雑踏の中のふたり

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 そういう世の中の縮図が、駅だった。

 駅の構内は、浮浪者達が稼ぐにあたって、格好の場所だった。

 駅には、生き延びようとする孤児達が沢山いた。



 その中に、高志たかしという名前の18になる少年がいた。

 戦後、孤児となり、坊主頭だったのが伸びに伸びて、目も耳もすっかり隠れた。

 駅内の太い柱を頼りにもたれかかり、床に尻をついて、靴磨きで少しばかりの金を稼いで、命を繋ぎ止めていた。

 親を戦火で失い、ひとりで生きてきた。

 稼ぎは、高志を健康な体に戻してはくれなかった。

 栄養失調の、一歩手前。

 水は沢山あったし、食べ物も少ないながら駅の露店で買える。

 高志の徒歩範囲は、この狭い駅の中のみだった。

 客がいつ来るか分からないから、ずっと座りっぱなし。

 いつしか、腰が抜けたようにすぐに立てなくなった。

「いらっしゃい」

 客が来ると、さっきまでの虚ろな瞳がどこかへ飛んで、高志の顔が驚くほど笑みで満ちて明るくなる。

 催眠術みたいに、高志はそれを繰り返すだけだった。





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