悠の詩〈第2章〉
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「それで? 結局どこで見つけたの」
腕組みしながら柏木が樹深に聞く。何の話だ?
「そうそうそれがさぁ、俺の部屋、クローゼットの上の棚のいっちばん奥に突っ込まれてて。俺ずーっと知らなかったんだよ(苦笑)
家族のだーれも覚えてなかったんだよ…持ち主の母さんでさえ【あらそんな所にあったのね】なんて言ってさ。
見つけた時はもう大分遅かったから、結局家では弾けなかった」
ああ、樹深んちのギターの事か。昨日あれから急いで帰って、捜索だけで時間が潰れたんだ。誰も探すの手伝ってくれなかったようだ(笑)
「あぁだけど…どっちにしろ学校から帰ってから家で弾くの、ちょっと難しいかも。
もう皆家にいる時間だし、うち防音じゃないし、多分姉ちゃんがいい顔しないだろうし。
春海ちゃん達は? その辺大丈夫そう?」
ひとしきり喋って、樹深は俺達に話を振った。
ギターやってたのお母さんの方だったの!? とか、優しくて綺麗な梓ねえちゃんがいい顔しない!? とか、そこんとこ詳しく突っ込みたかったんだけど、そんな場合じゃないのは分かってる(笑)
「俺は…俺も、難しいかなぁ。
今回の事、かあちゃんに内緒にしてるんだよ。色々詮索されたくなくて。とうちゃんにはバレちゃったんだけど、かあちゃんには言わないでいてくれるって。
あっでも、樹深が話してるなら、お前のお母さんからうちのかあちゃんに伝わるから意味ないか…」
ここまで話すと、「いや俺も話してないよ」と樹深が挟んだ。「春海ちゃんがそう心配すると思ったから(笑)」と付け加えて。
樹深の用意周到な気遣いは今に始まった事じゃないし、いつもあっぱれと思ってるんだけど、この時はちょっと、なんかむっとした。
さっきの柏木の「待ってた」と雰囲気がそっくりで、ここでも妙な連携感、持ちたくない疎外感、混ざり合って…
悟られたくないと咄嗟に思って、「オメーはどうなんだよ」柏木に視線を投げた。
「私は、まぁ、大丈夫だよ。家でやるわけじゃないし…けい…じゃない、習い事の所でお世話になってるから」
しかしコイツも、時々危ねーな。あれだけ知られるのを恐れているクセに、俺には散々釘を刺してるクセに、うっかり自分で暴露しそう。
まぁ、俺とコタ先生、事情をすっかり把握しているのが傍にいたら、気が緩んじゃうんだろうけどさ。
澄ました顔で話す柏木が可笑しくて、肩越しに後ろを向いて、咳払いをするフリをして見られないようにひとつ「ふっ」と笑いを逃した。
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