空翔けるうた~04~
「分娩室」
今日も、その部屋の中でひとつの生命が産まれる。
そして、その部屋の前にはその生命を待つ人々がいる。
夫の姿はないが、妊婦の家族や友人が妊婦の帰りを待っていた。
「おい…まだ、翼宿は来ないのか?」
「レコが、押してるんだと思います」
「ったく…妻の大事な時に、あいつは今日も仕事かよ!」
「社長…何なら、少しあいつの負担軽くなるようなスケジュール組んでやってくださいよ」
そんな言葉を交わしているのは、yukimusicの夕城社長とその部下・鬼宿。
「いやいや…無理もないですよ。柳宿の夫は、売れっ子さんなんですから」
「そうですよ。今日、出産に間に合わなくても構わないって…うちの娘も言ってましたから」
妊婦の両親は、二人のそんなやりとりを優しくフォローする。
お…ぎゃあ。おぎゃあ…
すると、部屋の中から赤子の小さな泣き声が聞こえてきた。
「もしかして、産まれた!?」
妊婦の兄は、瞳を輝かせる。
そして、その場は一気に歓喜の渦に包まれた―――
バタバタバタ…
それから、二時間後…一人の男性が産婦人科の廊下を駆けてくる。
すれ違う看護師が思わず頬を染めて振り返る…その男の正体は。
「すんません…遅れて!」
オレンジ色の髪の毛の男がとある病室の扉を開けると、中で待っていた者が一斉に振り向く。
「遅いぞ!父ちゃん!」
「母子、共に健康だってよ!よかったな!」
夕城社長と鬼宿は、その男ににこやかに声をかけた。
ストールを外して妻の寝台に近寄ったのは、翼宿。
空翔宿星の元ベースボーカルであり、今も巷を賑わせている大スターだった。
そして、寝台の上。先程、大偉業を成し遂げて母親の顔になった妻の柳宿が優しく微笑む。
「おかえりなさい…翼宿」
「…体調は、どうや?」
「うん…平気よ。安産だったしね」
「そか。お疲れ」
翼宿は、柳宿の額を優しく撫でる。
今まで気丈に振る舞っていた彼女も、夫の前では少女のような顔になる。
「ほら。抱っこしてあげて…」
そして彼女の隣には、小さな小さなベッドがある。
その中からは、生後間もない赤子が寝間着にくるまれてじっと父親を見上げている。
「………や。何か、恥ずかしいもんやな」
「何、言ってんだよ!お前が来るまで、俺ら誰も抱っこしてねえんだからな!」
「父親間違えられたら、困るからさ」
本当はすぐにでも抱き上げてやりたい程の愛らしい女の子なのだが、二人はぐっとそれを我慢していたのだ。
翼宿は、そっと赤子の頬に触れる。
すると、すぐに彼女は微笑んだ。
まるで彼女も、父親の帰りをずっと待ち焦がれていたかのように。
それに安心したのか、翼宿は少々不器用な手つきで小さな赤子を抱き上げた。
「ひな?お父さんだよ?分かる?」
名前を呼ばれた赤子は、母親のその言葉にまた嬉しそうに笑った。
「やっぱり…分かるんだなあ!」
「感動的だ…あの翼宿が父親の顔になって、我が子を抱っこしているなんて」
「どーいう意味やねん。たま」
それでも、翼宿の顔には笑みが零れていて。
「よろしくな…ひな」
赤子はその呼びかけに答えるように、翼宿の指をぎゅっと握った。
今日、産まれた小さな命の名前は、陽山(ひやま)ひな。
陽山の姓は、翼宿と柳宿の姓。
空翔宿星・元メンバーの電撃結婚が決まって早3年…
今日は、忙しい中でも順調に愛を育んだ二人に訪れた新しい出会いの日。
ひな。雛鳥のように、無限の可能性を秘めた子供になりますように―――
そんな願いから名付けられたこの赤子が、翼宿と柳宿の第一子となる。
今日も、その部屋の中でひとつの生命が産まれる。
