柚子ドロップス

風呂場で、両親の体を丁寧に洗う玲春
「母さん・・・父さん・・・。こんな目に遭わせてごめんね」
そんな言葉を何度も呟きながら
「玲・・・春・・・?」
その時、母親が目を覚ました
「母さん!平気?体、何ともない?」
「大丈夫だよ。一体何があったんだか・・・」
「何も思い出さなくていいの。ちょっとしたトラブルでね・・・」
「何で、お前が泣いているんだい?」
「な、何でもないわよ・・・これくらい!」
「・・・・・・・・・・翼宿さんはどこだい?」
「え・・・彼なら表の泉で・・・」
「行ってやりなさい」
「え・・・?」
「もう母さんは大丈夫。自分の事は自分でやるさ」
「母さん・・・」
「何があったか分からないけど、わたし達はお前と翼宿さんに助けられたんだね?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「命の恩人の元へ行ってやりなさい。母さん達は、お前の帰りをいつまでも待ってるからね?」
「ありがとう・・・母さん」
母親はもう知っていた。自分の気持ちを全て
その言葉は、翼宿に初めて自分を任せてくれた言葉のようにも思えた

バシャバシャ
辺りは、もう真っ暗になっていた
自分達がこの村を出たのは夕方
もう、日はすっかり落ちていた
「翼宿・・・」
そこには、月明かりに照らされて湯浴みをしている翼宿の姿
彼の逞しい体つきを間近に見て、胸が高鳴った
「玲春?」
その言葉に、我に返る
「もう、親御さん達は大丈夫なんかいな?」
「うん・・・あんたのところ行ってやりなさいって。これで・・・体拭きなさいよ」
持っていた手ぬぐいを彼に渡す
「おおきに・・・」
「あ!何も見てない!今も見てないから!」
すぐに身を翻して、その場をやり過ごす
「ドアホ。今更恥ずかしがる年齢でもないわ」
「あたしは恥ずかしいの!早く服着てよ!」
「はいはい」
「・・・・・・・・・・これから、どうするの?」
「お前が狙われてる事が分かった以上、目立つ行動は出来へんなあ」
「あたしを祭り上げるって言ってたわよね・・・?あいつら」
「ったく・・・女を祭るなんぞ、趣味悪いわ!」
「翼宿・・・あたし、やっぱりあんたに着いてかない方がいいんじゃないの・・・?」
「ドアホ!そんな事知ってまで、お前を放っとける訳ないやろ!」
「でも・・・」
玲春の体が震えている
「こんな体じゃ・・・ただの足手まといよ・・・」
今は、少女の心、少女の体なのだ
「すまん・・・怖がらせるつもりは・・・」
「あんたのせいじゃないわよ・・・あたしが弱いだけ・・・」
その時、翼宿の両腕が自分を包み込んだ
「お前のせいやない・・・お前まだ17なんやで?」
「・・・・・・・・・・・・・」
湯上りの匂いが鼻をつき、更に鼓動が高鳴る
「翼宿・・・あたし」
「お前がまたこうなったら、いつでもこうしたるから・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「だから、俺に着いてこい」
護ってくれるの?
涙が溢れた
5/19ページ
スキ