柚子ドロップス

「何だって?翼宿さんに着いていく?」
玲春の母親は、すっとんきょうな声をあげた
「ごめんなさい。勝手な事言って・・・ここにいたら、母さん達に迷惑をかける事になるし」
「何言ってんだい!そんなの何とも思わないよ!それに、これからもっと危ない目にだって・・・」
「それは、大丈夫です」
翼宿が母親にそう告げる
「・・・そっか。あんたがいるんだったね」
「俺の旅にちょっと付き合わせるだけです。その間に西廊国も回るんで、主犯格の息の根必ず止めて帰しますよ」
「あたしがこの村に帰ってくる頃には、もう悪い刺客はやってこない筈だから」
「よろしく頼むよ・・・翼宿さん」

「俺の事・・・よう思ってないみたいやな。あんたの親御さん」
「ごめんね?あたしが七星である事は忘れていたいみたいだから」
「そら。そうや」
自分が生んだ娘が朱雀七星の生まれ変わりで、今もこうして狙われてしまうなんて
「まあ、安心せえ。すぐに済むよって」
すぐに済む。それは、今度こそ彼との別れを意味する言葉になる
終わってほしいような終わってほしくないような
「お前・・・もう17か?」
「そうだけど・・・」
「そろそろ、嫁入り時やなあ。最近は、娘の嫁入りも早くなってるから」
「何言ってるのよ・・・こんな時に」
「すまんな。こんな時に、俺がお前を攫うような真似して」
「あんたはどうなのよ?」
「俺?相変わらず、独り身や」
「好きとかそういう感情出てこないの?」
「まあ、俺は三枚目キャラや。気の向くままに生きるよって~」
少し緊張が解けたのか、昔の翼宿に戻ったようだ
あたしはずっとあんたの事を・・・

カァカァカァカァ

その時、烏の鳴き声が空中に響き渡った
「何や・・・?いきなり騒がしい」
その方角は、先ほど自分達が出た紫魂村に向かっている
「ねえ・・・まさか、村で何か?」
「は?せやかて、狙いはお前・・・」
玲春は、馬から飛び降りた
「おい、お前・・・!」
「見てくる!村が心配だわ・・・」
「ちょお待て!これは罠・・・」

「くくくく。やはり万能な反射神経だな。朱雀七星」

烏を操っていたと見られる黒い男は、枝の上でニタリと微笑んだ


向かうは、紫魂村
「母さん!父さん!」
家の中は、真っ黒
墨のようなものが、幾重にも塗られているようだった
その中に、同じく真っ黒で蹲っている玲春の母親と父親
「母さん!誰にやられたの!?」
「玲春・・・逃げて・・・」
「わたしの墨に塗られた者は、その生気を吸い取られいずれ朽ちる。それがわたしの能力だ」
突如、玲春の背後に現れた黒い男
「あんたは・・・!?」
「わたしは、西廊国使いの能力者・黒炎。どうぞお見知りおきを・・・朱雀の姫」
「どうして、あたしの両親を・・・!?」
「お前をおびき出すためさ。貴様の調べはついている。朱雀七星が一柳宿の転生した姿。しかし、その力はもはや時と共に薄れ、今は普通の女子も同然。西廊の繁栄のためその屍を捧げるには丁度よいと思ってね。そうして、そこから我々の紅南侵略計画は始まっていく。国を救った1人の七星を生贄にとってな」
自分は狙われている・・・そう悟った
「だからって・・・関係のない人たちまで・・・」
「お喋りはそこまでだ。大人しく死ね」
黒炎の手のひらから、墨が吹き出た
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