TEACHER×STUDENT

朱雀港の第三倉庫
人通りの多い路地を抜けて、幾つかひっそり建っている倉庫の一番真ん中
その倉庫の前で聡史は煙草に火をつけながら俗に言うヤンキー座りで居た
約束の時間まで後五分
珍しく時間遅れする聡史も今回は開始十分前に集合という下らない規則に従っていた
何故なら、今日が彼女と会う最後の日だと悟っていたから
ジャリジャリ
車椅子の音が近づいてくるのを悟って、聡史は吸いかけの煙草を地面に押し付けて消して立ち上がった
暗闇の向こうから自分よりも二十センチは低い小柄な制服姿が見えた
否、座っていたのでもう十センチは低いだろう
その面持ちは怒りで煮えたぎっていた
「おう」
何事も無かったかの様に軽く声をかける
その一声に車椅子は大分相手との間をとって止まった
「何やねん。お前から俺を呼び出すなんて」
「・・・・」
「しかも決着をつけるて・・・何の事や?」
「何の事って・・・?」
持っていた鞄をいきなり聡史に投げつけた
「とぼけないでよ!!あんたは・・・あんたは・・・翼宿を・・・!!」
鞄が聡史の体からゆっくりと落ちた
見えた彼女の顔は涙で濡れていた
その顔を見てせせら笑った
「翼宿・・・?もしかしてあのオレンジ野郎か?あいつとお前がデキてたとはなぁ。知らなかった」
「・・・・」
「教師やってるんやって?何か自分の立場考えずに俺に口答えしたからなぁ一発かましてやったんや」
「あんた・・・」
「何発殴っても反撃もしてこんとなぁ。教師のプライドって奴かぁ?俺はそういう奴が一番嫌いなんや!!」
煙草を踏み潰した
「お前もそんな奴に騙される様になったとは。阿呆になったもんやなぁ。昔は色気ムンムン出してこの俺を引っ掛けて初夜も簡単に過ごせた癖して・・・」
あの悪夢が蘇る
「・・・めて・・・」
「あの頃のお前は美味かったなぁ。もう一回体験してみたいくらい・・・」
「やめて!!」
その言葉に聡史が眉を持ち上げた
「あたしは・・・そんな事を聞きに此処へ来たんじゃ無いわ・・・。あんたが・・・あんたが憎いから・・・だからもう会いたくなかったけど此処まで来たのよ・・・。あんたは最低よ。女を渡り歩いて純潔奪って欲望満たしてそれで何人の女が泣いてきたか・・・分かってるの!?」
聡史はそんな事知るかという態度でそっぽを向いている
「あたしだって・・・あの頃は馬鹿だった・・・馬鹿なあんたに騙されて・・・簡単に体を預けたりして・・・。でも今は違う・・・。あたしはあんたに復讐だって出来るわ!!」
聡史は顔をすっと上げた

「翼宿が・・・あたしを変えてくれたから・・・」

唇を噛んでいる柳宿
「あんたと会って邪道に落ちたあたしをあの人が救ってくれたのよ!!」
「あんだと?」
「だから・・・」
携帯電話を取り出した
画面を相手に向けて
「あんたとはもうおさらば・・・」
「獄城聡史」の電話帳を開いた
メニューボタンを押して「削除」項目を選択した
「・・・バイバイ・・・」
「決定」
「削除しました」のメッセージ
これでバイバイ
怖くて怖くて中々消せなかった電話帳も、あいつの存在もこれで帳消し

車椅子の背を相手に向けてこぎ出した
途端に聡史が柳宿に飛び掛り車椅子からその体を持ち上げた
「聡史!?」
相手は何も言わずに自分をそのまま運んだ
「ちょっと・・・!放して!!」
倉庫の扉を開けて中に入って鍵を閉めた
「さ・・・」
もう目に見えていた
相手は自分を乱暴に積み上げられた袋の山に投げ落とした
そしてすぐさま自分の上に圧し掛かった
「誰がそんな簡単に諦めるかよ・・・」
間近に迫った怖い顔
「さっきはあぁ言ったけど顔面は前より綺麗になったんやで」
髪の毛を撫でられる動作にびくつく
「あのオレンジ野郎のお陰か?」
「・・・っ」
顔が瞬時に赤くなった
「あんな奴の方が俺より良いってか!?」
即答できなかった
それより恐怖が後をついたから
「俺のお陰で人生が変わったのか?そりゃえぇ事や。また変えてやろうか?」
もう懲り懲りだ
「もっと綺麗にしてやるさかい」
制服を破られた
「やさしゅうするよって。大人しくせぇや」
声が出ない
助けて
その一言も出せない
側では削除画面が出たままの携帯電話が開いたまま落ちていた

地獄の番人に命を預けた様な天国の女神
助けて
この身が朽ち果てたら貴方に会えなくなる
あぁ神様お願いします
私の願い

もう一度、あの人に会いたい・・・
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