柚子ドロップス

「ほう・・・玲春に恋をしてしまったと申すのか?」
皇帝・雄孫が、黒炎をにらみつける
「感情移入とは情けない話ですが・・・しかし、彼女の心は深く傷付き次の襲撃の時には必ずや隙が出来る筈です・・・」
黒炎は、しどろもどろに答える
「西廊国への忠誠は、あるのか?」
「ええ・・・黒炎はこの命を懸けて西廊に忠誠を・・・」

ドスッ

途端に、黒炎の額に穴が開いた
「・・・・・・・・・・・・・・・・・小賢しい。下心で、我々の標的に近づきおって・・・」
最後の刺客・雄孫が静かに立ち上がった

「眠れたか・・・?」
「平気。銀貨は、残り一枚だもんね。頑張らないと」
翼宿は、馬の上から玲春に優しく手を差し伸べる
もうすっかり元の玲春に戻ったようだ
「まあ・・・お前が隣で笑ってくれてれば、俺は何でもええんやけどな」
「何か言った?」
「いや・・・何でも」
馬は、静かに西廊への道を歩き出す

「あれは・・・誰だ?」
「おい。あれって、玲春・・・皇帝の標的では?」
西廊への門を入っていく馬を、2人の門番は見逃さなかった

「気をつけろよ。玲春・・・この国が、今までで一番危ない国なんやからな」
「分かってるわ。もう離れない・・・」
西廊国宮殿前に、2人は到着した
「まあ・・・いかなる喧嘩も買う覚悟で、銀貨はいただくで」
「翼宿様。玲春様?」
突然、2人の侍女が声をかける
翼宿は、すぐさま玲春を後ろに回す
「何や・・・貴様ら。いつから気付いてた?」
「そんな怖い顔をしないでくださいまし・・・実は朗報がありまして、一刻も早くお2人にお知らせしたくこうして、お迎えにあがったまででございます」
「何やて・・・?」
翼宿の眉が、動く
「実は今まで数々の無礼をしてきた皇帝が、先日の戦で逝去されたんです。それ以来、我々の上には新しい皇帝が即位して紅南の侵略の件を白紙にしてくださったんですよ」
「え・・・それは、本当ですか?」
「それなら、黒炎はどうなってるんや?」
「黒炎・・・?そのような名は知りませんが」
「そういえば、我々の侵略に便乗した術師がうろついていたという事は聞いたことがありますが、我々とはもう無関係なのですよ。それよりも、皇帝が無礼を詫びて玲春様にお召し物をお贈りしたいと仰っているんです。我々と共に、玲春様。皇帝内に、いらっしゃいな」
「何言うてんねん!そんな嘘に騙されるかい!」
「翼宿!待って!わたしには、嘘をついてるようには思えないわ」
「おい・・・お前、これは罠やて!」
「大丈夫。その代わり、皇帝の元には彼を案内してあげてください」
「かしこまりました」
「すぐ戻るから」
女の手前、手荒い真似は出来ない翼宿を置いて、玲春は一人の侍女についていってしまった
「玲春!」
雷は、鳴り始めていた
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