TEACHER×STUDENT

「先生・・・!どういう事ですか!?」
「・・・・・」
「柳宿は足が動かないだけでは無いのですか!?」
両親が一斉に医師に詰め寄った
医師も苦痛な表情だった
「・・・娘さんはどうやら精神的打撃を受けた様です・・・」
「精神的打撃・・・?」
「多分事故の前に彼女の心理状態が不安定な状態だった事が言えます・・・」
その言葉に後ろで聞いていた翼宿がハッとした
「そんな・・・。柳宿はそんな事は私達には一言も・・・」
「言えなかったんだよ・・・」
呂候が横で呟いた
「柳宿は強い子だよ・・・自分の中で何でも解決しようとする子だ・・・」
「これから娘さんには最善のケアを心がけます・・・。まだ記憶が戻らない可能性が0になったとは言いきれませんから・・・」
母親は突っ伏して泣き出した
でも、今一番泣き出したいのは翼宿の方だった

病室で両親が柳宿に着いてあげてる時、翼宿と呂候は待合室に居た
「俺のせいやな・・・。俺があいつを一人にさせてもうたから・・・」
「違いますよ。先生・・・。誰も貴方を責めません・・・」
呂候が優しく声を掛けた
「これからも貴方の助けが必要になるでしょう・・・」
「・・・・」
「妹を頼みます・・・」
兄に頭を下げられた
呂候だって冷静だけど、本当は誰よりも可愛い妹が心配な筈だ
静かに頷いた

「柳宿・・・」
病室に入る
親は翼宿に頭を下げて、出て行った
「翼宿・・・先生・・・」
ぼそっと囁かれた名前
「・・・良かったな。助かって・・・」
「何だかみんな心配してるみたいですね・・・」
本当に柳宿は別人の様だった
「私・・・、何が有ったんですか・・・?左足も痛いんです・・・」
「お前は事故に逢ったんや・・・。その時の事覚えとらんか?」
その言葉に柳宿は静かに首を振った
「さよか・・・」
「思い出そうとしても頭が痛くなって・・・」
「えぇ・・・。無理に思い出さんでも・・・。今日はもう眠れ・・・。色々疲れたやろ・・・?」
「はい・・・」
寝台に寝かされた
額を撫でられた

「・・・あったかい・・・」

「え・・・?」
「何だかすごく懐かしいんです・・・」
「・・・・」
まさか、柳宿は事故の直前に自分の事を思ったのだろうか
そう感じた時には、柳宿はもう眠りに堕ちていた

翌朝
柳宿に一晩中付きっ切りだった翼宿の肩に手が置かれた
「・・・呂候はん・・・」
「お早う御座います。まさか今までずっと・・・?」
「あぁ、放っとけなくってな・・・」
「あまり、無理しないでくださいね・・・。それより学校は・・・?」
「良いです・・・。柳宿がこうなったのも俺のせいなんですから・・・」
「先生・・・」
その時柳宿が目を覚ました
「はよ」
笑顔で返す
「お腹空きました・・・」
「よっしゃ!待っとけ!!今から食堂に行って食いモン脅し盗りしてきたる!!」
「先生!?それやばいんじゃ・・・」
呂候が唖然とした
そんな光景に柳宿もくすっと笑った
その微笑が、翼宿は哀しかった

その夜
翼宿は売店で柳宿の小腹に合う食べ物を探す為に病室を抜け出していた
柳宿はぐっすり眠っていたから大丈夫だろうと思いながら
病室に一袋分の食べ物を抱えながら翼宿は病室の前によろよろと戻ってきた
その時
中から啜り泣きが聞こえた
翼宿はすぐさまドアを開けた
そこには小さくなって震えている柳宿の姿が有った
「柳宿!?」
駆け寄ると涙でシーツがぐっしょり濡れていた
「どないした!?どっか痛いんか?」
「怖い夢・・・、見た・・・」
途切れ途切れに答える
「夢・・・?」
「車に追いかけられる夢・・・」
そこで翼宿はハッとした
もしかして、事故の恐怖が柳宿の記憶を閉じ込めているのではないか
そのせいで柳宿はどんどん事故の恐怖を思い出す事を躊躇していっているのではないかと
翼宿は黙って自分の胸に柳宿を抱き寄せた
「先生・・・?」
「安心せぇ・・・。先生が側に居てやる・・・」
「・・・有難う御座います・・・」

その温もりは、柳宿そのものだった
この温もりだけは変わらない
絶対に

お前の事見捨てへんから
一生護ってくから

例え君が、僕を永久に思い出さなくても
16/23ページ
スキ