そして、その部屋の前にはその生命を待つ人々がいる。
夫の姿はないが、妊婦の家族や友人が妊婦の帰りを待っていた。
「おい…まだ、翼宿は来ないのか?」
「レコが、押してるんだと思います」
「ったく…妻の大事な時に、あいつは今日も仕事かよ!」
「社長…何なら、少しあいつの負担軽くなるようなスケジュール組んでやってくださいよ」
そんな言葉を交わしているのは、yukimusicの夕城社長とその部下・鬼宿。
「いやいや…無理もないですよ。柳宿の夫は、売れっ子さんなんですから」
「そうですよ。今日、出産に間に合わなくても構わないって…うちの娘も言ってましたから」
妊婦の両親は、二人のそんなやりとりを優しくフォローする。
お…ぎゃあ。おぎゃあ…
すると、部屋の中から赤子の小さな泣き声が聞こえてきた。
「もしかして、産まれた!?」
妊婦の兄は、瞳を輝かせる。
そして、その場は一気に歓喜の渦に包まれた―――
バタバタバタ…
それから、二時間後…一人の男性が産婦人科の廊下を駆けてくる。
すれ違う看護師が思わず頬を染めて振り返る…その男の正体は。
「すんません…遅れて!」
オレンジ色の髪の毛の男がとある病室の扉を開けると、中で待っていた者が一斉に振り向く。
「遅いぞ!父ちゃん!」
「母子、共に健康だってよ!よかったな!」
夕城社長と鬼宿は、その男ににこやかに声をかけた。
ストールを外して妻の寝台に近寄ったのは、翼宿。
空翔宿星の元ベースボーカルであり、今も巷を賑わせている大スターだった。
そして、寝台の上。先程、大偉業を成し遂げて母親の顔になった妻の柳宿が優しく微笑む。
「おかえりなさい…翼宿」
「…体調は、どうや?」
「うん…平気よ。安産だったしね」
「そか。お疲れ」
翼宿は、柳宿の額を優しく撫でる。
今まで気丈に振る舞っていた彼女も、夫の前では少女のような顔になる。
「ほら。抱っこしてあげて…」
そして彼女の隣には、小さな小さなベッドがある。
その中からは、生後間もない赤子が寝間着にくるまれてじっと父親を見上げている。
「………や。何か、恥ずかしいもんやな」
「何、言ってんだよ!お前が来るまで、俺ら誰も抱っこしてねえんだからな!」
「父親間違えられたら、困るからさ」
本当はすぐにでも抱き上げてやりたい程の愛らしい女の子なのだが、二人はぐっとそれを我慢していたのだ。
翼宿は、そっと赤子の頬に触れる。
すると、すぐに彼女は微笑んだ。
まるで彼女も、父親の帰りをずっと待ち焦がれていたかのように。
それに安心したのか、翼宿は少々不器用な手つきで小さな赤子を抱き上げた。
「ひな?お父さんだよ?分かる?」
名前を呼ばれた赤子は、母親のその言葉にまた嬉しそうに笑った。
「やっぱり…分かるんだなあ!」
「感動的だ…あの翼宿が父親の顔になって、我が子を抱っこしているなんて」
「どーいう意味やねん。たま」
それでも、翼宿の顔には笑みが零れていて。
「よろしくな…ひな」
赤子はその呼びかけに答えるように、翼宿の指をぎゅっと握った。
今日、産まれた小さな命の名前は、陽山(ひやま)ひな。
陽山の姓は、翼宿と柳宿の姓。
空翔宿星・元メンバーの電撃結婚が決まって早3年…
今日は、忙しい中でも順調に愛を育んだ二人に訪れた新しい出会いの日。
ひな。雛鳥のように、無限の可能性を秘めた子供になりますように―――
そんな願いから名付けられたこの赤子が、翼宿と柳宿の第一子となる。
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