ボーダーライン〈後編〉

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「わぁ…」

「ねっ、綺麗だね!」

 登山道の紅葉が見事だった。空を覆われ、土を覆われ、赤く染まった空間を僕達は見惚れながら歩いた。

 あっ! と僕は持ってきていた物を思い出して、リュックの中からそれを取り出す。

「おっ一眼レフ? ノブ、本格的だな~」

 山口さんが興味深げに僕のカメラを覗き込んだ。

「あは…実は高校時代、写真部でした(笑)」

「えーっそうだったんだ! 夏の海の時にも撮ってくれてたら良かったのに。
 あっ、じゃあさ、今日の写真、掲示板のアルバムに載せようよ!」

 紡木さんがワクワクした様子で提案した。

「じゃあいっぱい撮らないとね…」

 僕は秋を彩る山々や、大分先を歩いている松堂さん達、紡木さん、山口さんにカメラを向けながら歩いた。

「撮影功労者も写っとかないとな(笑)」

 と言って、山口さんと紡木さんが代わる代わるカメラを奪って僕を写したりした。

 そんなやりとりの中で、僕と紡木さんのツーショットも撮られた。

 後で確認すると、僕達はすごくいい顔で写っていた。

 紡木さんにしたら…僕じゃなく松堂さんだったら、と思うのかも。

 そんな思いが掠めるけれど、知らないフリをした。いい写真を手に入れたと、心の中でガッツポーズをした。



 お昼を大分過ぎた頃に山頂に辿り着いて、僕達はシートを広げて、紅葉が舞い落ちる中お弁当を食べた。

 展望台に登って下界を眺めたり、麓ほどじゃないが土産屋が並んでいて物色したり、大きな御堂や祀られている石碑なんかもゆっくり見物したり。

 各々楽しんでいる所をカメラに収めて、最後に集合写真を撮った。

「よぅし、そろそろ出発するか。陽が暮れる前に下山するぞ!」

 帰りくらいケーブルカーに乗りたいと文句を飛ばすメンバーを一蹴して、松堂さんはさっさと登山道へ入ってしまった。

 登山道は二つあって、行きは比較的なだらかな道だったけれど、帰りは早く下山したいからと、行きより短い距離だが急な坂や階段の多い狭い道を下った。



 落陽が始まった。秋、しかも山は暗くなるのがすごく早い、外灯もない。松堂さんが早く下りたがるのがよく分かった。

 そんな中、紡木さんのペースが落ちていて…僕はそれに合わせて歩いていた。

「慌てるな、ゆっくりでいいからな」

 そう声を掛ける山口さんとも、大分距離が空いていた。

 空が上の方から徐々に藍色に染まり出して、鳥達の声が遠くから響く、山のしんとした空間が際立った。

 少し…恐いな…

 と思ったのと、

「きゃ…」

 と紡木さんが短く叫んだのが、ほぼ同時だった。





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