TEACHER×STUDENT

「ハァハァハァ・・・」
翼宿は壁に寄りかかりながら走り続けていた
腹から流れる大量の血を抑えながら
「柳宿・・・!!」
あの後鬼澤に刺された翼宿は、鬼澤の気を失わせて花火大会の会場の手前まで辿り着いた

横断歩道
たくさんの人ごみが出来ている
事故だろうか
目を凝らして見る
そこには、求めていた紫髪
「・・・!!!」
そのまま腹の痛みも忘れて、駆け出した
人ごみを掻き分けて
「柳宿!!!」
すぐに抱き起こした
全身血まみれ
足が特に酷かった
「すみません・・・。急いでいたもので・・・」
後ろで柳宿を撥ねたと思われる男性が半泣きしていた
「救急車は・・・!?」
「それが・・・、この渋滞で・・・、中々到着しないんです・・・!」
「それよりあんた・・・。腹が血まみれ・・・」
そこで翼宿は有りっ丈の体力で柳宿を抱えた
「俺が連れて行きます・・・」
「無理だよ!あんただって血が・・・!!」
「平気です・・・。こいつの痛みに比べれば・・・」
陸上部で鍛えた筋肉をなめるな
翼宿は駆け出した
その背後では花火大会の花火が上がり始めていた

『手術中』
翼宿は既に医師の手当てを受けていたので、幸い命は助かった
しかし柳宿は・・・?
「お兄ちゃん!!」
花憐が到着した
「何で無茶するのよ!!あんな人の為に!!」
「・・・・」
「もう止めよう!?あんな人の為にお兄ちゃんが危ない真似する必要無いよ・・・!!」

「・・・止めるのはお前の方やないのか・・・?」

そこで花憐はびくっと竦んだ
「俺の戸籍には・・・、お前の名前なんぞ無い・・・。俺の本当の妹の名前は玲麗や・・・。今、隣町で暮らしとる・・・お前何者や・・・?」
「・・・何だ。ばれたの・・・」
「何でこないな事・・・」
「決まってるじゃない・・・!その昔あんた達暴走族に苛められたあの女の子があたしだもの・・・!!」
花憐の目の色が変わった
「あんたに復讐する為に近づいたの・・・!あんたの愛する人奪ってあんたを利用したかったのよ・・・!!あたしをその昔苛めた奴が今度は生徒を助ける教師!?笑わせないでよ!!」
翼宿は言葉を失った
「あの時の屈辱あたしは忘れない・・・!絶対にあんたを呪ってやる・・・!!」
花憐はそう言い残すと廊下の向こうへ去っていった
翼宿は頭がおかしくなりそうだった

「・・・柳宿!!」
それと入れ違いに柳宿の両親とその兄が到着した
「先生!何故柳宿を助けてくださらなかったんですか!?」
母親は逆上していた
「落ち着きなさい・・・。先生はこの傷で柳宿を運んでくれたんだ・・・。感謝しないか・・・」
父親が後から宥める
そこに自分と同い年くらいの柳宿の兄が進み出た
「翼宿先生だね・・・。兄の呂候です。いつも柳宿がお世話になってます。」
礼儀正しくお辞儀をされた

「・・・柳宿は貴方の事を愛していたんだね・・・」

その言葉に両親は仰天した
「僕もいつも聞かされてたよ・・・。いきなり変わった妹が貴方の事ばかり僕に話してくれた・・・」
「・・・・」
「貴方に出会ってから柳宿は変わったよ・・・。有難う・・・」
「俺は別に何も・・・」
「目が覚めたら君が一番に会ってあげてほしい・・・」
「・・・・」
「それを妹も望んでいるよ・・・」
そこに医師が出てきた
「先生!柳宿は・・・!?」
すぐに両親が飛びついた
「出血多量でしたが命に別状は有りませんでした・・・」
その言葉に母親がその場に座り込んだ
「只・・・」
「只?」
「足が・・・」
そこで翼宿はびくっとなった

「娘さんの左足は・・・、もう動きません・・・」

その場が凍りついた
「そんな・・・」
「ご家族の励ましが大事です。今から病室に運びます・・・」
ガラガラと寝台が出てきた
そこには穏やかに眠る柳宿の姿
翼宿は胸が締め付けられた


それから二日
柳宿は眠り続けた
両親がずっと着いていた
もちろん翼宿も
友達や後輩も代わる代わるお見舞いにやってきていた

そしてついに柳宿が目を覚ましていたのを母親が見つけた
「柳宿!!」
母親がすがりついた
「柳宿!大丈夫!?」
「・・・・・」
「分かる!?お母さんよ!?」
「・・・・・」
開かれた唇からはとんでもない言葉が出た

「先生!」
売店に寄っていた翼宿に母親が声を張り上げた
「どうしましたか?」
「柳宿が・・・、柳宿が・・・!」
母親の瞳には涙が溢れている
「目覚めたんですか?」
「はい・・・。でも・・・」
翼宿はその後の言葉に絶句した

病室に駆け込む
そこには医師から診断を受けている柳宿の姿
医師も顔を歪めている
父親と兄は俯いていた
「柳・・・宿・・・?」
声をかけた
虚ろな瞳で此方を向く
「柳宿・・・。先生・・・よ・・・」
母親がそっと呼びかける
しばらく黙っていた柳宿
唇がゆっくりと動いた

「アナタハダレ・・・?」

柳宿は、この街から姿を消しました
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