柚子ドロップス
「翼宿」
紫魂村の丘の上、もうじき沈む夕日を背に男女は歩いていた
自分よりも背の高い彼の背中に、少女は声をかける
「何やねん。さっきからずっと黙ってたのに、いきなり」
沈黙を破ったその声に、橙色の頭は振り向く
その面影は、10年前に見た彼よりもまた一層渋みを増しているようだった
「・・・どうして、あたしを助けたの?」
もう別れた筈のその横顔は、別れたその後もふいに頭を過ぎる事はあった
その度になぜか会いたいと思っていただけに、その姿に再会できて少し胸がときめく
「・・・別に。たまたま通りかかっただけや」
そんな冷たい一言に、また落ち込む
初めて会った時もそうだった
彼は、人一倍デリカシーがない
しかし、その分闘志に燃える心が彼にはあった
そんな姿は幼いながらもよく覚えていたものだ
「・・・・・・・・・・・・まあ、少し小耳に挟んでな」
「え?」
「西廊国が、この紅南国を侵略しようとしてるって噂を」
「侵略・・・!?」
「まあ、そうなったらこの国の人口は全滅。国として栄えるものも何もなくなって、国そのものがなくなってまう」
「そんな・・・」
「せやから、お前が心配になった。まずは女から・・・が、国の侵略のやり方やから」
「あたしの心配を・・・?」
「ま、勘違いすんなや。あんたの先祖をよう知ってるから、気になっただけのこっちゃ」
そうして、案の定奴らは玲春を狙ってきたのだ
一気に身震いがする。怖い
翼宿は、そんな玲春の異変に気付いた
「玲春・・・?」
「どうして・・・あたしがまた狙われなければいけないの?10年前もそうだった。どうして、あたしだけが・・・」
10年前。柳宿の記憶が戻る前、覚えているのは化け物に攫われた事だけ
自分がどうやって助かったかも覚えていない
だからこそ、自分を狙う目にはとても敏感になってしまった
「落ち着け。お前は何も悪くない」
翼宿が、低い声でそう言う
溢れそうな涙をぐっと抑えた
まだ、若干17歳だ
遊び盛りだし、それなりに恋もしたい
それは、若い頃に好き放題やってきていた翼宿にも痛いほど分かる気持ちだった
「それで・・・俺、このまま旅に出なあかん」
「え?」
「麗閣山もな。正直昔ほど活気がないんや。出稼ぎに出た奴もそのまま戻ってこおへんし。多分、軍人にでも身柄確保されてるんやろ。紅南のために働かない山賊は、邪険にされるだけやからな。そんで、国の信用取り戻すために先代が残した金貨の宝箱を開けよう思うてんねん。ただ、それを開くには鍵穴にはまる銀貨を貰ってこないけなくてな。紅南・倶東・西廊・北甲の宮殿にあるらしいんや。そこを回ってくるんが俺の目的」
「そうだったんだ・・・」
では、またすぐに彼は旅立ってしまう
紅南の危機を救おうと、彼はいつでも頑張っていた
だからこそ、自分に止める権利はない
今や何の能力も持たない玲春では・・・
「お前・・・俺と来ないか?」
「え・・・?」
予想もしていなかったその言葉
「どうして・・・?」
「心配や。俺の旅一緒に手伝ってくれたら、俺もお前を護れるから」
そうだ。自分が着いていけば、彼にも少なからず危険が及ぶだろう
先ほどの使徒に、自分の顔は把握されてしまったのだから
「・・・・・・・・・・・それとも、まだ俺に着いてくる程お前には根性ついてへんか?」
「行く」
あなたの役に立てるのなら
また再び引き寄せられたあなたとの出会いに感謝しているから
この気持ちは何なのか分からないけれど、もっとあなたの事を知りたいから
「行くから・・・あたし」
その眼差しは、かつての柳宿のもののように翼宿には思えた
紫魂村の丘の上、もうじき沈む夕日を背に男女は歩いていた
自分よりも背の高い彼の背中に、少女は声をかける
「何やねん。さっきからずっと黙ってたのに、いきなり」
沈黙を破ったその声に、橙色の頭は振り向く
その面影は、10年前に見た彼よりもまた一層渋みを増しているようだった
「・・・どうして、あたしを助けたの?」
もう別れた筈のその横顔は、別れたその後もふいに頭を過ぎる事はあった
その度になぜか会いたいと思っていただけに、その姿に再会できて少し胸がときめく
「・・・別に。たまたま通りかかっただけや」
そんな冷たい一言に、また落ち込む
初めて会った時もそうだった
彼は、人一倍デリカシーがない
しかし、その分闘志に燃える心が彼にはあった
そんな姿は幼いながらもよく覚えていたものだ
「・・・・・・・・・・・・まあ、少し小耳に挟んでな」
「え?」
「西廊国が、この紅南国を侵略しようとしてるって噂を」
「侵略・・・!?」
「まあ、そうなったらこの国の人口は全滅。国として栄えるものも何もなくなって、国そのものがなくなってまう」
「そんな・・・」
「せやから、お前が心配になった。まずは女から・・・が、国の侵略のやり方やから」
「あたしの心配を・・・?」
「ま、勘違いすんなや。あんたの先祖をよう知ってるから、気になっただけのこっちゃ」
そうして、案の定奴らは玲春を狙ってきたのだ
一気に身震いがする。怖い
翼宿は、そんな玲春の異変に気付いた
「玲春・・・?」
「どうして・・・あたしがまた狙われなければいけないの?10年前もそうだった。どうして、あたしだけが・・・」
10年前。柳宿の記憶が戻る前、覚えているのは化け物に攫われた事だけ
自分がどうやって助かったかも覚えていない
だからこそ、自分を狙う目にはとても敏感になってしまった
「落ち着け。お前は何も悪くない」
翼宿が、低い声でそう言う
溢れそうな涙をぐっと抑えた
まだ、若干17歳だ
遊び盛りだし、それなりに恋もしたい
それは、若い頃に好き放題やってきていた翼宿にも痛いほど分かる気持ちだった
「それで・・・俺、このまま旅に出なあかん」
「え?」
「麗閣山もな。正直昔ほど活気がないんや。出稼ぎに出た奴もそのまま戻ってこおへんし。多分、軍人にでも身柄確保されてるんやろ。紅南のために働かない山賊は、邪険にされるだけやからな。そんで、国の信用取り戻すために先代が残した金貨の宝箱を開けよう思うてんねん。ただ、それを開くには鍵穴にはまる銀貨を貰ってこないけなくてな。紅南・倶東・西廊・北甲の宮殿にあるらしいんや。そこを回ってくるんが俺の目的」
「そうだったんだ・・・」
では、またすぐに彼は旅立ってしまう
紅南の危機を救おうと、彼はいつでも頑張っていた
だからこそ、自分に止める権利はない
今や何の能力も持たない玲春では・・・
「お前・・・俺と来ないか?」
「え・・・?」
予想もしていなかったその言葉
「どうして・・・?」
「心配や。俺の旅一緒に手伝ってくれたら、俺もお前を護れるから」
そうだ。自分が着いていけば、彼にも少なからず危険が及ぶだろう
先ほどの使徒に、自分の顔は把握されてしまったのだから
「・・・・・・・・・・・それとも、まだ俺に着いてくる程お前には根性ついてへんか?」
「行く」
あなたの役に立てるのなら
また再び引き寄せられたあなたとの出会いに感謝しているから
この気持ちは何なのか分からないけれど、もっとあなたの事を知りたいから
「行くから・・・あたし」
その眼差しは、かつての柳宿のもののように翼宿には思えた