空翔けるうた~04~
「あい!おはよう!」
「あ…ひな」
とある朝の学園。校門で、ひなはいつも通り、親友に声をかけた。
「もう、家の事は大丈夫なの?」
「うん!ごめんね?連絡出来ないで…」
「ううん…あのね!ひな…」
「はい!」
何かを言おうとしたあいに、ひなはあるものを差し出す。
それは、あいが実はずっと欲しかった翼宿のサイン。
「ひな…」
「ずっと、欲しかったんでしょ?」
「そんな…あたしは…」
「仕方ないよ」
言葉とは裏腹に、ひなが空を仰ぐ表情は晴れ晴れとしていて。
「あたしも卑屈にならないで、両親の事誇りに思う事にしたの。両親を超える魅力はあたしにはないかもしれないけど、それも仕方ない事だから」
「そんな事は…」
「でもさ。ひとつだけ、お願い。あいとは…今まで通り親友でいたいんだ。もし、よかったらだけど」
ひなに向けられた愛くるしい笑顔に、次にはあいの顔が歪んでいた。
「当たり前じゃん!!ひな…ごめんね?ごめんね…」
友情は、ちゃんとここにある。ひなは、また笑った。
あれから、学校で起こった事を全て知った柳宿はひなに転校を薦めた。
しかし、ひなは気丈だった。
どこに行ってもきっと同じだから、同じ学校で最後まで頑張りたいと。
それでも小澤にされた事は許すべき事ではないので、教員に事情を話して彼を図書委員から脱会させ、ひなとの接触禁止という事にしてもらった。
これにて、ひなはまた学校に通う事が出来るようになった。
そして。
空翔宿星ラストライブから、一週間―――
翼宿は、無事に退院を果たした。
退院を果たした…その次の日。
「お父さん!準備、出来たよ!」
「ったく…何で、ドライブの目的地が俺の実家やねん」
「だって、こないだ愛瞳さんに言われたんだもん!久々に、大阪まで遊びに来てって!」
「あの女は自分に相変わらず春が来ないから、暇なだけや」
今日は、いつしか交わした父と娘の約束のドライブの日。
目的地が大阪である事に翼宿は一人ぶつくさ言っているが、ひなの心は弾んでいた。
「まあまあ!ドライブには、丁度いい距離じゃないの!久々の長期休暇でもあるんだから、あんたもゆっくりしてきなさい。ホラ!カツサンド!」
「…ンマに、昔のお前と一緒や。憂鬱な俺を差し置いて、あんなにはしゃいで」
「何よお?あの子があたしと似るのが、そんなに不服な訳?」
またしても口喧嘩を繰り広げようとする両親を横目に見やると、ひなは車のキーと翼宿の荷物をひっ掴んだ。
「おい…ひな?」
「あたし!先に、荷物積んでるから!」
そして、そのままパタパタと玄関へ駆けていってしまった。
少し遅れて、翼宿も玄関で靴を履く。
「気をつけてね?まだ、怪我も油断出来ないんだから…」
「大丈夫や。お前こそ、仕事復帰してまた頑張りすぎるんやないで?」
「分かってる…」
「…………………」
「…………………」
二人は、黙って見つめ合う。
ライブが終わってからも暫くバタバタしていて、ゆっくり話が出来ていない。
本当は、もっと素直に話がしたかった筈なのに。
「翼宿…あの」
「ありがとな…俺の代役」
「え…」
「ホンマに、お前には敵わんわ。一週間で、俺のポジション固めたなんて。ある意味、俺よりも音楽の才能あるんやないか?」
「そんな事…あんただって、あの日、無理して来てくれたんでしょ?あたしの…為に」
「…………ああ」
そう。全ては、お互いを愛してるがゆえ。
「ほな…行ってくるわ」
「うん…気をつけてね」
しかしゆっくり語り合っている時間もなく、翼宿が話を切り上げようとした。
その時。
「柳宿」
「え…」
煙草の香りがしたかと思うと、翼宿の唇が柳宿の唇に重なっていた。
何十年ぶりかの…甘いキス。
「翼宿…」
「行ってきます」
「………行ってらっしゃい」
ニャン♡
その足元で、タマも嬉しそうに鳴いていた。
バタン
「待たせたな」
「ううん!お父さん!お母さんと、ちゃんとキスしてきた??」
「…………っっ!このマセガキが…大人をからかいよって。どこで、覚えてきたんや」
「ふふ♡してきたんだね♡」
「…………………」
一気に不機嫌になり車のエンジンをかける父親の隣に、娘はピッタリと座る。
すると、ひなの携帯が鳴った。
「あ!攻児さんからだ♡」
「んなっ!?攻児!?お前、いつからあいつと…」
「あ。お父さんには、まだ言ってなかったっけ??こないだ、攻児さんとご飯に行ったら色々と意気投合しちゃって!」
ひなが、頬を染めて自分の相棒について語っている…
翼宿は、唖然とした。
「………俺は、認めんぞ。あんなチャラ男」
「えー?そんな事ないよ?紳士的で優しい人じゃない!」
「お前なあ!大体、歳が離れすぎとるやろ、歳が!」
「………もしかして、ヤキモチ?」
「………んな訳あらへん」
「え!?お父さん、ヤキモチ焼いてくれてるの!?かわいー♡」
「っだあああ!運転の邪魔や!ピヨピヨせんと、大人しく座っとけ!」
賑やかな父子を乗せて、車は大阪への道をひた走る―――
この先にどんな困難があろうと、この父子がすれ違う事はきっともうないだろう。
完
「あ…ひな」
