FALL

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 ~♪

 芽衣子ちゃんがリクエストした曲は、前奏が長かった。

「あ、マイクいいですか? …すみません、もうひとつ」

 その間に芽衣子ちゃんはマイクが置かれている傍のヤツに声を掛けて、マイクを回して貰っていた。

 そして不意に、俺の目の前が陰る。

「はい、相田さん」

 芽衣子ちゃんが両膝をついて、下から見上げるように1つのマイクを差し出していた。

「一緒に歌う約束でしょう?」

 そう言って、俺の手にマイクを乗せる。

 その時、芽衣子ちゃんの指先がちょっと触れて、それがすうっと俺の肌を滑って。

 ドキン。

 強い鼓動がひとつ。

 胸から頬にかけて、一本の筋で繋がっているみたいに、そこだけ熱を持って痺れた。

 だからすぐに声が出なくて。

「…はい」

 思わず目を伏せて言った。何で、敬語?(笑)

 そんな俺に、芽衣子ちゃんはくすりと笑みを零した。

 そして俺達は、機材の隣にあるステージまで出てきた。

 ひゅーっ! と囃し立てる音と共に、ヤロー達からの非難轟々。

「相田ァ! てめえ、何抜け駆けしてんだよ!? 狙ってたのに!
 あーん、芽衣子ちゃーん!」

 冗談なのか本気なのか、坂本が捲し立てる。

「うるせえなあ」

 シャツの襟元を正しながら、ヤロー達に一瞥した。

 芽衣子ちゃんは恥ずかしそうに、でも堂々と歌い始めた。

 キレイな声。

「ウマーイ! 芽衣子ちゃん、がんばって!
 相田オンチだから、気を付けて!」

 言いたい放題のヤロー達、他の女の子達もクスクス笑う。

 ちくしょーと思いながら歌い出したら、案の定トチった。

「あっ、相田、今音外した! ぎゃはははー。
 芽衣子ちゃん、サイコー! 相田、ジャマ!」

「ひゃははは。相ちゃん、がんばんなー」

 坂本と靖子が率先して俺をいじるから、この曲が終わるまで皆ずっと大爆笑だった。

 芽衣子ちゃんも、途中から堪えられなくなって、笑いながらの熱唱になっていた。





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