ENDLESS STORY

聖夏に別れを告げ、翼宿と美朱は首都へと馬を進めていた
「・・・さてと。残りの五人。誰の元へ先に行くかやなぁ・・・」
「みんなと一気に合流したいけど単独行動は出来ないしね・・・」
「一番見つけにくいんが・・・井宿やなぁ。あいつ流浪の旅人やから」
「それなら大丈夫よ!!あたしが前念じた時もぽんって出て来てくれたじゃない!!」
「そら・・・そやけども・・・」
唯一の生き残り七星士として翼宿も井宿が一番心配な様だ
「そんなに心配なら呼んでみる?きっと出てくるよ!!」
「あかんあかん!!馬に三人も乗られたらたまらんわ!!あいつは強いし街に着いてから呼んでも大丈夫やろ」
「・・・そうだね」
本当は一番心配な癖にそんな素直じゃない翼宿に笑みが漏れた
「となると・・・残りは生まれ変わりチームだよねぇ。その四人についてはこの玉を見なきゃどうしようもないんだけど」
美朱はまだ四人の生まれ変わりを見ていなかった
「・・・あのな・・・美朱・・・俺・・・」
翼宿が急に口ごもった
「・・・何?」
「柳宿んトコ・・・行けへんやろか・・・?」
「へ???」
「べっ別に深い意味はないで!?只あいつが星宿様の生まれ変わりと上手く行っとるかを拝みに行くだけや!!あいつ女に生まれ変わって今も星宿様の生まれ変わりにぞっこんなんや。全く懲りない奴やなぁ。それで星宿様の居場所もあいつが知っとるから一石二鳥やろ!?」
「うっうん・・・」
美朱は戸惑いながらも女の勘を働かせた
(あ~まさか翼宿・・・)
また笑みが漏れた
「確か柳宿の家はどっかの服屋やったと思たけど・・・」


「さぁさ!!た~んとお食べ!可愛い坊や!!」
玲春の母親はかつて魏達が来た時とは大違いの態度で光を出迎えた
「こんなに可愛い坊やを拾ってくるなんてさすがは我が愛娘だね!!」
「何言ってんのよママ~★」
光はこんなに派手にお持て成しをして貰った事がなかったので少々戸惑っていた
玲春はそんな光を見てにっこり笑った
「早く食べなよ!!うちのママは料理の腕は世界一なんだから!!」
玲春はスープをれんげで掬うと光に差し出した
「はい。あ~~~ん」
光は顔を赤くした
「いっいいよ。一人で食べれるよ・・・」
「だ~め。あんた放っておくと全然食べないでしょっ!」
光は仕方なく口を開けた
「・・・美味しい!!」
スープは感動するほど美味しかった
少なくとも自分の母親はこんなに美味しいスープなど作ってはくれなかった・・・
「本当!?さすがママ!!初対面の子の口にも合っちゃったよ!!」
「あははっ。何を言ってるんだい。こんなもの母さんの手にかかればお手の物よっ♪」
和やかな食卓に光の胸はちくんと痛んだ

今ごろ母親は何処で何を・・・?
無事に七星士を救えただろうか
まさか自分も敵の生贄になってしまってはいないだろうか

そんな雰囲気を察した玲春の母親は声をかけた
「・・・しかしこんな国にそんな珍しい格好で何の用なんだい?」
「えっ・・・」
「確か数年前にも来たねぇ。珍しい格好をした若い青年がこの子を訪ねに・・・」
「!!」
父親だと勘付いた
「いやねぇ。初対面の君に話すのも何だがね。この子は昔この紅南国の危機を救った朱雀七星士の生まれ変わりなんだよ!!」
「朱雀・・・七星士・・・!?」
「もぉ~~~ママ~あたしそんなんじゃないって・・・」
そこで光は驚いた
まさかこんな所で探していた朱雀七星士の生まれ変わりに出会えるとは
「その七星士の名前は何て言うんですか!?」
「さぁね~~~何だったっけねぇ~?ユリコじゃないしグリコじゃないし・・・」

