ボーダーライン〈後編〉

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「紡木さん!?」

 紡木さんの声に振り返った時、ザザザッと落ち葉を掠める音が立って、数m先がすでに闇で潰されていた。

 すぐ脇が急な坂、誤って足を滑らせた?

 紡木さんの姿がない現実に背筋が寒くなった。

「紡木さんっ!!」

「あ…ノブくん? ココ、ココ…」

 僕の悲鳴に、紡木さんの申し訳なさそうな小さな声。

 紡木さんはほんの二、三歩滑った所で尻もちをついていた。

 でも、全く見えなかったんだ。本当に焦った。

「あぁもう…びっくりさせないで。立てる?」

「…っ痛」

 伸ばした僕の手に掴まろうとした紡木さんは、顔をしかめてすぐにうずくまってしまった。

「ゴメ…足、挫いちゃったみたい…両方…」

「そんな…っ」

 まずい状況になった。どんどん暗くなる。いるのは登山ビギナーの僕だけ。

 スマホを取り出す…圏外。

「っ…
 おーい!
 おーい!
 助けて下さい!
 山口さん、
 近くにいますか!?
 おねがい…っ
 ここに来て…っ!!」

 有らん限りの声を振り絞って叫んだ。

 カタカタと身体を震わす紡木さんの背中をさすりながら、「大丈夫、大丈夫だよ」と声を掛けながら。



「ノブくん…
 ゴメ…ンね…私のせい…
 考え事、してて足元をよく見てなかっ…

 私…
 つらい…
 みんなの前で恋人として振る舞えないの…

 なんでかなぁ…
 ダメなのかなぁ…

 でもそれ言ったら…
 剣ちゃんに嫌われ…うぅっ…」



 紡木さんが口元を押さえてそう言って

 ふと

 僕に寄り掛かった

 紡木さんの額が僕の胸にくっついて

 ヤバイ

 僕の鼓動が紡木さんにバレてしまう

 そう思ったのに

 僕の両腕は無意識に

 紡木さんの身体をきつく取り巻いた

 紡木さんが固まったのが分かる



 でも

 僕達は

 そのままでいたんだ





「ツムちゃん!? ノブ!? どうした!? どこだ!?」

 という山口さんの叫ぶ声が届くまで。





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