TEACHER×STUDENT

「柳宿さん・・・。一体如何したの・・・?」
あれから保健室に連れて行かれた柳宿
精神的ショックによる行動だと教師や生徒は判断したのだ
「・・・確かに翼宿先生を愛していたのは分かるわ・・・。でも今回彼が犯した行動は償わなければならない事なの・・・。それは分かるわよね・・・?」
首を横に振った
まるで小さな子供の様に
「何が有ったの・・・?」
「違うんです・・・」
「え?」
「違うんです!あたしが・・・、あたしが鬼澤にセクハラを受けてそれで翼宿が私を庇って助けてくれただけなんです!だから・・・」
衝撃の事実に桑島は呆気にとられた
「本当なの・・・?」
「嘘であたしがこんな事言うと思いますか!?それを翼宿は自分の責任にして・・・、それで・・・」
涙を必死に拭った
「先生!お願いします!校長に言って翼宿をこの学園に戻す様に言ってください!!」
「・・・・・」
「彼は・・・、あたしを変えてくれました!こんな何の価値も無いあたしを変えようと頑張ってくれました!何時も側に居てくれてそれだけで安心できた存在なんです!!」
柳宿は桑島に頭を下げた
桑島の動揺ぶりは半端ではなかった
「でもね・・・。柳宿さん・・・。私が言ったところで如何しようも・・・」
ほら、やっぱりね
自分の立場を護りたいんでしょ
先生だって、生徒の為だとか言って結局は
「・・・分かりました。もう良いです・・・」
柳宿は椅子から立ち上がると頭を下げた
「柳宿さんっ・・・」
ドアをピシャリと閉められた
桑島だって本当は自分でもどうして良いか分からなかった
柳宿が信じられない訳でも無かった
でも本当に如何しようも無かったのだ
「・・・私も最悪な教師ね・・・」
ドアに向かって呟いた

外は豪雨
雨の中傘もささずに街を歩いた
道行くカップルで溢れかえる渋谷
その時
フッと見えた橙色の頭
「!?」
人ごみを掻き分けて走った
「翼宿!」
腕を咄嗟に掴んだ
しかし振り向いたのは、知らない男
相手は変な顔をした
人違い
「・・・すみません・・・」
すぐに腕を離して俯いた
鞄から携帯を取り出す
そっと番号をプッシュする
前に教えてもらった携帯番号
受話器の向こうで虚しく響く着信音
『・・・おかけになった電話番号は現在使われておりません・・・』
きっと、番号を変えたんだろう
繋がりを無くす為に
携帯の電源を切る
「・・・嘘つき・・・」
瞳から涙が零れ落ちた
離れないって言ったじゃない
もう二度と
あの瞬間抱きしめあった温もりがまだ残っている
雨の中自分の身体を抱きしめた
「あんたは馬鹿だよ・・・」
人ごみの中蹲る
道行く人々が自分を見下ろして去っていく

「あたしはもうあんたが居なきゃ駄目なのよ!!」

小さく見えた彼の後姿
切なくて悲しくて
こんな事になるなら、伝えておけば良かったよ
誰も頼れない自己主義な大人達
あんただけが自分の道を歩いていたよ
着いていきたかったよ
でももう遅いね・・・

そこで柳宿の意識は途絶えた


バシャバシャ
雨脚は一層激しさを増す
翼宿は市役所で転任手続きを済ませてきた
今朝の柳宿の叫びが頭を過ぎる
その度に頭痛が走る
(俺かてお前と離れたくないんや・・・。せやけど・・・)
その時だった
紫色の髪の毛が向こうで見えた
「・・・?」
雨が激しくて一瞬しか見えなかった
もう一度目を凝らして見ると、確かに見えた
豪雨の中横たわっている
自分の生徒
「柳宿!?」
翼宿は走った
幸いに周りに人は余り居なかった
駆け寄って抱き起こした
「柳宿!しっかりせぇ!!」
揺さぶってみた
柳宿の瞳からは涙の痕が点々とついていた
そして
「・・・翼・・・宿・・・」
呟いた
寝言だった
「・・・行かないで・・・。あたしを置いて・・・、嫌だよ・・・」
魘されていた
たまらなくなって
抱きしめた
「・・・すまん・・・!すまんな・・・!柳宿・・・!」
自分が転任したら、こいつがこんなに悲しむ事分からなかった筈無いのに一人で逃げようとした
こいつから
こんなに健気に自分を思ってくれている女が居るのにそれを見捨ててしまった
「もう・・・、一人にせんから・・・」
そう呟くと、柳宿を背負って自分の家路についた

温かいベッドの中、柳宿は静かに目を覚ました
目の前には、一番求めていたあの人
「・・・柳宿!!」
まだうっすら目を開けていたので分からなかった
「・・・大丈夫か!?」
求めていた顔
求めていた声
求めていた・・・
「翼宿・・・?」
名前を呼んだ途端涙がまた溢れた
「たす・・・きっ・・・」
翼宿に抱きついて、しゃくりあげる様に泣いた
「馬鹿・・・!如何して・・・、如何して・・・!?」
「柳宿・・・。俺な・・・、校長に県外教師処分言い渡されたんや・・・。それでお前と離れてまう事になって・・・」
その真実に柳宿は顔を上げた
「・・・そんな・・・!如何して・・・!?如何してそこまで・・・!?」
「俺っちゅう存在をあの学園から完全に消し去りたかったんやろな・・・」
「・・・・・」
「元々若手やし、生意気やったんやろ。これを機会に俺をあの学園から追い出せたって訳や・・・」
「酷い・・・」
翼宿に出会うまで教師の素晴らしさなどあの学園で微塵も感じることはなかった
結局みんな「いい先生」を演じたくて教師をやっている癖に・・・
「・・・あんたが行くんならあたしも行く・・・!」
柳宿の瞳は決意で満ち溢れていた
「え・・・?」
「離れたくない・・・!あんたと・・・!」
「柳宿・・・!」
「・・・あんたの生き方を見てあたしは変わった・・・!あんたのそのひたむきな生き方に憧れてて・・・。自分の道進むあんたがすごく眩しくて・・・!」
「・・・・・」
「あたし・・・」
もう離れたくないから
もう二度と後姿は見たくないから、全て伝えます
貴方に・・・

「あんたの事・・・好き・・・」

何となく生きてきたあたしの生まれて初めての告白
「愛してる・・・」
柳宿は翼宿にまた抱きついた
翼宿はしばらくしてから柳宿をきつく抱きしめ返した
「・・・先に言うなや・・・阿呆・・・」
翼宿の声も震えていた
「二人で歩こう・・・」
柳宿の一言に翼宿はゆっくり柳宿を解放した
微笑んだ柳宿
二人、接吻に溺れた

私は先生に恋をしました
俺は生徒を愛しました
禁断の愛の門が開かれる・・・
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