゃうよ・・・」
「えぇで・・・」
「でも・・・」
「二人の秘密や・・・」
「何でよ?あんたの事あたしがばらしたのに・・・」
「関係あらへんやろ・・・。お前がしたから俺もするんか?」
「・・・あんたって・・・」
その言葉に彼の優しさを感じた
「・・・柳宿?」
柳宿の頬には涙が伝い落ちている
「・・・何でよ?あんた、可笑しいよ・・・。こんな可笑しい先コーなんて居ないわよ・・・。あたしが馬鹿みたいじゃない・・・。だって・・・、だって・・・」
「・・・可笑しくてもえぇやろ?これが俺の生き方なんやから・・・」

俺の生き方
こんな先コー、否こんな男初めてだ
私の生き方なんて、真っ暗だった
でもこいつは確実に前向きに進む生き方なのだ

震える肩に大きく逞しい手が置かれた

「・・・お前の事・・・、助けるから・・・」

顔をあげて真っ直ぐに翼宿を見上げる
彼の瞳には限りない決意に満ちていた
信じたい
こいつを

「・・・助けて・・・」

その一言に翼宿は笑顔で頷いた

この少女を暗闇から救えるか
それにはきっともっと時間が掛かるだろう
でも君をきっと救うよ
護るよ
絶対に
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