悠の詩〈第2章〉

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「え、まだ少し時間あるぞ柏木? もう終わりか?」

 コタ先生が少し慌てて柏木を呼び止めたけど、

「先生は事情を知ってくれてるから…練習場所を提供してくれて感謝はしてます。
 でも、関係ない事に首を突っ込みたくないです。先生から高浪くんに、ちゃんと話つけて下さい。
 それからキミらも、金輪際ここに来ないで。こんなんじゃ練習に身が入りゃしない」

 後半はほとんど吐き捨てるように、柏木は俺達にそう言って今度こそ出ていった。

「あと1回くらいならギリギリ弾けるのになぁ、まぁいいか」

 コタ先生も時計を見ながらギターを片付け始めた。昼休み終わりのチャイムまではまだ少しある。

「ねぇ先生、なんだってこんなトコで、柏木とギターやってんの。内密だとか、高浪がどうのって、一体なんなの」

 俺の質問に、コタ先生は分かりやすく苦笑いをした。

「うーんと、説明が難しいな…簡潔に言うとだ」

 そう言いながら、コタ先生の目がめちゃくちゃ泳ぐ。その理由はすぐに分かった。

「柏木の個人的な事情で…うんまぁ、習い事かな。それの発表会的なのが、文化祭のすぐ後にあって…習い事の時間だけじゃとても足りないんだと。
 おまけに今学校じゃ文化祭の準備に追われて、放課後も拘束されちゃうし、家で練習しようにもギターを持ってないときたもんだ。
 それで音楽室にひとつあるのを貸して貰って、先生も昔かなりやってて自分のを持ってるから、こうして空き時間に…まぁ昼休みにしか出来てないが…やらせて貰ってるってワケだ」

 どうやら、アイツの親父さんの劇団絡みっぽいな。きっとまた、劇中の役柄かなんかなんだろう。

 アイツの家庭事情は樹深は知らない話だし、コタ先生なりにオブラートに包んだつもりみたい。





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