とある朝の学園。校門で、ひなはいつも通り、親友に声をかけた。
「もう、家の事は大丈夫なの?」
「うん!ごめんね?連絡出来ないで…」
「ううん…あのね!ひな…」
「はい!」
何かを言おうとしたあいに、ひなはあるものを差し出す。
それは、あいが実はずっと欲しかった翼宿のサイン。
「ひな…」
「ずっと、欲しかったんでしょ?」
「そんな…あたしは…」
「仕方ないよ」
言葉とは裏腹に、ひなが空を仰ぐ表情は晴れ晴れとしていて。
「あたしも卑屈にならないで、両親の事誇りに思う事にしたの。両親を超える魅力はあたしにはないかもしれないけど、それも仕方ない事だから」
「そんな事は…」
「でもさ。ひとつだけ、お願い。あいとは…今まで通り親友でいたいんだ。もし、よかったらだけど」
ひなに向けられた愛くるしい笑顔に、次にはあいの顔が歪んでいた。
「当たり前じゃん!!ひな…ごめんね?ごめんね…」
友情は、ちゃんとここにある。ひなは、また笑った。
あれから、学校で起こった事を全て知った柳宿はひなに転校を薦めた。
しかし、ひなは気丈だった。
どこに行ってもきっと同じだから、同じ学校で最後まで頑張りたいと。
それでも小澤にされた事は許すべき事ではないので、教員に事情を話して彼を図書委員から脱会させ、ひなとの接触禁止という事にしてもらった。
これにて、ひなはまた学校に通う事が出来るようになった。
そして。
空翔宿星ラストライブから、一週間―――
翼宿は、無事に退院を果たした。
退院を果たした…その次の日。
「お父さん!準備、出来たよ!」
「ったく…何で、ドライブの目的地が俺の実家やねん」
「だって、こないだ愛瞳さんに言われたんだもん!久々に、大阪まで遊びに来てって!」
「あの女は自分に相変わらず春が来ないから、暇なだけや」
今日は、いつしか交わした父と娘の約束のドライブの日。
目的地が大阪である事に翼宿は一人ぶつくさ言っているが、ひなの心は弾んでいた。
「まあまあ!ドライブには、丁度いい距離じゃないの!久々の長期休暇でもあるんだから、あんたもゆっくりしてきなさい。ホラ!カツサンド!」
「…ンマに、昔のお前と一緒や。憂鬱な俺を差し置いて、あんなにはしゃいで」
「何よお?あの子があたしと似るのが、そんなに不服な訳?」
またしても口喧嘩を繰り広げようとする両親を横目に見やると、ひなは車のキーと翼宿の荷物をひっ掴んだ。
「おい…ひな?」
「あたし!先に、荷物積んでるから!」
そして、そのままパタパタと玄関へ駆けていってしまった。
少し遅れて、翼宿も玄関で靴を履く。
「気をつけてね?まだ、怪我も油断出来ないんだから…」
「大丈夫や。お前こそ、仕事復帰してまた頑張りすぎるんやないで?」
「分かってる…」
「…………………」
「…………………」
二人は、黙って見つめ合う。
ライブが終わってからも暫くバタバタしていて、ゆっくり話が出来ていない。
本当は、もっと素直に話がしたかった筈なのに。
「翼宿…あの」
「ありがとな…俺の代役」
「え…」
「ホンマに、お前には敵わんわ。一週間で、俺のポジション固めたなんて。ある意味、俺よりも音楽の才能あるんやないか?」
「そんな事…あんただって、あの日、無理して来てくれたんでしょ?あたしの…為に」
「…………ああ」
そう。全ては、お互いを愛してるがゆえ。
「ほな…行ってくるわ」
「うん…気をつけてね」
しかしゆっくり語り合っている時間もなく、翼宿が話を切り上げようとした。
その時。
「柳宿」
「え…」
煙草の香りがしたかと思うと、翼宿の唇が柳宿の唇に重なっていた。
何十年ぶりかの…甘いキス。
「翼宿…」
「行ってきます」
「………行ってらっしゃい」
ニャン♡
その足元で、タマも嬉しそうに鳴いていた。
バタン
「待たせたな」
「ううん!お父さん!お母さんと、ちゃんとキスしてきた??」
「…………っっ!このマセガキが…大人をからかいよって。どこで、覚えてきたんや」
「ふふ♡してきたんだね♡」
「…………………」
一気に不機嫌になり車のエンジンをかける父親の隣に、娘はピッタリと座る。
すると、ひなの携帯が鳴った。
「あ!攻児さんからだ♡」
「んなっ!?攻児!?お前、いつからあいつと…」
「あ。お父さんには、まだ言ってなかったっけ??こないだ、攻児さんとご飯に行ったら色々と意気投合しちゃって!」
ひなが、頬を染めて自分の相棒について語っている…
翼宿は、唖然とした。
「………俺は、認めんぞ。あんなチャラ男」
「えー?そんな事ないよ?紳士的で優しい人じゃない!」
「お前なあ!大体、歳が離れすぎとるやろ、歳が!」
「………もしかして、ヤキモチ?」
「………んな訳あらへん」
「え!?お父さん、ヤキモチ焼いてくれてるの!?かわいー♡」
「っだあああ!運転の邪魔や!ピヨピヨせんと、大人しく座っとけ!」
賑やかな父子を乗せて、車は大阪への道をひた走る―――
この先にどんな困難があろうと、この父子がすれ違う事はきっともうないだろう。
完
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