百花繚乱・第一部

『中々、見つからないわね~最後の一人!』
『そうだね。早く鬼宿にも会いたいな…』
就寝の準備をする美朱と柳宿は、ため息をつきながらこんな話をしている。

次なる張宿探しの旅は、かなりの延長戦になっていた。
今日も何も手がかりは見つからず、やむなく一行は四度目の野宿をする事になる。

『ふあ………』
『どうした、翼宿。疲れたか?』
『軫宿か…まあなあ。気は長くないタチなんや』
『見れば分かる』
『んな!失礼なやっちゃなあ!!』
大木に寄りかかって欠伸をしている翼宿に声をかけたのは、すっかり一行の癒し系カウンセラーに落ち着いた軫宿。
しかしここでも弄られキャラとして扱われた事に一瞬ムッとなるが、そんな軫宿を見上げて翼宿はある事に気付いた。
『なあ。そういえば、軫宿…』
『何だ?』
『お前、七星の能力は治癒力なんやろ?』
『そうだ』
『………何で、あん時黙ってたん…柳宿が怪我した時』
『ああ…だって、お前が面倒見たかったんだろう?』
『………あ?』
――――――――――――
遅れて、翼宿の顔が赤くなっていく。
『っっっんな訳ないやろ!!何勘違いしてんねん!あれは、あいつが女やから…』
しかしそこまで言いかけて、続きを言うのをやめた。
女だから…と、思っていたのだが。
『まあ…何でもいいが、そんなに分かりやすいと気付かれるのも時間の問題だぞ』
『~~~だから~』
『翼宿!何してんのよ!早く寝なさい!明日も早いんだから~』
なおも反撃を続けようとする翼宿を柳宿が母親のように呼ぶ事で、二人の会話は遮られた。
『ほら。呼んでるぞ』
『あーーーへいへい!』
恋愛のれの字もない二人だが、なぜか自然に二人で寝るのが日課になっているようだ。
寝床の隣を半分開けて待っている柳宿の元に、翼宿は頭をカリカリとかきながら歩いていった。
『柳宿も柳宿で、どうなんだか…』
ニャ~
軫宿は、その光景を眺めながら静かに微笑んだ。


翌日は、鬼宿の実家を通りかかりそこに立ち寄った。
宿泊はそこで甘える事になり、休んでいると…

♪♪♪

静寂を破るように、どこか心地よい笛の音が美朱の耳に聞こえてきた。
『この笛は…!』
それは、朝方も聞こえていた笛の音。しかし不思議な事に、他の七星は誰も聞こえない音らしい。
『ねえ、柳宿!これ!この笛の音!』
『ん~?何よお…何も聞こえないわよ~…?』
やはり、一緒に寝ていた柳宿には聞こえないらしい…美朱は首を傾げると、その不思議な音を追いかけて一人外に出た。

(どうして、あたしにだけ聞こえるんだろう…?)
もう一度よくよく耳をすまそうと扉を開けた、その時だった。
『えっ…!』

バタバタ――――キイイッ!!

夥しい数のコウモリ達が奇声を発しながら、飛び込んできた。
それらは、悲鳴をあげる美朱の肌に容赦なく噛み付いてくる。

変だ。コウモリは人間を襲う動物ではないと、柳宿が言っていた。
だとすれば、このコウモリ達は誰かに操られている。
そう悟った美朱はこのままこの家にいては鬼宿の家族に迷惑がかかると、コウモリをその身にまといながら駆け出した。
『美朱!』
そしてその後ろ姿を偶然見かけた星宿と翼宿が、慌ててその後を追いかけた。

二人が美朱に追い付いたはいいものの、コウモリの大群は依然彼女にまとわりついている。
『烈火神焔!!………どわっ!?』
それらを一気に焼き払おうと翼宿は鉄扇を振るう…しかし、なぜかその炎は見えない壁にぶち当たったかのように攻撃した翼宿本人に跳ね返ってきた。
『何やあ、これは!!攻撃…きかへんのかいな!?』
『美朱!伏せて…』
間髪入れずに、コウモリは三人めがけて襲い掛かってくる。
巫女だけは護らなければと彼女を庇う体制になると、二人の体にはただただ無数の傷が付いていく。
『星宿!翼宿!』
絶体絶命と思った、その時

♪♪♪

突如として聞こえてきたのは、笛の音。
しかしそれは先程美朱が聞いた優しい音ではなく、翼宿達にもハッキリ分かるような力強い音だった。
『これは…』
『あ!コウモリが…!』
何事かと辺りを見渡す三人の頭上でコウモリは狂ったように暴れ回り、大木にその身を打ち付けていく。
そして、次には陰でコウモリを操っていたらしき間者も気を乱された状態で木から落ちてきた。

ザッ

木陰から出てきた少年。それは…
『俺は、張宿です…倶東の軍に襲撃されて…』
最後の七星士、張宿だった。
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