悠の詩〈第1章〉

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「ほら、新入生あっちだって」

 正門前の受付でクラス分けの紙を貰った俺は、自分の名前が4組にあるのを確認した直後に、かあちゃんのその言葉を聞いた。

 だから他に誰がいるのか見ずに、慌てて集合場所であるらしい昇降口前へ走っていった。

 各クラスのプラカードを、先輩達が掲げている。

「柳内ー、同じクラスだなー、よろしくなー」

「何で柳内が一緒なのよー、サイアクー」

 俺がいた小学校の生徒の半数以上がこの中学に流れてくるから、わりと知った顔ばかり。

 他の2、3校からの連中はやっぱり心細いのか、俯いて静かにしてる。

 男女別に来た順に並んでるらしく、最後尾までまわると、

「あ、春海ちゃんだ」

 最も呼ばれたくない呼び名を言うヤツがいて、俺はぎょっとした。

「げーっ。お前も4組かよ、樹深たつみ?」

「ひど。昔はもっと優しかったのに、春海ちゃん」

「だーかーらー、ちゃんはヤメロ! もう中学生なんだから、呼び捨ててくれよ頼むから」

「つれないなぁ…ハルミタツミのミぃ同士の幼なじみじゃん?(笑)」

「あほか!(笑)」

 襟足の長い、サラサラストレートのコイツは、後藤樹深。

 幼稚園時代家族ぐるみで仲が良くて、小学校は学区が違ったから離れてたんだけど、学期の区切り毎には会って遊んでたから、ブランクはあまり感じない。

「お前んとこの学校のヤツ、少なそうだな? アウェーじゃね?」

「うん。まあでも…新たな出逢いに期待する(笑)」

「(笑)(笑)」

 樹深はどちらかといえばおとなしくて、自分からグイグイ行くタイプではないんだけど、話が巧くて、穏やかで、それで自然と人が集まる、不思議なヤツ。

 俺が来る前に、樹深は前にいた他校のヤツらとすでに打ち解けて、楽しそうに雑談していた。





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