悠の詩〈第2章〉

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(柳内くーん! がんばれー! ○○○中、ファイトー!)

 ブラバンの演奏でほぼ掻き消されちゃってるけど、由野が元気いっぱいの声援を送ってくれる隣で、神妙な顔で俺、というか球場全体を眺めている柏木。

 アイツ劇団の公演がもうすぐとかで、先生の了解を得てるんだろうけど、帰りの会の時間にはひとりさっさと下校していたのに、今日は皆と来たんだ。

「さあ! ギャラリーがこんなに来てくれたから、みっともない試合するわけにはいかないな?
 勝って堂々と県大会に進もうな!」

 柏木と目が合う事もなく、キャプテンの言葉にハッとなって自然と皆で円陣を組む。

 この夏をまだ終わらせたくない、皆同じ気持ちだった。

「○○○中ーっ、ファイッ、オーッ、ファイッ、オーッ、ファイッ、オーー!!」

 円陣を解いてホームベースに整列。主審の「礼!」の掛け声に、相手チーム共々帽子を取って頭を下げた。

 俺達は後攻。散り散りに守備に付く。

 その前に、サードのキャプテンに呼び止められた。

「柳内、落ち着いてやれば大丈夫だから。全力出して行こうな!」

 うっす! と返事をして…俺はセカンドに付いた。

 ショートの大野先輩に代わって入った俺だけど、ショートを守るにはやっぱり役不足だった…

 前回の試合は勝てたけど、俺個人のプレイはメチャクチャで、皆のカバーにずいぶん助けられた。

 それを察したキャプテンは、俺をセカンドに命じた。

 レフト側に比べてライト側にはそうそうヒットは飛んでこない…俺にプレッシャーを掛けない為の、キャプテンの配慮だった。

 もう皆の足を引っ張りたくない。





 この日はとても暑い暑い日。

 セミの声なんかよりずっとずっと大きいギャラリーの声援。

 この日の事は…

 コーヒーとミルクが混じり溶け合う前の渦巻きみたいに

 俺の思い出の中に

 いつまでもぐにゃりとした状態で居座っている…





 いい加減、忘れてもいいのに。





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