悠の詩〈第1章〉

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「な。んで、俺の名前」

 つーか、ナニその歌みたいな。あ、一昨日のユキが俺を呼んだフレーズ。

 柏木は何も答えず、静かに着席する。

 先生が話すのを真っ直ぐに見る横顔、やっぱりその顔を見た事がある、そこから色々フラッシュバックした。

 柏木があの時ホテルの敷地内にいたヤツなんだと合点がいった頃には、柏木はとうに荷物を机の中なり脇なりに片付けて、体育館に向かう為に皆廊下へ並んでいた。



 この時はなんとなくで背の順で並んで、俺と樹深と由野が前の方で固まった。

 丸山は真ん中よりちょっと手前で、柏木はやっぱり一番後ろ。

 同じく一番後ろの高浪が柏木に話しかけていて、「何cm?」「169」「わ、抜かれそう。172なんだ」っていう会話が聞こえた。

「7cm分けてくれたら、ちょうど同じになるのになぁ」

 心の声がそのまま出ちゃったみたいで、樹深と由野が同時に俺を見た。

 「何が? 7cm? 何の事?」由野が?を沢山飛ばしながら聞く傍らで、樹深が親指と人差し指をだいたい7cmに広げて、それを俺の頭頂部にひょいと乗せる。

「こんな感じ? これくらいになるまで、あと何年かかると思う?(笑)」

 なんかやたらいじってくる樹深だけど、身長は今のところ俺と全く一緒。

「ばっか、そんな何年もかかるかよ。俺、ぜってーお前より高くなってやるからな、樹深」

「あはは、どうだろうね。春…柳内くんのお父さんの遺伝が強ければ、もしかしたら? うちはどっちも高いし~」

「こんにゃろ~。あとお前の柳内くんはキモチワルイ!」

「あ、せっかく気を遣ったのに。じゃあやっぱり春海ちゃんで(笑)」

「ば、やめろって!」

 俺達のやりとりに由野が大笑いして、それで先生にうるさいとまとめて怒られた。

 こんなに騒いだけど、柏木はこっちの様子なんて知りもしないようだった。

 柏木達の会話が俺の所まで届いたのは、ただの偶然? いや、俺が身長コンプレックスでただ敏感になってただけかもしれないや。

 あー、背の高い男になりてえ。





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