ヌリコ

光は母が写真立てを見て時折呟く名前の中にその名前があった事を思い出した
「柳宿!!柳宿ですか!?」
「あぁ!!そうそう!!柳宿!!凄いねぇ。坊や!!どうして知ってるんだい?」
そこで光は迷った
いきなり自分が朱雀七星士を探していると口に出したら追い出されるかもしれない
かなり可愛がられているお嬢さんの様だし
「でもどうして玲春ちゃんはその事知らないんですか・・・?」
「・・・この子は生憎その記憶がないんだよねぇ。一時期記憶が戻ったって話は聞いてるんだけどそれからは何とも・・・でもねぇこの子の能力は凄いんだよ!!」
玲春はその言葉を聞くとぴょんと椅子から下りて側に積み重ねてあった椅子を軽々と持ち上げた
光は目を丸くした
「へへへっ♪どうよ!?あたしのこのパワー!!ご先祖様なんだか知らないけど凄い力を与えて貰ったよねあたし!!」
玲春は得意げに笑う

間違いない
彼女は「柳宿」だ
しかし彼女は記憶を無くしている
初対面の自分に出来る事なんて・・・

「ねぇね!!光!!お外行こうよお外!!」
玲春は椅子をガラガラと元に戻すと光の手を引いて外へ出た
「ちょ・・・ちょっとぉ・・・」
考える術も無く光は連れ出されてしまった


「まじかよ・・・それ・・・」
「信じられない・・・まさかまた・・・」
「美朱はまた四神天地書へ入ったっていうのか・・・?魏・・・」
魏は黙って頷いた
あれから魏は奎介、唯、哲也という当事者を家に集めて全ての事情を話した
奎介は悔しそうに拳を机に叩きつけた
「何なんだよ!?俺達は何回あの本に振り回されれば気が済むんだよ!?永遠に終わらないっていうのかよ!?」
「奎介・・・落ち着けよ・・・」
「落ち着けるかよ!!妹を何度も本に奪われた兄の苦しみがお前らには分かるか・・・?」
「誰も分からないなんて言ってない・・・だけど今更嘆いたってどうしようもないじゃないか・・・」
唯は黙っていたが口を開いた
「魏・・・あたし達に出来る事はないの・・・?だってあの子・・・今回は自ら巻物の中へ入った・・・仲間を朱雀七星士を助ける為に・・・あたしだって幾度となく彼らにお世話になったわ・・・その上光君まで巻物に入っちゃったなんて幾ら何でも放っておけない・・・」
「・・・そうだよな」
こうしている間にも巻物の中ではいつどんな事が起こるか分からない
巻物には今光が丁度玲春と出会った場面が書き出されている
美朱は翼宿、光は柳宿の生まれ変わり玲春に遭遇したが、無事に二人を引き合わせられるだろうか
「そうだ・・・!!媒介・・・」
哲也の閃きに皆が同時に勘付いた
「そうよ!!あたし達何だかんだ言っていつも媒介に助けられたじゃない!!魏!!美朱との媒介は・・・!?」
「・・・指輪!!指輪がある!!」
「それだよ!!何だ最初から言ってくれよぉ・・・」
奎介は光が射した様にぱっと明るくなった
「よし・・・そうと決まれば・・・」
その時だった

ピシャアバリバリ・・・
 
「きゃあああ!!」
落雷だった
しかもその落雷は不思議なもので、部屋の中に直接落ちそれは指輪へと激突したのだ
魏自身に痛みはなかったが
それよりも衝撃的な光景が目の前に広がった

パァン

指輪が割れたのだ
「・・・なっ・・・」
その場にいた者全員が息を呑んだ
「どういう事だ・・・?」
魏がうめいたその時

『我の邪魔はさせない・・・』

低く押し殺した声が聞こえた
「誰だ!?」
振り向いたが誰もいなかった
「魏!!あれ!!」
唯が指差した暗雲の空には真っ黒な大きな顔が浮かんでいた
『宿南魏・・・お前には絶対に邪魔はさせぬ・・・巫女が本の中に入った以上此方の者は部外者・・・観客は黙って物語の完結を待っていればいいのだ・・・』
「・・・もしかしてお前が・・・」
『朱雀七星士が一鬼宿・・・全てを終えたら貴様も殺す・・・』
この事件の主謀者だった
「待て!!やめろ!!俺の仲間には光には美朱には手を出すな!!」
その言葉が届いたかどうか分からぬ内に顔は一筋の稲妻と共に消えた
魏は壁に拳を叩きつけた
「ちくしょぉ・・・」
無能な救世主に残された道は物語の完結を黙って待っているしかないのだ
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