柚子ドロップス

雪が降りしきる北甲
玲春は、自分の体を毛布で温めながら雪道を歩く

『すまん・・・過去に柳宿を愛した事がある俺を好きになったら、またさっきのようにお前を傷つけてしまうかもしれん・・・俺には、お前を不安にさせない自信が・・・・・・・・・ない』

昨日の翼宿の言葉が頭に響く
早く別れなければ
そう思う一心で、北甲へ自然と足が向いた
そう。西廊ではなくなぜか北甲へ・・・
ズボッ
「きゃ・・・」
雪に足を取られる
今まで、雪などあまり見た事のない玲春には壮絶な雪道だった
後もう少しで、宮殿のある村に着く筈なのだが
段々と吹雪いてくる辺りの景色には、その面影は見えない
やはり、ここは翼宿に任せるべきだったか
後悔の念が押し寄せる
「負けるもんですか・・・」
もう一度、一歩を踏み出した時
「あ・・・」
またしても、足を取られる

ガシッ

誰かに、腕を掴まれた
「え・・・?」
「そっちは崖だ。また、落ちるぞ」
玲春の腕を掴んだのは、黒炎
「あんた・・・」
「一人では危ないだろう?わたしも、着いていってやる」
「馬鹿にしないで」
すぐさま、その手を振り払う
「いたっ・・・」
足に枝が擦れたらしく、その反動でまた倒れる
「見せろ」
「ちょ・・・」
黒炎は、玲春の足を診る
「菌が入ると、危ないぞ」
「ほっといて・・・あんたと話している暇は・・・」
「こっちへ来い。手当てしてやる」
「え・・・」
足の痛みと凍える体で、上手く抵抗ができない

山小屋には、無言の空気が流れる
「これでよい」
黒炎の宿泊場所なのだろうか
所持品で素早く包帯を巻く
「・・・・・・・・・・・・・・・あの」
「翼宿にでも、フラれたか?」
「・・・・・・・・・・・・・」
「それで、単独行動。柳宿の能力など微々たるもののお前に何が出来る?」
「うっさいわね。手当ては感謝するけど、それ以外にあんたと話す事は何もないわ」
「お前が探しているものは、これだろう?」
ふと黒炎の手をみやると、その手のひらには銀貨が納まっていた
「何で・・・」
「話をつけておいたのだ。翼宿の味方だと言ってな」
「・・・・・何が目的?」

「そうだな・・・お前の体だ」

「え・・・」
「玲春。お前のそのひたむきな姿を追いかけている内に、わたしはお前に恋をしてしまったようだ」
「何を・・・」
「嘘ではない。だからこそ、お前を手に入れるためにはこれが必要だったのだ」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「翼宿が大事なんだろう?これがあれば、あいつは国を救える」
この銀貨があれば、翼宿の役に立つ
そして、翼宿の傍から離れられる
翼宿には、どうせフラれたのだ
もしかしたら、忘れられるかもしれない
静かに押し倒され、接吻を受ける

絶対に犯してはならない禁忌
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