柚子ドロップス

「いたたっ・・・あれ?生きてる?」
玲春は、暗い谷底で目を覚ました
「あたしも運がいいわね・・・」
「玲春!!」
遠くで、翼宿の呼ぶ声が聞こえる
「このまま見つからない方がよかったりして・・・」

「そうだな。その方がよい」

途端に、背後から声がして振り向く
「あ・・・」
「奇遇だね。わたしも、この谷底でさまよっていたところだよ」
「嘘・・・あたし達をずっと見張ってたんでしょ・・・?」
黒炎の姿
「実に面白い。歯がゆくて見ていてイライラする2人だよ」
「馬鹿にしないで・・・」
「何を意地を張っているのだ。傍にいたいならいたいと言えばよいのではないか?」
「あんたに助言されるほど困ってないわよ!」
「どうだ・・・?いっその事、わたしと恋に落ちてみないか?」
黒炎が玲春の顎を引き上げる
「今や、紅南など昔ほどの権力はない。これから西廊は間違いなく繁栄し豊かな生活を送れるぞ?そうすれば、お前の命は生かしてやってもいい」

バシッ

玲春の平手が、黒炎の頬を打った
「つっ!」
「お断りよ!!あたしも柳宿も、紅南が大好きなの!紅南にずっと忠誠を誓ってきた!今までもこれからもずっと!!」
「玲春・・・!」
黒炎の瞳が、カッと見開かれる
「玲春!!」
大好きな別の声が聞こえる
「翼宿・・・」
「黒炎・・・貴様!!」
「誤解をするな。わたしが彼女を落とした訳ではない。今日は退散するとしよう。君にかみつかれては玲春に指一本触れられない」
黒炎は、ニヤリと玲春に微笑んだ
「また会おう・・・玲春」
そのまま、暗闇に姿を消す

「おい・・・お前、何を話してた?何もされなかったんか?」
翼宿は、玲春の肩を掴んだ
その時、玲春に恐怖が襲った
「おい・・・?」
「怖い・・・」
玲春は、翼宿にしがみついた
一人になって初めて感じた孤独
黒炎の嫌らしい目つき
自分の中の大切なものが奪われそうになる恐怖を感じた
翼宿に意地を張ったからこその代償だ
「うん・・・すまんな、さっきは。何か傷つける言い方してもうた」
そっと頭を撫でる翼宿
「いいの・・・あたしが素直になれないから」
「・・・・・・・・え?」

「ねえ・・・話があるの」

素直になれればきっと何かが変わる筈
そう思ったんだ
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