TEACHER×STUDENT

『この泥棒猫!!お兄ちゃんをとらないでよ!』

放課後下駄箱へとぼとぼ向かっていた柳宿
今朝の花憐の声が頭から離れない
確かに妹としては生徒と兄が交際してるなんて不安よねぇ・・・
納得せざるを得なかった
でも自分は如何すれば良いか分からなかった
下駄箱から靴を取り出すと同時に手紙が落ちた
それを拾って広げてみるとそこには可愛らしい文字
「柳宿先輩。今日バスケ部の練習是非見に来てくださいvバスケ部後輩一同」
その文面を読んで柳宿はくすりと笑った
良いや
後から考えよう
そんな考えが到来した

体育館からドリブルの音が聞こえてきた
入口へ向かった柳宿はふと入口の隅で蹲っていた後輩に目が留まった
彼女は確かバスケ部の後輩の彰子
いつも明るくて元気な女の子だ
柳宿が所属していた時一年生だった子
「・・・如何したの?彰子ちゃん・・・」
声を掛けると彰子は涙でぐっしょり濡れた顔をあげた
「柳宿先輩・・・」
その瞳には驚きの表情が有った
「何か有ったの?」
しゃがみ込んでハンカチを渡す
「・・・有難う御座います・・・。私・・・、もうバスケ続ける自信が無いんです・・・」
「如何して?」
「バスケの試合の時にミスばっかりして仲間に迷惑掛けて・・・、みんな何も言わないんですけど視線が冷たくて・・・。こんなチームプレイ、私にはもう出来なくて・・・」
突っ伏して泣き始めた彰子の髪を優しく撫ぜた
「そう・・・。彰子ちゃん、今不調なんだ・・・」
「柳宿先輩は羨ましいです・・・。何時もチームの人達と協力し合って華麗なプレイをしていて・・・」
「あたしだって不調な時代幾らでも有ったわよ・・・。只、中学時代からやってたから高校ではちょっとばかし出来ただけよ・・・」
「柳宿先輩が・・・?」
「そうよ。人間誰でも不調な時期は有るわ。それは時期は人それぞれだから・・・だけど他人の時期になっても周りは案外気づいてくれないのよね・・・でも、負けちゃ駄目よ・・・。貴女はこれから絶対伸びる・・・。そんな時期に悩むからこそ未来の貴女が有るのよ・・・」
「・・・・」
「みんなの所行ってごらん・・・。みんなそんなに気にしてない筈よ・・・。だって私が育てた後輩だもの。そんな事する子なんて居ないわ・・・」
「先輩・・・っ・・・!」
彰子が抱きついてきた
そんな可愛い後輩の頭をまた撫でた
貴女にはあたしと違って明るい未来があるんだから、頑張りなさい
そう言い聞かせる様に・・・

彰子を有る程度宥めた後で柳宿は体育館へ入った
そこには見覚えの有る長い髪の毛を一つに束ねた女とプレイしている後輩が目に入ってきた
その女は軽やかな足取りであっという間にダンクシュートを決めた
「花憐先輩すごいです~v」
「先輩にももう少し早くバスケ部入ってもらえたらなぁ・・・」
後輩の雄たけびがあがる
そんな後輩に笑顔を振りまく花憐の姿に柳宿は仰天した
「花憐ちゃん・・・」
思わず名前を呼びかけられたその先に花憐は視線を向けた
「あら、柳宿さん・・・。今朝はごめんなさいね・・・。そういえば貴女此処の部長だったんですって?」
「・・・・」
「あ!柳宿先輩だ!」
皆笑顔を柳宿に向ける
その様子をちらと見届けると花憐は名案を思いついた

「柳宿さん・・・。貴女と是非お手合わせしたいわ・・・」

「え・・・?」
「勝敗をつけましょう・・・。ちなみに私は貴女方朱雀学園を倒した青龍学園バスケ部部長なの・・・。貴女の事は正直プレイの時に見ていたわ・・・」
花憐がゆっくりと近づいて柳宿の真横で止まった
「もしも私が負けたらお兄ちゃんに二度と近づかないわ・・・。でも貴女が負けたら二度とお兄ちゃんには近づかないで・・・」
「・・・・!」
息が止まりそうだった
「逃げないわよね・・・?」
汗が頬を伝う
「えぇ・・・」
返事をした

「翼宿先生!」
「わわっ!何や!?今井!」
「今体育館で花憐vs柳宿フリースロー対決やってるんすよ!先生も見に来てくださいよ!!」
「・・・何やて!?」
翼宿は駆け出した
嫌な予感がしていた

バンバンバン
先程から体育館で熱戦が繰り広げられていた
ボールが柳宿の手に吸い付いている
後輩や野次馬は両方の応援をしていた
どちらも一歩も引かないといった試合だった
ゴールまでは後数メートルも無い
もう少しだ
その時
「柳宿!花憐!止めぇ!!」
翼宿が駆け込んできた
それに一瞬気をとられた柳宿
その時花憐の口元がにやけた
そして、思い切り柳宿の膝を蹴った

バキッ

緊張していた骨は脆い音を立てた
「・・・・!!」
柳宿はその場に蹲った
骨が折れた
周りの人物誰もが感づいた
強烈な痛みだった
左足が震えている
「柳宿先輩!!」
彰子が駆けつけてきた
「柳宿!」
翼宿も駆けつけたが花憐が制した

「貴女の負けね・・・。柳宿さん・・・」

「・・・・」
「約束は守ってもらうわよ・・・」
そこで翼宿を仰ぎ見た
彼は肩で息をしながら心配そうに此方を見下ろしていた
「先輩!とにかく保健室に・・・」
他の後輩も連れ立って柳宿は肩を貸されてよろよろと立ち上がった
翼宿の横を通り過ぎても、柳宿は何の反応も示さなかった

何時だって自分は、真っ暗な未来しか歩まない
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